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グリモワールの欠片  作者: IDEI
11/51

11 ナマズと地震

2020/12/30 改稿

 学院での今日の授業は、本の管理をするために必要な人工精霊の作り方となった。


 もう既に、学院の教師も生徒と一緒に俺の授業を聞いているという始末だ。俺を除けば生徒は十一人。そこに教師が四人で十五人の生徒を持った先生をする事になっている。まぁ、ほとんどがここの書庫に保管されている魔道書の知識なんだけどねぇ。


 人工精霊は、簡単なものだと魔導書の頁を開いたり、契約した者にしか本を使えないようにする、などの管理者として役だってしてくれる。上級なものだと、どんな魔法がいいかアドバイスしてくれるモノもできるが、その知識の元が自分と言う事で、自分にはあまり恩恵が少ないというデメリットもあるけど。


 魔導書を誰かに託す場合にはとても役に立つし、それがないと、魔導書使いとしてあまり気が回らない怠け者、などの評価もあるようなので、特に後継に残すとか、他人に渡す場合は必須となる。


 今回は、目的の頁を一気に開いてくれるだけの簡単な人工精霊。ギルマスに渡した魔導書にも組み込んである。ギルマスのには、後で、ギルドマスターにのみ本が使える、とかいうような制約を追加出来るようにするために入れたんだけどな。大量の魔力を使うために、誰かに代役を頼む場合も考えたら、ギルマス専用の制約は邪魔になりそうなんで計画倒れ中だ。


 この人工精霊は、応用がかなり効く特殊なモノで、剣に仕込めば剣技を覚え、その後に剣を教える事も出来るようなったりする。ゴーレムの核にもなるし、人が来ると照明を点けるようなセンサーにもなる。

 ただ、あまり複雑な意志を持たせたりすると、自意識を持って暴走したりもするので注意が必要だ。


 自分の死んだ未来の事なんかどうでもいいと、いろいろ無茶をした魔法使いがいたらしいが、長寿化を実現出来たせいで、自分の尻ぬぐいのために奔走する事になったという笑い話もあるそうだ。


 これらは、学院の書庫にあった本にしっかりと書かれていたが、一般人には読めないように一種の封印が成されている事も判った。しっかりとした魔導書使いなら苦もなく読めるらしいし、俺なんかは爺さんの翻訳魔法が掛かっているために、その封印も意味がないようだけどな。

 そのしっかりとした魔導書使いという条件が、イマイチ判らない。魔力量? それとも、持っている魔導書によるのかな?


 それが判れば、学院の魔導書使いのレベルもあがるんだけどなぁ。


 とにかく、この封印のせいで、俺の仕事に魔導書を翻訳してからの参考書作り、というモノが加わった。要は、昔の本の内容をまとめて、余計な文言を省いて、辞書兼汎用集みたいなモノにすることだ。


 全部を書き写すのも大変だし、数冊の解説書を一冊の参考書にした方が、後々のためには楽で良さそうだからな。

 実際、書きかけの人工精霊の参考書もどきを学院長に見せただけでも、涙を見せて喜んでくれた。


 本の管理ぐらいは伝わっているけど、それ以外はかなり失伝されているようだ。おそらく、自分の研究成果を隠す事が流行ったため、後継に伝わらなくなったのだろう。書庫の封印を見るとそんな気がしてくる。


 失われた魔導書の技術を復活させる王子様とその側近、という大作戦のためには、封印された昔の本を読めるようになってもらって、こういった実績を積み上げて貰わないとな。頑張れ皆。


 本気で俺のために。


 午前中は本の頁めくりだけの人工精霊。午後は使用者を限定する判断をする人工精霊を作った。宿題は、人が来た時に反応する人工精霊と、人がいなくなった時には逆の反応をする人工精霊。廊下や玄関、トイレの灯りに便利なんだ。


 授業が終わったら魔導師のローブを着て、すぐにギルドへと向かった。


 ギルマスの部屋では、既に二人のギルマスと、王女が談笑していたようだ。入る前には笑い声も聞こえていたしな。


 王女は会話が苦手だけど、そこはチーコが活躍したらしい。


 上手く本音を隠せたのかな?


 「良く来てくれた。出来ればすぐにルーネスへと転移して貰いたいが、問題はないかね?」


 王女も早く帰りたいだろうしね。俺も素直に頷いて、転移の部屋へと向かうために体を引いた。実際は転移の出発点は何処でもいいんだけど、こういうのは様式美ってモノがあるらしい。


 転移用にあてがわれた部屋でファインバッハの側近とジーザイアの側近と合流し、俺を含め六人でルーネスの冒険者ギルドに作られた転移部屋へと転移した。


 そこでお辞儀をしてファインバッハの後ろに下がる。俺の役目はここまでだが、この後にどういう展開になるのかが判らない。

 一応、ここのギルマスであるジーザイアが王宮へと使いを出して、大まかな事を伝えてから王女を連れて行き、更に細かい内容を伝える、と言うのが大筋の流れだろう。そして、俺はファインバッハたちをエルダーワードへと連れ帰るまでが仕事だ。


