第一章
いつもの登校路を今日は沈んだ気持ちで歩く。今日は中間テストなのだ。
俺は佐端勇弥。中学二年生で顔面偏差値は低め、成績は中の上ぐらいだが、電気においてはそこら辺の大人には負けないレベルの知識を持っている自信がある。科学部の部長で、最近ラノベに凝っている。簡単に言うと変わり者。
「提出物ぅ…」
無意識のうちにうめいていた。俺は提出物をするのが大っ嫌いで、今回のテストにともなって出された提出物がまだ終わっていないのだ。もう考えないことにして先生と親に怒られることを覚悟する。
「よっ、勇弥!」
後ろから声がかかる。
振り返るとそこには顔面偏差値上の下ぐらいの背の高い青年が立っていた。
「おはよう、遥斗。」
彼は岡本遥斗。幼なじみでクラスメイトのイケメンな勉強のできる生徒会会長で、残念な一面もある。なぜ残念かというと、
「明日テストだね。」
「いや、今日だよ。」
「そうだっけ?」
天然なのである。よくこんなので会長になれたなと思ったが、女性票が圧倒的に多かったようだ。天然もイケメンだとプラス要素になるらしい。
「まあそれよりも…」
ちょっと待て、『まあそれよりも』、だと!?
こいつ、学校における最大の試練の1つともいえるテストをわきに追いやりやがった。
まあ勉強ができる故なのだろうけど(彼の成績は常にオール5一歩手前)。ここまで勝ち組条件がそろっているとたまにむかつく。しかし妬む気にもなれないオーラがあるのが不思議だ。
「おっはよー!」
遥斗の言葉に割り込むように声がかかる。振り返ると全速力で走ってきて勇弥にダイブしようとしている少女が目に映る。
次の瞬間にも飛び込んできて、
「よっと。」
見事によけられる。
しかし少女は見事に受け身を取って転んだはずなのに音もなく起き上がり振り向く。
彼女は遥斗と同じく幼なじみでクラスメイトの相田菜月美。言動や行動が子供だが、体は大人(規格外なほどではないが、男を釣ろうと思えば釣れる)。勉強や成績はお世辞にもいいとは言えないが運動能力が高く、普通の中学生だったら鬼ごっこなど申し込んではいけない。正統派美少女で学校の人気女子の三本の指に入る。
「今日テストだね!」
菜月美はしっかり覚えていたようだ。なんか楽しそうに言うので勉強でもして自信がついているのかと思ったら、
「いやー全然ダメ、レンリツホーテーシキってどうやってとくの?」
このぶりっ子キャラどうにかならないのかと言いたくなるような口調で話してくる。
そんなことをしゃべっているうちに学校につく。
早い時間についたつもりだったのだがテスト当日ということもあって教室では復習をする者がほとんどだった。
俺も復習しようと思って席に向かおうとすると
「佐端くん、ちょっとまって。」
斜め前からしとやかな声が聞こえる。クラス中の殺気が俺に降り注ぐ。
声を発したのは菜月美と同じくらい人気のある向居奈央子。勉強、成績は常にオール5の才女で、容姿も菜月美とは違う方向性ではあるが際立っている(菜月美が緩急大きく際立っており、向居さんは総合評価で際立っている)。顔立ちは菜月美に一歩劣るが、彼女自身がまとうお姉さんオーラがそれに補正をかけて学校随一の人気を誇る。
向居さんは中学に入ってから菜月美とよく話すようになり、その流れで俺ともよく話すようになった。
何かA4ぐらいの紙をもってこっちに来る。
「この前よくわからないって言ってたところの解説、まとめたかぁぁああ」
足元のカバンに躓く。
この人とってもできる人なんだけど、予想外な所で失敗するおっちょこちょいなのである。
そんなことよりも非常事態である。今この人こけたけど、倒れた先に俺がいる。菜月美のときようによけるのはさすがにはばかられる。人間的にも、社会的にも。しかし、受け止めるのもためらわれる。社会的に。いつもだったらありえないようなレベルで思考が加速する。
最終結果
受け止める。
「っと、大丈夫?」
さりげなく声をかける。周りからの視線がより鋭くなる。物理的に胃が痛い。
「あの、えっと、ごめんなさい。」
顔を赤らめながら彼女が言う。さらに視線が集中する。もはやめまいがする。
「これ、この前わからないって言って所まとめて解説してあるから今から見ても効果はあると思います。」
そういって紙を差し出してくる。丁寧な字で書かれたそれは簡潔にまとめられており、パッと見でも効果がありそうだった。
「ありがとう。」
俺のために作ってくれたものなので受け取った。受け取らないと周りの人たちに殺されそうな気がしたのも嘘ではないが。
席に着くとその紙を見ながら周りを観察する。敵情把握だ。
どうやら敵はクラスの男子9割のようだ。体育館裏に呼び出しそうなのはそのうち3人。俺のことを毛嫌いしている奴らだ。あいつらは1対3であってもうまく逃げる技術を取得しているのでどうにかなる。
そう思った矢先、
「勇弥~、今日の放課後空いてる~?」
菜月美が話しかけてきた。どうやらいつも話す4人で企画していたテスト打ち上げに出席できるのかを聞きたいようだ。この地雷原を乗りきる策を考えていたのに後ろから踏み抜いてきやがった。
もはやここまでくるとヤケクソだ。
「空いてるよ。」
いつも通りの口調で話す。1対3じゃすみそうにないな。
「わかったー、じゃあ放課後にちょっと残ってね。」
うっし、これで今日は体育館裏が回避された。
あくまで『今日は』だが。
そのあとテストは着々と進み、全ての教科が終わった。
ホームルームで向居さんが、
「ありがとうございました。」
で終わるまではいつ襲われるかとひやひやしていたが、終わった後はこっちのものだ。あの3人についているだけで手出しできないのだから。
そして、最後に教室から出た4人は歩きながらしゃべる。
「数学絶対100点取らせる気ないよねー」
「そうかな?あの問題難しかったけどちゃんと解けたよ?」
「そんなことが言えるのはあなただけです。もうちょっと周りを理解しましょう。」
「いや、その口調だと向居さんも理解できてませんから。」
そんな他愛もないことをしゃべっていると、目の前の歩道に幾何学模様が描かれ、光り輝く。勇弥がそれに気づいた時にはもう遅かった。
「うわっ!」
「何っ!?」
「きゃっ!」
「うおっ。」
そして僕たちはある神様の前に立っていた。




