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戦う教祖さま!  作者: 牧場サロ
第二話:教祖様の日常
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Ⅳ:真夜中の<お仕事>

 深夜零時。

 夜の住宅街からは部屋の明かりが消え、そのかわり街灯の光が目立つ。


 俺がビルの玄関から姿を表すと、源が待ち構えていた。

「こんな時間に呼び出して、一体何の用だ?」


 源が眠たそうな目で俺に文句を言った。

「昼に言いましたよね。今度遠藤さんの家へ行くとき、連絡しますと。」

 そうだ。

 源を呼び出したのは他でもない、俺自身だ。

「ということは、今から遠藤さんの家へ行くのか?」

「その通りです。」

「いや、どう考えても迷惑だろ…」

「大丈夫ですよ。遠藤さんの胸ポケットの中に、『深夜1時頃、もう一度伺います。』と書いた紙を入れておきましたので。」

 俺がそう言うと、源は呆れた、という顔をしていた。


「ところでそれ、普段着か?」

「ええ、そうですが。」

 ちなみに今俺が着ているのはパーカーとジーンズ。

「……普通だな。」

「この方が動きやすいですから。」

「あと…その杖はなんだ?」

 俺の身長の3分の2くらいはありそうな杖を指差しながら源が言った。

「ああ、これは悪霊退治に使う道具です。」

「そう、なのか…?」

 あまり信じていない、という顔をしていたが、とりあえず源は納得してくれたらしい。

「ここで立ち話をしていても時間の無駄ですし、もう行きましょう。」

「あ、ああ……って、おい。ちょっと待て!!」

 出発しようとすると、急に源が呼び止める。

「まだ何か?」


「いや、お前の隣にいる女の子は誰だよ!?」


 源が大声で俺にそう言った直後、源の声が周囲に響き渡り、当の本人は「しまった」という顔をしていた。

 ……時間と場所を考えろ。

 真夜中の住宅街だぞ。


 ……などと呆れている場合ではなかった。

 やはり誤魔化せなかったか。

 できれば気づいてほしくはなかった。

 俺の隣には今、小さな女の子がいる。

 そして俺と手をつないでいる。

 一応警察官の源が不審に思うのは当然だろう。


 だが正直……説明が面倒くさい。

 というか長くなる。


「お前、まさか誘拐……」

「違います。この子は親戚の子で、訳あってしばらく私が預かっているんです。」

 源がとんでもない誤解をしかけていたので、俺は適当に誤魔化した。

 だが、源は「ではなぜその子を連れていく?」と続けて質問した。

 ……しまった、答えられねぇ。

 俺が答えられずに冷や汗を流していると、俺達のものではない別の声が聞こえた。


「私、こう見えてますたーのお仕事の助手をやっています。」


 若干シリアスだった雰囲気が、その間の抜けた声でガラガラと崩れた。

 今まで一言も声を出さなかった少女が、突然喋り出した。

「じょ、助手って、君が?」

「君ではありませんよー。私には(スイ)という名前があります。稲穂の穂と書いて、スイでーす。」

 女の子…スイはそう源に自己紹介した。

「そ、そうなんだ。でもスイちゃん、女の子はこんな夜遅くに出歩いちゃだめだよ。」

 と、源が当たり前のことを言った。

 しかし、スイはこう答えた。

「大丈夫ですよー。ますたーがついていますから。」

「…さっきから気になっていたが、そのますたーというのは、この男のことか?」

 そう言って源は俺に視線を向ける。

「はい。ますたーは私の命の恩じ……じゃなかった、悪霊退治の師匠ですので、敬意を込めてますたーと呼んでいます。」

「そ、そうか。だがコイツが無理矢理『ますたー』と呼ばせている訳ではないのか?」

 源がそう言うと俺は「失礼な!」とツッコミそうになるのを必死に抑えてこう言った。

「私にそんな趣味はありませんし、それに人前でその呼び方(ますたー)は止めろと何度も言っているのですが、全然直してくれません。…もう、放置しています。」

 これは本当のことだ。