 もしここで、ファインバッハが「じゃあ、後は頼むね」って、ジーザイアに丸投げしちゃったら、俺もここで一緒に帰れるんだけどなぁ。


 二人のギルマスは、ここのギルマスの部屋の窓から、町の様子を王女に見せている。ちょうど王宮も見える位置だ。

 しっかりと自分が帰ってきた事を実感出来て、王女も本当に安心している。後は城からの迎えを待つだけだ。


 「みなさん ありがと」


 チーコが王女の言葉を代弁する。二人のギルマスと俺への礼の言葉だね。俺は魔導師のローブを着ているけど、転移もした事だし、王女にはバレバレなようだ。一応、俺に気を使って、名前を呼ぶとかはしないでいるのは、王族としての嗜みなのかな。


 城からの迎えを待つ間は、ギルマスの部屋で、ギルドの近くに新しくできたという菓子屋の新作ケーキを味わおうという事になった。


 ここのギルマスは、厳つい顔して、酒飲みで、しかも甘党かよ。


 一応、控えている立場なんで、少し離れた位置にある椅子に座っていた俺にもケーキが回ってきたけど、この顔を隠したローブだと喰い難すぎて早々に諦めた。でも、アイテムボックスに入れといたよ。後でゆっくり味わおう。


 そして、けっこう早く城からの迎えの馬車が到着した。城としては速攻の対応だったようだ。


 城からの馬車は一台。それに王女と二人のギルマスが乗る。ギルドで用意した馬車に、俺やギルマスの側近が乗る。

 ファインバッハの側近は俺もよく知るお姉さんだったんだけど、ジーザイアの側近は初対面の事務系お兄さんだったので、俺はしゃべる事が出来ず、気まずい沈黙の馬車になった。


 そして城へと到着。初めての登城だね。エルダーワードの城はまだ入った事がない。魔導書のために関わるかどうか決めてないから、予定は未定だ。


 一応、武器とかを隠し持っていないか、と言う事で服の上から体をポンポンと軽く叩かれたけど、剣もナイフもアイテムボックスに入ってるんだよなぁ。残念。


 そして、感動の親子の対面。三人で泣いてる。第三王女であっても愛されてるみたいだ。


 俺たちはそれをかなり遠くから眺めているだけ。出番までは目立ってはいけないんだよなぁ。


 さらに、王女は一生懸命に随行した騎士たちの健闘を称えていた。基本的に役立たずだったんだけど、それでも命を落とした者たちを責めずに、手厚く弔ってくれと懇願していた。


 それからは、王族三人だけでお茶をして、姫の無事を喜ぶとか言う事で、更に俺たちは待たされる。それなら、いっそ、別室で待たされた方が良かったなぁ、と本気で思った。


 でも、これも様式美?


 お茶も終わって姫の無事を実感した国王が、詳しい事を聞きたい、と言う事でようやく俺たちの出番。


 それまで、俺は持って来た携帯ゲーム機で、こそこそとキャラクターのレベルアップに勤しんでいた、というのは重要な秘密だ。ゆったりローブがこんなに役立ったとは。


 ちなみに、携帯ゲーム機の電池は、修復魔法で復元させると電力満タンになった。スマホの方は太陽電池式充電器で充電してるけど、電池自体がへたってきたら、これも修復するつもりだ。

 魔法って便利だ。


 長く待たされたのに、実際に話を聞くとなったら、場所を変えるそうだ。な、何のために待たされたのか?


 マジで疑問だけど、王族との接見なんて、これでも早い方だそうだ。面倒くさいんだなぁ。


 場所は大きめの会議室、と言う感じの部屋。王を中心に、王妃と王女もいる。反対側に居るのは王子かな? 他には各大臣たちが雁首揃えて偉そうに座っている。そして、二人のギルマスが、遠く離れた場所の椅子に座り、俺と側近はその後ろに立って控えている。


 そして、二人のギルマスによって、詳しい話しが開始された。全ては俺が語った事なんで、なんかこそばゆい感じがしたが、本当に脚色されずに、事実だけを淡々と説明して貰ったのは気が楽になった。

 伝説の英雄扱いとかされたら、マジで逃げるよ。


 そして、状況の説明が終わり、内容に齟齬が無い事を王女が全面的に同意して終了。その後は、王女は王妃と退室して、捉えた捕虜の話になった。


 ちなみに、エティッシュという者は既にギルドによって捉えられたが、尋問を開始する前に殺されたそうだ。俺が捕まえた誘拐犯たちも、今日の朝には冷たくなっていたそうで、ルーネスのギルドに工作員が居る事が確実になった。しかし、それも予定のうちで、今は工作員を泳がせ、外と連絡をとるのを待っているそうだ。


 しかも、ここでそれを話すのも予定のうちだそうで、裏切り者を捜すために相当な裏操作が行われているらしい。

 やだやだ、こんな世界。


 で、おそらく貴族が関わっているのは確実なんだけど、完全に逃れられない証拠が出るまでは迂闊にその名を言う事も出来ない。可能性で話しをして、それが違っていたら命を持って償わなければならない、とかも多いそうだ。

