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グリモワールの欠片  作者: IDEI
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01 魔法使いのはじまり

2020/12/30 改稿板を再アップしました

異世界 アンド 魔法モノ のテンプレートみたいな作品になってます

その分 真新しい内容では無くなってますねぇ…

まぁ 脳天気な主人公が 魔導書を片手に 好き勝手する異世界冒険モノ として 見てくれればOKです

 コンコン


 ドアをノックする音が響いた。固い、オーク材の年季の入った扉だ。乾いた音が響くが、その中には重厚な歴史を感じさせる音も含まれていた。


 普通、こういうドアをノックする時は、金属製のドアノッカーを使うんじゃないのかな? ああ、あれは屋外用だから、部屋の中では手でノックするしかないか。


 コンコン


 それにしてもいい音色だ。


 ぐっすりと寝たいはずなのに、その音は心地よく、何度も聞いていたいような気になる。


 明日提出しなければならないレポートをでっち上げ、再提出確実なのは諦め、俺の六畳間の和室で布団に倒れ込んで、明日までのわずかな時間を現実逃避しようと、うつらうつらとしていた時に、そのノックの音が聞こえてきた。


 俺の部屋は、完全和室型になっている。布団も畳の上に敷いているし、机も和机だ。あと部屋にあるのは和箪笥のみで、秘蔵の本やパソコン、ゲーム機、テレビ、オーディオは全て押入の下の段にある、秘密でも何でもない秘密基地にセッティングされている。


 完全和室とか言ったけど、エアコンは付けてもらえたので、夏冬安泰で心の底からリラックス出来る空間は確保しているってわけだ。


 これは、この家で一番偉い祖母ちゃんの鶴の一声が原因で、調理場とトイレ、風呂以外の場所は、畳と漆喰の壁、障子に襖という、今時貴重がられる様相になっている。


 フローリングの床に木の扉、ってのは憧れちゃうよ。


 コンコン


 そうそう。個人の部屋にはいる時は、こうやって木の扉をノックするんだよねぇ。


 木の扉?


 家にある木の扉って、玄関の引き戸か、トイレのドアぐらいだぞ? トイレはこの部屋から二部屋分離れた、ちょっとした離れになっている所にある。さすがに、ここまでノックの音が聞こえるとは思えないし、さっきから聞こえるノックの音は、すぐ近くに音源があるように聞こえている。


 俺は眠気と怠さに抗いつつ、目を開けて体を起こした。


 灯りは付けっぱなしだったので、部屋の中は明るい。ああ、寝る時はしっかり消しとかないと、眠りが浅くなって目覚めが辛いんだよなぁ。


 で、周りを見回しても、いつもの俺の部屋だ。押入の中はカオスだけど、部屋の中はスッキリと何も無い。部屋にマッチした和箪笥と和机と、布団だけが自己主張している部屋だ。


 以前部屋に招いた友人は、この部屋を見て「旅館かよ」って言っていたけど、押入の中を見て、「ああ、お前の部屋だなぁ」と感心していた、紛う事無き俺の部屋。


 コンコン


 その何も無い所から、ノックの音が聞こえた。


 え? これって、所謂ポルターガイスト? こういうのって、返事しちゃ駄目なんだよね?


 コンコン


 「どなたですかぁ?」


 しっかり返事しちゃったよ。まぁ、それが俺らしい、ってよく言われるんだけど。


 そして、ノックの音が聞こえなくなった。


 あ、次のステージに移行しちゃった?


 なんと、空中に切れ込みが入っていくのを見ることになった。こんな現象、一生の内に一度でも見られるモノじゃないよなぁ。

 その切れ込みは少し小さめの窓を作ると、中央から観音開きに空間ごと開いていった。


 怪奇現象なんだけど、ちょっと感動してしまった。


 そして、その開いた窓の内側は、家の中という雰囲気だった。


 雰囲気って言ったのは、その窓は高さが一メートルも無いような小さな窓に見えたのに、その窓が家の扉を想定しているような大きさの中身だったからだ。

 つまり、家のミニチュア? そんな中身が、空中に切り開かれた窓? から覗き込むことが出来た。


 家のミニチュアを空中に出して、一体何をしたいんだろうなぁ。


 なんか、かなり冷静になって、目も覚めてしまった。始めのインパクトで眠気も完全に消え、次に何が起こるのか? という期待でワクワクしちゃってる。少なくとも、目の前の光景に危険は感じない。


 すると、ミニチュアの家の中で、影が動いた。


 何か居る。


 でも、まぁ、この大きさだしなぁ。大あわてするほどの危険も感じないので、そのまま次の変化を待つことにした。


 そして、小さな家の中を歩いてくる影が見え、その後、その影の本体が姿を現した。


 身長は二十センチと少し、と言う感じの小さな爺さんだった。


 髭は真っ白なのに、かなりの量と長さがあり、腰のベルトの下まで伸びていた。頭にはまるでナイトキャップのような帽子を被り、背中は真っ直ぐで足取りも確かなのに杖をついて歩いていた。