 そんな俺の表情を読み取ったのか、「そ、そうか。疑って悪かった。」と源は言った。


「だがやはり女の子を夜遅くにーー」

「では改めて、遠藤さんの家へ行きましょうか。」

「はーい!」

 源の言葉を遮りながら俺がそう言い、ようやく俺達は移動を開始した。


 ……源がしかめっ面をしていたことは言うまでもない。



      *



「教祖様、こんな時間に一体…」

「申し訳ありません。しかしおかしな出来事がいつも夜中に起きる、と言っていたことが気になりまして。」

「はあ……」

 そう言って俺は半ば強引に敷地の中へと入った。

 すると、



 オオオオオ、オオオオオ、



 突然、得体の知れない黒いオーラのようなものが遠藤さんの家を取り囲んだ。

「わ、私の家が!?」

「これは一体、な、何がどうなって…」

 遠藤さんと源は突然の出来事にパニック状態だ。


「ま、ますたー。これはやはり…」

「ああ。どうやら<当たり>だな。スイ、お前は二人を守っていてくれ。」

「了解しましたー♪」


 スイがぱあっと明るい笑顔で返事をし、俺は家へと向かった。

 すると、家を被っていたオーラが攻撃してきた。

 オーラそのものを弾にしてそれを俺に向かって飛ばしてきたのだ。

 しかも何発も飛ばしてくる。が、

「よっ、と。」

 ……まあ、慣れているので簡単に避けられるが。

 問題は後ろにとばっちりがいかないかだ。

 源と遠藤さんはすっかり怯えている。

 だが、スイがいるから大丈夫だ。

 なんせ(アイツ)は……

 そのとき、


「うお!?」


 シュッ!


 いきなり頭上から包丁が振り落とされたが、間一髪避けた。

 だが、その直後にもう一撃。


 キンッ!!


 今度は杖でそれを防いだ。

 …遠藤さんの奥さんが何かに操られているかのように、包丁を振り回しながら俺に襲いかかってきたのだ。

 さらに……

「……何だと?」

 遠藤さんの子供(兄妹)が二人がかりで俺の足にしがみついていた。

 おかげでうまく動けない。

「オイオイ、マジかよ。」

 右手は杖で奥さんの包丁攻撃を防いでいる。

 ……だが幸い左手は使える。

 俺はジーンズのポケットから、<お札>を三枚取り出した。

 お札には漢字で「退」、そして五芒星が描かれていた。


 奥さんの攻撃が弱まった一瞬の隙を突き、三人の額にそのお札を貼り付けた。

 直後、「ウ、ウゥゥ……」と、三人はその場に崩れた。

「スイ!この三人も<結界>に!」

 俺が大声で指示を出すと、

「はいはいはーい。了解しましたー!」

 と、明るい返事が帰ってきた。

 この調子なら安心して任せられる。


 さて。

 そろそろいくか。

「オイ、いい加減に姿を見せたらどうなんだ?」

 俺はわざとらしく挑発する。


「貴様ハ一体、何者ダ?」


 地面に響くような低い声が聞こえ、遠藤さんの家から出ていた黒いオーラが、巨大な化け物の形へ変化した。

「俺はただのインチキ教祖だ。…それで、お前は──」

「我ハカツテ、コノ地ヲ治メテイタ大名ダ。」

 俺の言葉を遮って黒いオーラは答えた。

「ようするにタチの悪い悪霊だろ?」

 この黒いオーラの正体が悪霊だということは、昼間ここに来た時すでに気づいていた。

「……タチノ悪イ…悪霊…ダト…?」

 俺の言葉に反応したらしい。

「ああ。だってそうだろう?遠藤さんの家に取り憑き、真夜中になると家族四人全員の意識を奪った。」

「……………」

 悪霊が黙っていたので俺は続ける。

「遠藤さんだけじゃない。お前はこの近辺に住む人々からも意識を奪っていった。少しずつ、一日に二世帯くらいのペースで。」

 これも昼間の<お清め>の時に信者達が住民から集めた情報だ。

 というか、実は信者の中にも遠藤さんのような現象にあった人がいた。

「……………」

 悪霊はまだ黙っていた。

 一気に追い詰めるか。

「お前の目的は大方この近辺の人々の意識を操り、そしてこの土地にお目の国でも作ろうとしたんだろうが、お前にパワーが足りず、時間がかかった。…いや、そもそも出来なかった、のか?」