 俺の罰則付き契約魔法で、王を裏切らない、って契約でもさせれば一発なんだろうけど、こんな所で、そんなに危険な魔法があるなんて知られたくない。絶対に俺を利用しようなんていう馬鹿が出てくるだろう。


 「どうですかな? ここは、姫様を救った魔導書使い殿に強力を仰ぐというのは」


 利用しようと言う馬鹿発見! というより、俺の力量を探るつもりかな? どっちにしても面倒だ。


 「冒険者の魔導書使い殿には感謝の言葉もありませんが、我らもまた、彼の者に劣るようなモノではありませんぞ? 他国の冒険者に、我らが内情に触れさせるというのもいかがなモノであると愚考いたすしだい。その辺りをどうお考えでありますかな?」


 あ、もっと馬鹿が居たんで助かった。所謂、王宮お抱えの魔導書使いだね。こいつら、転移ぐらいは出来るのかな? 封印された魔導書とか読めるのかなぁ? まぁ、藪をつついて蛇を出すなんて事が無いように、黙ったままでいるけどな。


 で、あーだ、こーだ、と意味のない言葉を無駄に吐きつつ、時間を無駄にすると言うというのはこういう事かぁ、と悪い手本の究極を見せられ続けた。

 良かった。魔導師のローブを着ていて本当に良かった。王宮にいる連中の間抜けさに顔を歪めているのを見られなくて本当に良かった。

 何時、俺への質問や要請があるか判らないので、会議の行方を無視してゲームをする事も出来ないのが辛かったけど。


 そんな拷問がようやく終わった、らしい。


 らしい、って言うのは、どんな結果になったか、意見がどこに落ち着いたかも判らないからだ。それで、どうして終了しようと言うセリフが出てくるんだろう?


 これが様式美? ますます判らない。


 とりあえず、俺たちは伝えるべき事は伝えたはず、だよなぁ? あの連中がしっかりと聞いていて、今も覚えているかどうか、なんてのは気にしない事にした。


 そして、今度は二十畳ほどの部屋に移動して、各大臣と個別に会談。


 ま、まだ続くのか。ファインバッハに付いていくだけの命令を仕込んだゴーレムと密かに交代するというアイデアは、俺の中で是非とも実行したい良案になっていった。


 でも、会議としては今までで一番マシだった。


 大臣の中でも、都市部を警護する役割や対外的な役職、野盗などを取り締まる役職、内部監査を行う役職という、今回の話しに必要な重鎮だけが揃っての会議となったからだ。


 ぶっちゃけ、始めからこの会議だけにしておけよ、時間と税金の無駄だろう、って心の中で叫び回っていた。


 で、ルーネスのギルドマスターが計画した事を、王城の特殊部隊みたいな組織がバックアップして、出来るだけ情報を集めるという事になった。残念だけど、今回だけで決定的な情報は集まらないだろう、というのがギルマスたちも含めての統一した意見だった。


 王女のエルダーワードへの親善は続行する事になり、その際、俺の転移でエルダーワードへと行き、ギルドが城の警備隊へ協力して移動させたという事にするらしい。城の兵士とギルドって、あまり仲は良くないってのが俺の常識だったけど、この世界では、そうでもないらしい。貴族もたまに冒険者登録するらしいし、かなり良好な関係を保っているみたいだ。


 で、俺の役割は飛行レースの三日前に王女と警備兵や女中などを転移で移動させる事。たぶん一回では済まない人数だと言う事で、その場で様子を見て、小分けする事になった。

 利用するのはギルドが用意した転移用の部屋。他でも構わないと思ったけど、場所を限定しておいた方がいろいろ便利なんだそうだ。


 もちろん、何処にでも転移出来ますよ、とは言わないで、後で、どうとでも言い訳出来る言葉遣いで言い含めていたけどねぇ。ギルマスって、詐欺師の才能も必要なんだな。


 最期に、国王、王妃、第三王女に挨拶をして帰る事に。色々な目があるからチーコも無言モードだったよ。かなり残念そうだったけどね。


 そして、ギルドへ帰り着くと、今度はギルド同士でどう動くか、という会議になった。


 王女の警護の切り札を俺にするか、それとも城の兵士に完全に任せるか、で一悶着。ギルドの腕利きをどう配置するかでまた一悶着。


 で、俺は、全レースにエントリーして、適当にレースをこなし、問題が発生した時はレースを放棄して王女の警護をしろ、と言う事になった。

 場合によっては王女を空に逃がすのが一番安全だろう、という理由からだ。


 城の警護の兵士は反発するだろうから、兵士には知らせずにその場の判断でそうなった、と言う事にするつもりだそうだ。魔導師のローブを着た、正体不明の魔導書使いを王女に近づけさせたくない、ってのが向こうから必ず出る意見だろう、と言う事でそうなった。

 目標物を強引に手元に引き寄せる魔法、というのも決め手になった。


 空飛ぶ従魔で近寄って、王女だけをかっさらって安全地帯に降ろす。


 それが俺の役割だ。事前に根回ししておかないと、とんでも無い事になりそうなんだけどなぁ。でも、大臣や貴族の中に犯人が居る、という可能性が高いので、これぐらいとんでも無い事じゃないと、守りきれないかも、って事でこうなってしまった。

 更に、レース中は何もしてこないで、レース後の宴の席でなにかあるかも知れないから、出来れば優勝しろとも言われてしまった。


 ホーンドラゴンよりはインパクトの少ない空飛ぶ従魔を捕まえないとなぁ。でも、早くないと意味がない? そんな従魔を都合良く捕まえられるかな?


