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戦う教祖さま!  作者: 牧場サロ
第二話:教祖様の日常
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Ⅲ:<お清め>と<悪霊退治>

 住宅街を行列が通る。

 白昼堂々、かなりの人数でだ。

 ただし、通行人、車両等の邪魔にならないように心がけている。


 とはいえ、人がすれ違う度に軽く声をかけたりしている。

 もちろんサークルの宣伝も兼ねているが、目的は他にもある。


「なあ、ちょっと聞いていいか?」

 先ほどから訳が分からないという顔をしていた源が、痺れを切らしたのか話しかけてきた。

「どうぞ。遠慮なくなんでも聞いてください。そのために見学…というか同行してもらっているのですから。」

「じゃあ、遠慮なく聞くけど…」

 と、源は一呼吸置いてこう言った。


「……なんでゴミ拾いやってるんだ?」


 そう。

 今我々は道端にポイ捨てされたゴミをくまなく拾っている。

 そして源の質問に対し、俺は…森羅太極(シンラタイキョク)はこう答えた。

「奉仕活動…というよりは<お清め>です。」

「お清め?」

「はい。ゴミを拾うことで町を清める、そしてそれを見た人達が、ゴミを拾ったり、道端に捨てないようにしてくれれば、世界をより良くするための一歩になればいい。以前の話し合いでこの意見が出たので、満場一致でそれでは実践してみようということになりました。」

「そしてサークルの宣伝にもなり、悪霊退治の依頼受け付けもできて一石三鳥ってわけか。」

 最後に源が皮肉で返した。

 その通りだったので何も言い返さずに黙っておくことにした。

 が、

「それともう一つ気になっていたんだが、何で頭の上にフィギュ……御神体を乗せているんだ?」

 源がフィギュアと言いかけると、信者たちが一斉に源を睨み付けた。

 俺はアイコンタクトで信者たちにやめさせてから、「もうすぐ分かります。」と答えた。


 ……ちなみに源は「ただ見ているだけなのは嫌だ」と言い、何故かゴミ拾いを手伝ってくれていた。



      *



 サークルの行列は、とある一軒家の前で止まった。

 そして俺がインターホンを鳴らすと、家の中から一人の男性が現れた。

 この家の主だ。

「こんにちは、遠藤さん。」

「おお、お待ちしておりました。」

「では早速ですが案内を。皆さんはここで待機していて下さい。」

 俺が遠藤さんの家の中へ入ろうとすると

「ちょ、ちょっと待て。」

 と、源が呼び止めてきた。

「何でしょうか?」

「これはまさか…悪霊退治をやるのか?」

「その通りです。遠藤さんとご家族の皆様はここ数週間家の中でおかしな現象が起きていたそうです。」

「そこで教祖様に悪霊退治の依頼をした、というわけです。」

 遠藤さんの深刻な顔を見た源は、

「そうですか…。それでは念のため同行させて下さい。」

 と言った。

「そうですね…遠藤さん、構いませんか?」

 俺がそう言うと、当然遠藤さんは困惑した。

「ええと、この方は?」

「訳あって我々のサークル見学している方です。」

「そうですか…悪霊退治に支障が出ないのであれば別に構いませんが、…本当に大丈夫ですか?」

 遠藤さんが心配そうな顔をしたので、

「大丈夫です。彼が手を出したりしなければですが…」

 源の方を向きながら俺はそう答えた。

 すると、

「俺はただ、お前がお金を巻き上げたりしないか見張るだけだ。」

 と、源が言った。

「では、そろそろ中へ…」

 そして俺と源は遠藤さんに連れられ、家の中へと入っていった。



「それで先日もお話を伺いましたが、具体的にどんなことが起きたのか、もう一度お話しただけますか?」

 家の中を一つ一つ案内されながら、俺は遠藤さんに質問した。

「ええ。主に家の中でおかしなことが起こるのですが…よく物が無くなる、どこに物を置いたかを忘れる…いや、むしろさっきまで何をしていたのかすら思い出せないことがあります。」

「何をしていたか思い出せない?もう少し詳しくお願いします。」

「はい。…思い出せないというか、気がつくとさっきまでいた場所と違う場所にいる、なんてこともありました。」

 それを聞いた俺は、遠藤さんに二つ質問することにした。

「それはご家族全員に起こったのですか?」

「はい。家内にも、息子と娘にも起こったのです。」

「……………なるほど。もう一つ、その現象はどれくらいのペースで起こりますか?」

 その質問に対し遠藤さんは、

「ほぼ毎日です。それも、主に夜中に起こります。」

 と答えた。

 ……………ふむ。

「あのー。」

 ずっと後ろで会話の様子を見ていた源が話に入ってきた。

「な、何でしょう?」

「気のせい、ということはないのですか?」

 絶対言うと思った。

「え?」

「ですから、全部夢だったとか、幻、気のせいとか――」


「そんなはずはありません!!」


 遠藤さんが激怒した。

「あ、え、えーと、すいません……」

 源が困惑した様子で謝る。

「え?こ、こちらこそすいません、つい。まあこんなこと、普通信じろと言うのが無理でしょうしね……」

 なぜか遠藤さんもつられて謝る。

「源さん、先程のは言ってはいけないことですよ。」

「だが!…とても信じられない。」

「だったら、信じなければいいじゃないですか。」

「?」

「何が真実で何が真実でないか、おそらくあなたは自分の目で見たものしか信じられないでしょう。」

「そんなこと――」

「当然、です。ですがそうやって遠藤さんも誰からも信じてもらえず、切羽詰って私を、私達サークルを頼った。それもまた事実です。」

「……………」

 ようやく自分の過ちに気づいたのか、源は黙った。

「いいです。もう怒っていませんよ。……ところで、どうなんですか教祖様?」

「一通り見て回りましたが、たしかに何かいる気配がします。とりあえず今日はお祓いをしてしばらく様子を見ましょう。」

「そうですか。お願いします。」


 俺達は信者達の待つ外へ出た。

 そして<お祓い>が始まった。

 信者達が一斉に祈りを捧げ、その前で俺が<御神体>を用いてお祓いする。

 御神体をゆっくりと左右に揺らしているだけなのだが。


「本当に、ありがとうございました。」

 お祓いが終わると、遠藤さんがほっとした顔でお礼を言った。

「何かあれば、またお伺い致します。」

「お願いします。」

「では、失礼します。」

 と俺が言い、遠藤さん一家総出で見送ってくれた。


「本当に金を受け取らないんだな。」

「言ったはずです。これで信用していただけましたか?」

「いや、今度あの家へ行くときに受け取るかもしれない。」

 この男はまだ疑っているらしい。

「それでは、今度行くときにはご連絡しますよ。」



 それからビルに到着した俺達は、地下集会場で軽くディスカッションを行った後、解散した。

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