 服はローブ? 貫頭衣? そんな感じのワンピース。西洋のおとぎ話に出てくる魔法使いみたいだ。


 「よく答えてくれたのぉ」


 それが小さい爺さんの第一声だった。


 「なんだ? あんた?」


 落ち着いて様子を見ていると思っていた俺は、意外にもかなり緊張していたようだ。ま、あんだけ怪奇現象が起こっていたら、それも当たり前だけどなぁ。


 「儂は、そう………」


 なんか考えてる。


 「まぁ、儂の事は好きに呼んでよい」


 「じゃあ、チョモランマ清掃員っと呼ぶことにしよう」


 「………、チェンジ!」


 気に入らなかったようだ。好きに呼んでいいって言ってたのになぁ。


 「じゃあ、ひよこ雄雌鑑定士!」


 「儂のことは、単に爺さんと呼んでくれればよい」


 何故、好きに呼んでいいって言ったのかが謎として残ったけど、話が進まなそうだったんで次の質問をする事にした。


 「で、なんだ? あんた?」


 あ、始めと全く同じ質問になってしまった。まぁ仕方ないか。


 「ふむ。実はのぉ。儂は、儂の仕事を手伝ってくれる者を探しておった」


 「職業安定所に依頼すれば、希望者を紹介してくれると思うぞ?」


 「適性が必要で、誰でも出来るというわけではないのじゃ」


 「適性?」


 「そうじゃ。お主は、儂からの問いかけに答えたじゃろう? その、儂からの問いかけが判る者にしか出来ない事なのじゃ」


 「問いかけ、ってさっきのノックのことか?」


 「お主にはノックに聞こえたんじゃな。これは適性の有る者でも様々に感じるようでな、囁きが聞こえた、とか、体全体が揺さぶられた、などの先例がある」


 「へー」


 「更に、儂からの問いかけに応えることが出来る者も少なくての。お主が応えてくれなければ諦める所じゃったわい」


 「えっと、仕事を手伝ってくれる者を探していた、って言ってたよな? 俺、手伝うとは言って無いと思うんだけど?」


 「そうじゃったな。じゃが、手伝ってくれたのなら、相応の報酬を用意するぞ。一生かかっても使い切れない程の金。この世界で最高の権力。不老不死でも構わんぞ」


 「金は嬉しいけど、そんな金持ってたら、金の出所とかで問題になりそうだな」


 「不自然にならないように、金が入ってくるシステムを言ってもらえれば、その通りにするぞ?」


 「この世界の最高権力って、存在しなかったような気がするけど?」


 「一度世界統一してしまえばよいだけの話しじゃ。そのトップにお主を据えるだけじゃから、金よりは簡単かものぉ」


 「不老不死って、始めの二十~三十年ぐらいはいいけど、その後は永遠と続く地獄だっていう話しを聞いたことあるけど?」


 「ふむ。単なる人の身ではそうじゃろうな」


 「報酬が微妙すぎるんで、この話しは無かったことに……」


 「ほっほっほ。別にこのどれかと言うわけでも無い。お主が望む形でよいぞ。じゃが、人の意識全てを変えるとかは、さすがに難しいがのぉ」


 「人の意識全て? ってどういう状況?」


 「例えば、世界中の者たちが、お主に対して無条件に服従し、命令を甘受する、という世界にする、とかじゃな」


 「それは、それで、気持ちの悪い世界だな」


 「ああ、じゃが、魅了の術で個別に他人を好きにすることは出来るぞ。無責任ハーレムは男の夢じゃろう?」


 「夢に見てもいいとは思うが、叶えちゃいけない夢だとも思うぞ?」


 「ほっほっほう。若いのぉ。お主、いくつじゃ?」


 「十七だけど?」


 「おなごを知っておるのか?」


 「うっ、これからだ、これから」


 「まぁ、くだらないことは置いておいて」


 「く、くだらなく、ないやい!」


 「報酬については、後々考えるとして、儂の仕事を手伝ってくれるかの?」


 「どんな仕事かも聞いてないんだけど? それに、時間が掛かるようなのは無理だしな。バイトは禁止されてないけど、俺的にはバイトをする成績的余裕が無いしなぁ」


 「それは心配いらんよ。仕事が何十年と掛かろうと、終わったら、今、この時に、その若さのまま返してやろう」


 「あんた。神か、なにかか?」


 「神を目指している魔法使い、と、言っておこう」


 「で、仕事の内容は?」


 「実はのぉ。儂が作ったり、収拾しておった魔法を記した本がばらけてしまってのぉ。更に、間の悪いことに、暴走させておった転移魔法に吸い込まれてしまったんじゃ。儂も回収に飛び回っておったんじゃが、別口で急な仕事が入ってしまってのぉ。魔法書を回収しないと、どんな影響が出るか判らんのでな。儂の代わりに本を回収出来る者を探しておったわけじゃ」