 そのあと、なし崩し的に宴会になりそうになったが、俺のローブは飲食に向かないのでなんとか回避出来た。

 ギルマス同士は念話登録してあり、打ち合わせは簡単に出来ると言う事で、ファインバッハとその側近的なお姉さんを連れて、エルダーワードへと帰ってきた。


 「疲れた。本気で何もしていないのに疲れた」


 エルダーワードのギルドに到着して、へたった俺の第一声に、二人も同意の表情をしていた。


 「こちらでの話しのまとめは明日にして、今日はもう休んだ方がいいね、また、明日、学院が終わり次第こちらに来てくれ」


 まだ打ち合わせがあるのかよぉ、っと、絶望から叫びたくなったけど、とりあえず今は休める事が最優先、と言う事で宿へ帰る事にした。


 路地裏でローブを脱いで、ようやく一息つけた。


 足だけゴーレム作って、中で座って、ゲームしたり昼寝しても判らないようにできないかな。本気で計画する事にしたのは、当然の成り行きだよな?



 ぐっすり寝られれば、それで復活。それは若さの特権、って祖母ちゃんが言ってたけど、年とるとどうなるんだろうな。ぐっすり寝ても疲れが取れない? じゃあ、何のために寝るの、って言いたくなるよなぁ。


 学院では、頁を開かせたり、使用者を限定する管理に加え、術者の魔力を整え、効率を高める能力を持つ人工精霊を作る事にした。これは、これからの魔導書作りで、何度も利用するモノになる。

 基本的にこの定型を覚えておけば、普通の魔導書なら何の問題もない。作り方の参考書があれば作ってみる必要さえ無いほどだ。でも、本を後継に譲る時の契約者の更新や自分が死んだら本も滅ぼす、という状況も考え、この二つについて注意するために、基本定型であるこの人工精霊を作る事にした。


 追加条件を組み込むポイントは、人工精霊を本に組み込む時に術式を書き込んだ紙を本に置いて、その紙から組み込み行為をする事。

 紙を組み込まなければ普通の管理の人工精霊。紙に書いた書式によって、条件を追加出来るようになるわけだ。元々の人工精霊に組み込む方法もあるけど、安定している完成した人工精霊に組み込む方が、リスクは少ない。その分、本の管理から外れたような、とんでも無い事は出来ないけど、それはそれでいいと思う。


 本を開いた者を呪い殺せ、なんて術式は、本の管理には必要ないだろう。


 そして、午後の授業の途中で、全員が完成させる事が出来た。


 俺は、今回に必要だった術式と注意点を丸々黒板に書き出し、これをノートに取って、そのまま参考書にすればいいと言っておいた。

 かなり細かい所まで書いたんだけど、皆、一字も漏らさずに書き写している。


 皆の取っているノートが、皆のこれからの活動の重要な参考書になる。凄く、直接的で重要なノート取りだよなぁ。

 これも祖母ちゃんに仕込まれた言葉だけど、俺の学校でそれを実感した事が丸でなかったのは、俺が不勉強だったせいなのかな?


 今回で人工精霊は終わり。今後作る魔導書は、今回の人工精霊を組み込んで契約して使用する事になるわけだ。そして、明日からは、魔導書使いにしか使えないレベルの術式に入ると宣言。今までの生活魔法レベルのノートは、疑問に思った時にすぐに開いて内容を確認出来るようにまとめておいた方が捗るぞ、と伝えて、そのやり方を少しだけ披露して、授業を終了した。


 そして、書庫へと行きたいけど、我慢してギルドへ向かう。


 念のためローブを着て裏口から入る。もう、ほとんど裏家業の人だよねぇ。目立ちたくない、ってだけで、こんなに苦労するとは。

 もっとも、目立ったら、もっと苦労しそうだんだよなぁ。


 ギルマスは書類仕事がたまっているので、もうしばらく待ってくれと言われた。


 仕方なくローブを脱いで、普通のFクラス冒険者として掲示板の依頼を見る事に。


 そこに見つけたのは、ギルドでは伝説級の依頼。「うちの猫さがしてください」だった。ああ、受けたい。猫だと言われてさがしたら、猫という名の虎だったとか、同じ柄の猫が百匹居たとか、猫をさがして歩いていたら、いつの間にか王国転覆を目論むテロリストを捕まえる事になるとか。そんなエピソードが隠れているかも知れない特殊イベントだよな。な?


