夢の中
最初は意味わからんこともあるかと思いますが、気長に読んでもらえると嬉しいです!
〈第一章:聖夜の集会〉
僕は、夢を見ている。
夢の中でそれが夢だと気付くと、夢の世界の住人に襲われる。
いつだったか、僕は昔そんな類の話を聞いたことがある。怖いなぁと、その当時は思ったのだろうけど、人間誰しも、そんなことはその場限りで忘れてしまうものだ。だがある時、人は突然思い出す。何かが引き金となって、記憶が引き出される。僕はどうしも、今のその引き金が何なのかが分からなかった。
誰もいない教室で、数人の男女が内を向いて輪を作っていた。
久しぶりだね。
戸惑ったまま、僕は彼らに声をかける。
不思議と畏怖は抱かなかった。それは僕がこれは夢だと気付いていたからだと言えなくもないし、彼らにまた会えたことへの興奮を僕が無邪気に受け取っていたからかもしれない。すると、誰かが呟いた。どうして、と。その質問の意味が分からなかった僕は、とりあえず声の主を探そうとした。探そうとして、はたと気づく。僕らの円の真ん中に、一人の少女が悠然と立っていることに。
「どうして、とは無粋な質問ね。全く、せっかく全員揃ったのだから、もっと嬉しそう にしなさいよ」
彼女は両手を広げ、おどけてみせた。全員が、信じられない思いで彼女を凝視している。
先のどうして、という質問は、彼女に向けての言葉だった。
そして、今はっきりと自覚する。
―今の引き金は、彼女だ―
彼女はチラリと窓の外を見る。夕暮れの陽射しが教室を、オレンジ色に染めていた。
くるりとこちらに向き直ったとき、彼女は顔を曇らせていた。
「悪いけど、懐かしむ暇はないみたい。一息に、伝達だけかいつまんで話すわ」
よく聞いてね、と彼女は念を押す。
「私は今、あるところに閉じ込められている。場所はよく分からない。…お願い、あな たたちに、私を見つけて欲しい」
その言葉を咀嚼するのには、随分と時間がかかった。
「……夢の中のことだし、たぶん起きたら、あなたたちはほとんど今のことを忘れてし まうと思う。それでも、私が頼れるのはあなたたちだけなのよ」
いきなりの彼女の懇願に、誰もが息を飲んだ。だがこれは夢だ。彼女でさえ、今そう断言した。信じる根拠は、何も無い。だけど、
「君に言われたんなら、仕方ないね」
数秒も空けずして、僕は答える。
そう。僕はいつでも、・・彼女を信じてる。今も、昔も。あの頃からずっと…。
僕はニヤリと笑う。他の皆も、仕方ないなぁという表情でうなずく。
彼女は、僕につられて笑った。
「やっぱり、あなたたちに頼んでよかった」
ホッとしたのか、彼女はゆっくりと息を吐く。気付くと窓の外では、驚くほど早いスピードで夕闇が迫っていた。
「そろそろ、帰る時間ね……。会えて、本当によかった」
彼女が、行ってしまう。そう思った瞬間、僕は口走っていた。
また、遭えるよね?
僕は、どうしてこんなことを聞いたのだろう。
だんだんと、僕の身体が消えかかっているのに気付いたのはその時だった。見ると、彼女意外の全員が、昇天するように光っていた。
そうか。夢の中から退場するのは、僕たちなんだ。
消えかかる中で、最後に見た彼女は泣いているように見えた。