「……………」

「そこでお前は仕方なく遠藤さん一家の意識を奪った。どうせエネルギーも奪っていたんだろう。そうやって徐々に意識を奪う人数を増やして言った。」

「……………ダ」

 悪霊が何か言いかけたので、そろそろいい頃合いだと思った。

「要するにお前は、ただの、ザコ。……ってことだよなあ?」

 俺がそう言った直後、


「……ダ、ダマレェェェ!!」


 とうとう悪霊の逆鱗に触れてしまった。

 ……いや、触れてやったと言うべきか。

「貴様ニ何ガ分カル!!我ガザコダト?フザケルナ!!我コソガコノ地ヲ、国ヲ、ソシテコノ世界ヲ……………ン?」

 突然、エキサイトしていた悪霊が動きを止めた。

 そして俺はニヤリと笑った。

「ナ、ナンダコレハ!!ドウナッテイルンダ!?ウ、動ケヌ……」

 ようやく悪霊は自分の身に異常が起きていることに気づいた。

「雑魚呼ばわりしたことはあやまるよ。だがこんな単純な罠に引っかかってる時点で、お前は大物にはなれないかもな。」

「ワ、罠ダト……?」

「ああ。お前の周り、よく見てみろよ。」

 俺がそう言うと、悪霊は周りを見る。

 そして気づく。

「コ、コレハ式神……カ?」

 悪霊の周りをフワフワと漂う紙人形に。

「そう。俺が作った手製の式神だ。」

「ダガコンナ紙切レ一枚ナド、恐ルルニハ……………ナニッ!?」

 そう。

 紙切れは一枚……もとい式神は一体だけではない。

 この悪霊が逆上し冷静な判断力を失った隙に、俺は大量の式神を(バレないように)放っていたのだった。

 そしてこの大量の式神達は、悪霊の動きを封じる<結界>の役割も担っている。

 あとはこの杖で……


「調子ニ、乗ルナアァァァアッッ!!」


 悪霊が無理矢理、式神の結界を破壊した。

 破れてただの紙くずとなった式神達が宙を舞う。

「貴様ナド、我ガ全力ヲモッテスレバ簡単ニ屠レルトイウコトヲ、ソノ身ニ嫌トイウホド思イ知ラセテクレル!!ワァーッハッハッハッハー!!……………ハ?」

 悪霊の視界から、俺が、消えた。

「ド、ドコダ?一体ドコヘ消エタ!?」

「ここだよ。」

「ナッ!?」

 背後から声が聞こえ、悪霊が驚きながら振り向くと、そこには――


 ……そこにいるはずのない、いるわけがない俺の姿が、悪霊の瞳に映った。

 俺は宙に浮かび、そして完全に静止していた。

 悪霊が困惑するのも無理はない。

「シ、死ネエェェェ!!」

 わけが分からないという様子で悪霊が滅茶苦茶に攻撃してきた。

 一方俺は悪霊に背を向け、杖で空を切りながらこう叫んだ。

「地獄門、強制開錠!!」

「ナニッ!?」

 攻撃しながら悪霊が叫ぶ。


 その直後、俺が杖で切った何もない場所から、巨大な裂け目が現れ、悪霊の攻撃をすべて飲み込んでしまった。

 そして巨大な腕のようなものが現れて悪霊を簡単につかむと、あっという間に裂け目の中へと引きずり込んだ。


「ウアァァァ!!ヤ、ヤメロオォォォ……」


 ……裂け目が閉じるとき、悪霊の断末魔のような声が聞こえた。

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