 まぁ、家猫が居なくなる、ってのは、死期が近いか、交尾目的か、外を歩いていたら野良猫と思われ、そのまま誰かの家にお持ち帰りされた、って所だろう。交尾目的だったら、スッキリしたら帰ってくるだろうけど、それ以外だとまず見つからないんだよなぁ。


 次に見つけたのは、ダンジョン攻略のパーティを組みましょう。と言うモノ。おい、Fクラス冒険者の依頼用掲示板に貼る内容じゃ無いだろう。


 ギルドを通して貼ったモノじゃなく、勝手に貼ったモノだと見られる。近くに居たお姉さんに確認した所、確かにギルドの確認印も無いし、勝手に貼ったモノだと怒って剥がしていた。よく見るとEランクやDランクにもそれがあり、お姉さんが剥がし始めると慌てて外へ走っていく男が居た。


 新人を食い物にする犯罪冒険者かな? ちょっと気になったんでこっそりと付いていく事にした。一時的に、静かにしていれば有効な、姿を消せる魔法が俺の魔導書にある。本来はダンジョンで休憩するためとか、待ち伏せ用なんだけどな。もちろん、こういう状況も主な目的として記述されている。


 で、後を付けて行くと、ギルドに近いとある建物に入っていった。店ではなく、完全に民家。奥で誰かと合流したようなので、聞き耳の魔法を使って中の会話の内容を探ろうとした。


 その会話によると、ルーネスのテロリストのようで、エルダーワードで動く時の捨て駒をさがしているようだった。ダンジョンに入る前に実力を見るとか言って、スパイ活動でもさせるか、大金を与えて、犯罪行為をさせるか、という所だろう。


 様子を伺った所、罠にはまった新人冒険者も見つからなかったので、そのまま離れて、ギルドに戻っていった。ギルマスに報告しておけば、逆に罠を仕掛けるか、あっさりと潰すかしてくれるだろう。


 で、ギルドに戻ってギルマスの所へ行ってみたが、まだまだ忙しくて、これからエルダーワードの王城へと行く事になったらしい。一緒に来るか? と言われたけど、首を左右に思いっきり振り回して勘弁して貰った。

 テロリストの事はお姉さんに詳しく話しておけばいい、と言う事だった。


 時間が出来たので、ガンフォールの所へ顔を出す事に。学院に戻って書庫に籠もるのと比べて、かなりグラついたんだけど、こっちの方が緊急性が高いからな。


 で、ガンフォールの船場に到着。


 俺の作った急拵えの造船ドックで、かなりの作業が進んでいた。なんと、立派な船が三艘もあり、魔導機関もかなり大きめなのが整備されていた。


 「ガンフォール! 調子はいいようだね」


 「おう、ヤマト! 見ての通りだ。来週のレースには三隻はエントリー出来るぞ」


 見ると、俺が預かると言っておいた魔導機関が二機、端に寄せられていたけど、見た目が変わっているように見える。


 「あれ? この二ついじった?」


 「おう。風を強引に前から後ろに流す、ってヤツだろう? 術式はヤマトが書き直してあったからな。後の組み立てはやっておいたぞ」


 「それは助かる。動かしてみてもいいか?」


 「儂も動かしてみたが、風が起こるだけだぞ?」


 「とにかく、やってみるよ」


 そして、魔力伝導線を握ると、確かに風が起こった。けっこう強い風が巻き起こったけど、本当にそれだけだった。


 「ガンフォール。酒樽かそれみたいなのは無いか? この魔導機関がすっぽり入って、まだまだ余裕があるようなのがいい」


 「そんなデカイ酒樽なぞ無いわい。確か、外のスクラップに、似たような筒があったぞ」


 その言葉で飛び出し、積み上げられた飛行船の山をさがし回った。そして、確かにいい物を見つけた。


 一度造船ドッグに戻り、魔導機関クレーンを引っ張ってその金属製の筒を運んだ。


 そして、筒の中央になるように魔導機関を設置し、魔力伝導線を握って魔力を流し込んだ。すると、筒の中だけで風が起こり、送風機のようになった。

 それを確認した俺は、アイテムメーカーを使い、先頭部分を閉じて、先頭部分に近い所の上下左右に風の逃げ道を作りつけた。ちゃんと、真後ろへ排出するように誘導しある。そして、風が入るのは真後ろの大きな開口部から。


 つまり、真後ろから入った風が先頭部に当たり、回り込んで真後ろへと逃がされるという構造だ。


 現代日本のプロペラ構造の推進器とは構造が逆になる。


 なにしろ、風を動かしても反作用が起きないからだ。帆を立てて、そこに風魔法で風を起こせば、何の障害もなく前へ進む。

 これがこの世界の風魔法だ。


 現代日本だと、船の後部に巨大扇風機を立てて、その風を帆に当てると前に進むか? という質問をするような感じなんだよな。


 なら、この世界で、帆に風を当てた方が楽なんじゃない? とも思ったけど、それだと帆を操作する事に人手が必要になる。でも、この風圧式推進器なら、全ての操船を一人で出来るし、なにより、帆で進むよりも速度が出る。


