プロローグ
「思い人:『紅い雪』」の前日譚です。
未読の人が読んでも大丈夫なように書いてます。
クリスマスから一週間後――。
年は明け、世間はすっかり正月を迎えた。
何を思ったのか、何を思い出したのか。教唆犯の正体とクリスマスの事件を解決した
私立探偵の神原修一は元日から、ある場所へと足を運んだ。
そこは訪れる者を不思議な気持ちにさせ、そこにはいないのに会話する事が叶う場所。
墓参りにやってきた。
誰の墓参りかは彼にとって言うまでもない。
「ありがとな」
腰を下ろして手を合わせ、墓石に向かって神原は呟く。黙祷の時間など覚えていない。
その人と過ごした記憶や日常。笑顔の数、会話の内容などが蘇る。
涙腺から涙がこぼれ、彼は震えた声で目の前の墓石に尋ねる。
死者からの返答はないが、神原の鼓膜には『大丈夫』という幻聴が聞こえた。
今思えば、全ては『あの日の事件』から始まったのかもしれない。
刹那、神原修一の脳裏にかつての記憶が鮮やかによみがえった――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
神原修一が高校三年生だった頃の秋――。
当時通っていた「神里鈴利高校」で
彼は幼なじみでクラスメイトの原宗司と共に進路について悩んでいた。
高校生が考え持っている人生の悩み。
だが、高校生の時こそが一番大事な時期とも言えるだろう。
二人は毎日同じ教室で勉学に励んでいても夢は学べない。
神原は六時限目終了のチャイムと同時に教室を飛び出し、職員室に居る担任の元を訪ねる。
しかし、進路を担任の「西川総悟」に相談しても答えは同じだった。
「進路はお前が決める事だ。俺に出来る事はせいぜいサポートぐらいなんだよ神原」
お決まりの台詞、それと同時に正論。
そんな事は分かっていたとしても何もやりたい事が見つからない。
「子供の頃、俺って何になりたかったんだろう……」
神原修一はその言葉を小声で漏らし
職員室を後にする。
「失礼しました」
一度礼をしてドアを開けた時、目の前には「原総司」の姿があった――。
神原を見た彼は率直な質問をぶつける。
「で、どうだった。進路相談の方は?」
「お前が自分で決めろとさ」
「そりゃそうだろうね。とりあえず、社畜になるか大学でフィーバーするのかは考えておかなきゃ」
原は両手を首の後ろで組み、笑いながら答える。
他人事ではないのに、自分も同じ境遇に立っている事をちゃんと自覚しているのか。
呆れた感情を織り交ぜて、神原は少し笑った。
「おいおい、大学って一応学校だろ?」
「大学はフィーバーするところさ。言うなれば人生で一番手に入らないものが手に入る場所でもある」
「と、言うと?」
「時間さ」
時間という概念。
それは、社会人になったら金と引き換えに失うものだろう。
大学ではその時間を自在に使える機会が増える。
原はそれが言いたかったのだろう。
「覚えてるかい?神原。俺らが昔何になりたかったのか」
続けるかのように問うのは「原宗司」だ。
神原にとって、その質問に対して言う答えは決まっていた。
「忘れた」
子供の頃の夢なんて忘れている。それが真実であり、当然の答えだ。
今こうして過ごしている時間は子供の頃に描いた夢の通過点に過ぎない。
子供の頃は大人とは親と同じ年代の人の事だと思っていた。
その為、三十代からが大人と言える存在になれる。ずっとそう思っていた。
でも、事実は違う。
日本では、二十歳の成人式を迎えた時点で人は大人として認められる。
高校三年である神原達の年齢は十八で大人になるまで既に二年もない。
大人になるのは子供の頃に考えていた予想よりも遥かに早かった。
「えー……マジで……」
その神原の素っ気ない答えに原は残念そうに言う。
そして、次に答え合わせを始めた。
それは何とも馬鹿馬鹿しくて子供らしい夢だ。
「正義の味方だろ?俺らの夢は」
子供なら、特に男子なら誰もが一度は見る夢だろう。
悪を倒す事が全てではないにしても映写は様々で
時には葛藤もして最後は答えを導き出す特撮ヒーローという存在に憧れる。
「お前、いい歳してまだそんな夢見てんのか」
「いやいや、特撮を馬鹿にしちゃいけないよ神原」
「また始まった……」
話が長くなる。そう確信した神原修一はため息をつきながら呆れる。
原宗司は筋金入りの特撮オタクだ。
神原は後悔した、こいつに話をするとろくな事が無いと。
だが、不思議と腹は立たない。
幼馴染である以上は互いの性格は分かるし、どんな人物なのかも分かる。
そして、他人でも友達でもないような不思議な気がする。まるで兄弟のような存在が幼馴染なのだ。
「仕方ないから聞いてやるか」神原は内心でそう決め、諦めのため息をつく。
九月の黄昏時――。
子供の頃に描いたくだらない夢を思い出せた。