 「急な仕事、ってなんだよ?」


 「儂の知り合いが、地獄の門を開けてしまってのぉ。ちと、厄介な悪魔が軍団を率いて出てこようとしているようじゃ。他にも知り合いに声を掛けて、皆で地獄の門を閉じる算段になっておるのじゃが、どう見積もっても百年は掛かる大仕事になりそうなんでな。それで、本の回収を頼みたかったんじゃ」


 「な、なんか、とんでも無い言葉が簡単に出てきたような感じだけど、り、理由は判った。けど、俺はあんたみたいな魔法使いじゃないから、そう簡単にあんたの代わりなんて出来ないと思うぞ?」


 「適性が必要と言ったじゃろ? 本を回収すれば、回収した魔法をお主も使えるようになるはずじゃ。実力が合わないモノは、力量を付けてからじゃないと使えないと言うモノもあるんじゃが、ほとんどのモノは今のお主でも使えるはずじゃ。それに、儂からも基本的なモノは与えておくつもりじゃしな。使いようじゃが、その基本的なモノだけでも、回収に問題は無いはずじゃよ」


 「その基本の中に、転移の術みたいなモノはあるのか?」


 「一度行った場所にマーカーを置いておけば、そこに何度でも、というのはあるぞ」


 「じゃあ、移動は基本的に歩きってか?」


 「ほとんど歩かなくても世界中を移動出来る手段も、基本に含まれておるよ」


 「危険は?」


 「ある!」


 「をい!」


 「それらにもしっかり対応しておるよ。何しろ、儂が行くつもりだったわけじゃ。その儂が必要だと思ったモノは入れてあるわい」


 「な、なるほど」


 「で、どうじゃ? 報酬は、余程のことがない限り、思いのままじゃ。時間もあるし、お主にはいい経験になると思うんじゃがな?」


 「もう少し、詳しい事とかは、聞けないのか?」


 「内容にもよるが、ほとんどは仕事を引き受けてくれた場合にのみ、話せる内容ばかりじゃでな」


 「そっかー」


 ちょっと考える振りをしてみる。まぁ、気持ちは固まっているんだけどな。


 「最期に一つ。今までの話しに嘘偽りが無く、俺を仕事のパートナーとして優遇してくれることを、約束出来るか?」


 「わざわざ、お主一人を騙すために、こんな所まで来ぬわい。パートナーとして優遇、というのは何処までのモノかは判らぬが、儂の力の一部を分け与えることで成立しておると思うがの。だから、今の約束は、契約という形をとっても構わぬぞ」


 契約? 魔法使いの力を使える契約?


 「け、契約はいらない。俺はあんたを信じるよ」


 「ほっほう。嬉しい事を言ってくれるが、他ではそんな甘い考えはせんようにな」


 俺は、単に、魔法少女になりたくなかっただけなんだけどな。


 「俺の方で、何か準備するモノはあるか?」


 「普段のままでよいぞ」


 「で、仕事は今すぐ?」


 「そうじゃ。『今』すぐ始めて、完了したら『今』に戻ってくるわけじゃ。あ、ああ、リタイアしてしまっても構わんぞ。ほとんど諦めていたしのぉ。まぁその場合は『今』に戻ってこれるが、報酬だけは無しじゃな」


 「場所は? どこら辺に行けばいいんだ?」


 「場所はこことは理を別にする世界。いわゆる異世界じゃ」


 「この世界のどこかにある秘境とか、遠い星の果てにある他の星、ってワケじゃ無く、理を別にする異世界?」


 「そうじゃ。単純移動では到達出来ない異次元と言うヤツじゃな」


 「異世界かぁ。そうじゃないかと薄々感じてたけど。で、そこで俺は生きていけるのか?」


 「お主には色々な強化の魔法を掛けてから送り出すからの。よほどの大怪我でもしない限りは安全じゃよ」


 「よし、判った。ちょっと待ってくれ、着替える!」


 今の格好は寝間着にしているスエット。とりあえずシャツにジャケット、Gパン、ウェストポーチに財布、スマホと太陽電池充電器を入れた。他にも必要なモノが出てきたら現地調達するしか無いな。

 玄関からトレッキングシューズを持ってくる。なんか、異世界巡りの旅になりそうだから、頑丈なのがいいだろう。


 「準備は終わったか?」


 「あ、言葉とか、魔法でどうにかなるのか?」


 「読み書き会話については心配要らんよ」


 「金とかは稼げるのか?」


 「儂からの力を使えば簡単に稼げるじゃろう。慣れれば贅沢も出来るはずじゃよ」


 「よし! 準備完了! 後はどうすればいい?」


 「儂からの力の譲渡もあるんでな。まずは眠って貰おう。目覚めた時は、第一の目的地に一番近い場所のはずじゃ」


 その後。俺の意識は暗闇に包まれた。一瞬の反論の隙さえ無かった。




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