 出来上がった風圧式推進器が、始めの一瞬で飛んで行ったのを見たガンフォールが目を輝かしている。それはもう、綺麗なキラキラだ。まぁ、ガンフォールの顔だから綺麗には見えないんだけどね。


 「おう、おう、おう! こいつを飛行船に組み込んで、船を無理矢理前に進めよう、ってんだな?」


 「左右に一機ずつ付けてやれば、左右に曲がるとかも出来るしね。出来れば回転させてバックが出来るとかだと、もっといいね。右や左に向けられれば、強引な真横移動ってのも可能かもね」


 「くっくっくっく。すげぇぜヤマト! こいつぁ、昔の飛行船なんざ目じゃねえモノになるぜ!」


 「天辺取らなくちゃな」


 「おうよ!」


 そして、まずは魔導機関を使った風圧式推進器の製作となった。まぁ、術式は書き込んであるし、構造は単純そのもの。後は船に取り付ける方法に、かなりの工夫が要る、って事だけ何だよな。


 あとは鍛冶仕事のドワーフに任せておけ、と言われ、俺は追加で必要になりそうな空飛ぶ従魔をさがす事にした。


 一度、町の外へ転移して、そこから角竜を呼び出す。ガンフォールの船場とはいえ、街中からホーンドラゴンを飛ばすわけにもいかないしなぁ。


 そして飛び出し、目指すは険しい山がある方向。そういう地形の方が、空飛ぶ魔獣系統が多いと俺が勝手に想像しただけなんだけどな。


 で、実際に来てみると、俺の角竜を見ただけで、ほとんどの魔獣が隠れるか、逃げていってしまった。


 強いって、孤独なのね。


 角竜をねぎらってカードに戻し、今度は麒麟に出てきて貰う。アパート一棟はありそうなホーンドラゴンより、馬一等分ぐらいの麒麟の方が警戒されない可能性が高い。

 はっきり言って、強さではホーンドラゴンに迫るとは思う。俺と対峙した時は、体が完全じゃなかったらしいしけどな。まぁ、野生では、お互いのコンデションが万全の状態で戦いに望む、なんていう正々堂々なんて甘い事は言えないってのが当たり前だから、俺に負けたのも、しっかりとした負けなんだそうだ。


 とにかく、麒麟に乗って空を飛び、空を飛ぶ魔獣探しを再開した。


 でも、見つけちゃいけないモノを見つけちゃいました。もうすぐ夕飯の支度が始まる頃だよ? 俺も、宿の夕食を楽しみにしてるんだよ? だから、時間なんか掛けられないんだよ?

 なのに、なんで? なんで、険しい山岳地帯のど真ん中で、暴れている、城のサイズはあるナマズを見つけちゃうんだろうなぁ。


 さて、帰ろうか。今日の夕飯は何かなぁ? 宿のおいちゃん特製の煮込み料理は、どれもおいしいんだぜ。


 ねぇ? 麒麟さん? なんで凄い勢いで突っ込んでいるのか教えてくれるかな?


 え? 助けなくちゃ? 踏み潰されていく、小さな命が大事だって?


 うう、トラブルダイバーの名は、確実になりそうだ。


 とにかく、まずは相手のステータスを下げないと、こっちの攻撃が届かないだろう。


 「呪の力によりて、我が敵を縛る呪文! スペルバインド! スピードダウン!」


 はい、あっさりと弾かれました。しかも、暴れ回っているナマズは、俺なんかには気付いた様子もない。なんで暴れ回っているんだろう。って、水の中の生き物が、水が一滴もない地上に放り出されたら、暴れるしかないよなぁ。


 でも、ナマズって淡水魚だろ。海じゃなく、このサイズのナマズが生きていける川とか湖があるって事?


 「麒麟! もっと高く飛んでくれ!」


 周囲の地形を確認。あった。かなり遠いけど、海と間違うほどの湖だ。


 って、どんだけ離れたんだよ。三十キロぐらい離れてるぞ。


 ほとんど絶望的だけど、まずは出来る事を試そう。まずはアイテムボックス。本当にギリギリだけど、入るかも知れない。けど、意識がないとか、受け入れるつもりが無いとアイテムボックスには入らない。山の真ん中で苦しがってるんだから、全身で拒否の意識を持っているんだろう。


 ええいままよ。


 と、麒麟に近づいて貰ってから、麒麟から飛び降り、ナマズの背中に接触。暴れているから、触れた一瞬で取り込まないと弾き飛ばされる。


 そして、はい。弾き飛ばされました。


 まるで大型トラックに突き飛ばされたみたいだ。意識が朦朧とする中でヒールを唱え、麒麟に回収して貰って命を繋ぎ止めた。

 うう、本気でやばかった。赤竜の時の特攻で調子に乗っていたようだ。反省。


 でも、アイテムボックスに入れようとした行為は成功していた。でも、入らなかったので、拒否の力が俺の力を上回っていたんだろう。


 仕方ないのか?


 ここは覚悟を決めるべきか。


 「麒麟! 倒すぞ!」


 その声に、麒麟もまた覚悟を決めた様だ。


 「極寒なる氷の大地を凍てつかせる氷の大槍! アイスクルランス!」


 「アイスクルランス!」「アイスクルランス!」「アイスクルランス!」


 直接当てるわけでも無く、ナマズの周りに氷の槍を打ち込んでいく。だけど、相手がデカ過ぎて、打ち込んでいった先で槍が見えなくなっている。

 槍は確かに何処かに突き刺さったんだと思うよ? だけど、上から見ていると、何処に突き刺さったのかも判らないほどの、大きさの差がある。


 あ、諦めたくなった。


 こういうデカ物をどうにか出来る魔法って無いの?


 そこに、俺の記憶に触れるモノがあった。


 「大陸並みの大地を作り、動植物が生きていける空間を維持する方法」


 頁を開いてみると、必要な物が列挙されていた。

 大陸並みの土地の場合、人の頭ほどの魔石を五つ。火、土、水、風、木の魔石で構築する。

 構築する広さによって、魔石の大きさは変わる。家並みの広さなら指でつまめる程度の魔石でも可能。城並みの大きさなら、親指と人差し指で輪を作った時の大きさぐらいでいい。都市並みの場合は握り拳程度は必要。

 シークレットルームは術者の命と共にあるので魔石は不要だが、これは魔石が存続する限り存在できる。なので、短時間で消すつもりなら、傷ついた魔石でも充分。


 と言う解説文を読んだ。魔石の持ち合わせはある。都市並みの空間を作り、そこに大ナマズを落として、さらに、湖まで行ってから空間から落とす。これで充分かも。


 そこで、さらに気になった事が出来た。もしかして、魔導書と関係がある? 俺は、ばらけた魔導書の目次を開き、「魔導書よ、その身の一部の在処を示せ」と唱えた。


 目次の文字が光り、その光は大ナマズへと進んで行った。


 目次には、「アースクイック」。ナマズで地震かよ。ええい、突っ込みどころは無視。


 「大いなる災い、大地に生きるモノを拒否する混沌の中より生まれた言葉よ。汝のあるべき場所へ帰れ!」


 はい、弾かれました。麒麟の時と同じで、ケジメでも付けないと駄目なのかな。


 なら、やっぱり一時退避出来る空間を作るしかないわけだ。俺はアイテムボックスから魔石を取り出すと、ばらけた魔導書を構えた。


 「開け、魔の力を柱にして、偽りの世界を作り出し、そこに命の営みを築く呪文」

 「クリエイト アナザーワールド!」


 眼下に見える巨大なナマズが、一時的に入るだけの大きさと考えて、魔力の消費を抑える。でも、やっぱりかなりの脱力感が襲ってきて、意識が明滅する。


 い、意識って明滅するんだぁ。


 余計な事を考えてる余裕は無い、ってことで、頭を振って現実に戻る。


 そして、小さな世界が作られた事を実感した。


 目には見えない。触っているわけでもない。でも、判る。そこに、ここには存在しない空間がある。判る、その空間の開き方。閉じ方。そして、壊し方。

 確かに存在するが、儚く脆い存在。


 えっと、感傷に浸っている場合じゃないな。


 「麒麟! 出来るだけ近寄って。なるべくなら下の方に」


 相変わらず暴れ回っているので、どのくらい近づけるかも不明だ。でも麒麟は一生懸命やってくれた。そして、目の前にある山のような塊を見上げながら、新しく作った空間を開いた。


 ナマズの真下に。


 そして、一気に落下。すぐに空間を閉じて、他の物が落ちないようにもした。


 その一瞬で、周りはかなり静かになっていた。


 気付かなかったけど、相当煩かったようだ。そして、新しい空間に意識を向けると、向こうが煩かった。相変わらず、暴れているようだ。


 「麒麟。まずはあっちの湖へ向かってくれ」


 俺の要請に応えて、広い湖まで全力で走ってくれる。


 湖は本気で広かった。かなりの上空に居るはずなのに、向こう岸が見えない。もし海だったら? なんて疑問もあったけど、湖の真上で嗅げる匂いは、潮の匂いではなく水の匂いだ。間違いなく淡水湖なんだろう。


 間違っていたら? その時は、またアナザーワールドの中に入って貰おう。


 と言う事で、世界を開いて、ナマズを落とした。


 うん。想像するべき事だったなぁ。とんでも無い水柱が巻き起こって、まるで滝の中に落とされたような状態だ。麒麟は一生懸命走っている。俺は振り落とされないようにしがみついているだけで精一杯だ。


 そして、ふと、体が軽くなった様な気がしたので目を開けると、水柱の範囲から抜け出たようだった。まだ、後ろの方ではドドドドドという地鳴りのような音が響いている。


 ようやく麒麟も走るのを止め、その様子を眺めている。


 「落ち着くには、もう少し掛かりそうだな」


 そう言ったら、麒麟は再び走り出した。向かう場所は、元の、ナマズが暴れていた場所。


 近づいて行くと、かなり悲惨な光景があった。


 木も、岩も、動物も、皆、一様にすりつぶされていた。もう、生き物に見えない。単なるシミだ。おかげで気分が悪くなる事は無かったけど、さすがにこれでは、出来る事は何も無い。

 範囲はかなり広くて、町二つ分ぐらいはありそうだ。そこにたった一人と一頭では、絶望的な差が存在した。


 でも、麒麟は走った。生き残りが居るかもと。


 そして、暴れていた最外縁部で、いくらかの生き残りを見つけた。でも、生きているだけだろう。体の半分が無くなり、虚ろな目を空に向けている大きなワシが居た。赤黒い羽根をした、孔雀のような体型の大きな鳥が居た。頭の半分を削られたように血まみれになった白馬も居た。


 既に死んでいて、魂だけの状態で留まっている魔獣も居るようだ。血まみれで、後、ほんの少しで楽になるんじゃないか? という動物や魔獣たちも居る。その死に向かう魔獣を前にして、麒麟は俺を見つめてきた。


 けっこうな数が居る。ついさっき、アナザーワールドを作ったばかりの俺に、魔力は残っているかな。


 やっぱ、気絶一直線なんだろうなぁ。


 俺は、麒麟のお願いを聞く事にした。俺が気絶したら、起きるまでぐらいは守ってくれよぉ。


 「お前たち! お前たちはもうすぐ死ぬ。死ねば、その苦しみも無くなるだろう。だが、俺のカードとして生きる事も出来る。カードになって生きるか、死んで楽になるか選べ!」


 はたして、俺の言葉が通じて居るんだろうか? あ、翻訳の魔法がかかっているんだっけ。でも、元々言葉を持たない獣や魔獣に、どれだけ通じるんだろうか。


 そう思っていると、ほとんど死にかけていた連中が、俺の前にやって来た。もしここで倒れたら、その瞬間にも命の糸が切れてしまう程だというのに。魂だけの状態で俺を見つめているのも居る。


 もう、なるようになれ!


 「いにしえの契約によりて、我が従魔に永遠の契約と、永遠の命を! チェンジ! カードワールド!」


 俺は、開いた頁にありったけの魔力を注ぎ込み、呪文を唱えた。複数対象だけど、どうにかなるのかな? もう、一頭ずつ呪文を掛けている余裕なんてないから、いっぺんにやってしまえ、と自棄になっていた。


 そして、当然だけど、俺の目の前が真っ暗になっていった。


 ゴチン!


 いきなりの後頭部への痛みで目が覚めた。


 あれ?


 どうやら、気を失って倒れた時に、頭を打った痛みで目が覚めたようだ。


 痛む後頭部をさすりながら体を起こすと、覗き込むような麒麟の姿だけだった。ついさっき、目の前に来ていた魔獣たちが居ない。

 そして、体を起こした拍子にパラパラと落ちるカードがあった。


 カードには、「鷲獅子」「不死鳥」「一角獣」と書かれている。


 えーと、見なかった事にしていいかな? ほら、きっと疲れているんだ。大きな魔術も使ったしなぁ。


 「はっははは。………。他の方も助けに行こうか」


 そう言って、麒麟に跨った。


 他は、手遅れが多かったけど、ヒールの連発でけっこうな数の魔獣を救えた、と、思う。全体的な被害がどのくらいなのか、ってのも判らなかったしなぁ。


 で、カードも増えてしまった。「鷲獅子」ってグリフォンだったけ? これが全部で3枚に。「雷大山羊」「岩巨人」「竜」。早く帰らないと、夕飯喰い損ねちゃうなぁ。


 きっと、全部使い道無いだろ? 一枚でも町中大騒ぎさ。ぐすん。


 麒麟に乗って、ナマズを投下した湖に戻った。もう、気絶寸前ではあるけど、魔導書だけは回収しないとならないしなぁ。


 で、頭の方が半分ほど出たままになっているナマズの前に来た。けっこう静かなんだけど、気絶とかしてるのかな?


 「おーい、アースクイック! 起きてるかー?」


 『その名で我を呼ぶのは誰ぞ?』


 わ、まさか返事されるとは思わなかった。


 「俺は、爺さんの代理だー。大人しく本に戻ってくれー!」


 『そうか。なるほど、そういうわけか。ふむ。体を持つ事に興味を持ったが、辛い事、苦しい事ばかりであった。もういい。本に戻ろう』


 「お前みたいに、体を持ちたがっている紙片は多いのかー?」


 『けっこう居たぞ。もういいだろう、さっさと回収してくれ』


 「わかったー!」


 俺はばらけた魔導書の目次を開いた。


 「大いなる災い、大地に生きるモノを拒否する混沌の中より生まれた言葉よ。汝のあるべき場所へ帰れ!」


 大ナマズは光になり、そして本に戻っていった。「アースクイック」の呪文が戻った。



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