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戦う教祖さま!  作者: 牧場サロ
第二話:教祖様の日常
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Ⅱ:Peace&Benefactionの実態

 まんまと教祖に乗せられ、俺は地下集会場へ入った。


 そこにはすでに大勢の信者たちが集まっていた。

 大人だけではなく、明らかに制服を着た学生もいるではないか。

 さらに驚いたことに、保護者に連れられているとはいえ小学生くらいの子供まで紛れ込んでいた。

 俺が呆気にとられていると、

「来てくれると思っていましたよ、刑事さん。」

 そう俺に話しかけてきたのは、アパートの大家だった。

「やはり、騙していたんですね、大家さん。」

 この人はやはり信者で、俺の情報を教祖に流していた、というところか。

 すると大家は、

「別に騙すつもりはありませんでした。本心から、あなたにもっとこのサークルについて知ってほしかったんですよ。」

 と弁明した。

「……そうですか。」

 そういうことにしておこう。

 ……もちろん心の奥底では「いやアンタ完全に騙してたよねぇ!?」とツッコンでいたのだが。

「刑事さん、どうぞこちらにかけて下さい。」

 と、男性の信者から椅子を勧められた。

「い、いえ自分は端で立って見学しますので……」

「そんなこと言わずに、さあ座って座って。」

 と、うまく椅子に誘導された。

「刑事さん、コーヒーどうぞ。」

「え?あ、どうも。」

 今度は若い女性の信者からコーヒーを勧められた。

「……………」

 睡眠薬、幻覚剤、青酸化合物、etc……

 そんな言葉が俺の脳裏をよぎる。

「そんなに怪しまなくても、別に変なものなんて入っていませんよ。」

 そう言って彼女はクスクスと笑った。

「す、すみません……」

 信者の言葉を信じ、俺はコーヒーを飲んだ。

「……美味しい。」

「でしょ。そのコーヒー、教祖様がいれて下さったんですよ。」

 上の喫茶店で提供しているコーヒーか。

 確かにこれは人気が出てもおかしくない、そんな味だった。

 って、いかんイカン!

 雰囲気に流されてはだめだ!

 そして俺は念のため体に異常が起きていないか確かめた。

 ……が、当然どこもおかしくはなかった。


「皆様、本日も『Peace&Benefaction』にお集まりいただき、ありがとうございます。」

 いつの間に着替えたのか、教祖があの怪しい格好で祭壇の前に出てきた。

 進行役も自分でやっているということか。

「それでは、いつも通り<供物>から始めましょう。」

 そう言って教祖は細長い穴が開いた木箱を取り出した。

 供物だと?

 やはり金かなにかを受け取っているじゃないか!

 そう思ったとき信者達が一斉に紙のようなものを取り出し、そして教祖がその紙を木箱で回収して回った。

 そして教祖が俺に向かって、

「本サークルでは、<善行>こそがあの御神体への供物だと教えております。」

 と言い、そして祭壇の上の、例のフィギュアに視線を向けた。

「ぜ、善行!?」

 当然、俺は呆気にとられた。

「はい。ですが1人ずつ発表すると時間がかかりますし、それに恥ずかしいと言う意見もあったので、現在はあらかじめ今日やった善行を紙に書いてもらっています。」

「……善行って、例えば?」

「何でもいいんです。人助けとか、ごみ拾いとか。」

「……それが、どうして供物になるんですか?」

「ここに祀られている神様は、人々の幸せを望んでいます。ですから願い事を叶えてもらう前にまず善行を捧げる、というわけです。」

「つまり、お賽銭の代わりってことですか?」

「その通りです。」

 教祖はニッコリと答えた。


 そして教祖が紙を集め終わると、信者全員が御神体に祈りを捧げた。

 世界の平和と、自分の叶えてほしい願いごとを祈るらしい。

 ……まあ、自分が思っていたよりもまともな人達なのかもしれない。

 不覚にも一瞬そう思ってしまった。

 だが直後、教祖の掛け声とともにそれは覆される。


「それでは皆さんご一緒に、三ヶ条の確認です。さんはいっ」


「「「一、善行こそが供物である

   一、オタク文化は世界をつなぐ

   一、世界を平和に、より良くする方法を考えよう」」」


「……へ?」

 唖然。

 オイ、なんなんだこの三ヶ条。

 完全におかしいだろ!

 特に二つ目えぇぇ!!


「さて本日も、世界平和についてディスカッションしていきましょう。誰か意見はありますか?」



      *



 その後、世界を平和にする方法を話し合っていたはずが「世界中にもっとアニメを普及させるべき」という意見をきっかけに話の論点がズレ始めた。

 というか、信者達の目の色が変わった。


「やはり美少女ものに限るでしょう。」

「何を言っているんですか?BLだって負けていませんよ!」

「オイオイ、今は断然百合の方が…」

「それよりもロボットアニメ!」

「ロボットよりファンタジーは?」

「異世界チートもの?」

「いや、それだけじゃないだろ。」

「やはりロリ巨乳も捨てがたい…」

「ハァ?ロリは水平線だろうが!!」

「ハーレムが一番!!」

「ふざけるなヒロインは一人でいいんだよ。」

「みなさん深夜アニメの話ばかりしてますが夕方アニメだって…」

「いや、朝アニメもあるだろ。」

「そうそう、特撮とか。」


「「「それはアニメじゃない!!」」」


「なんで総ツッコミ!?…っていうか枠組み的には全く問題ないよねぇ!?」


「……なんだか、だんだん罵り合いみたいになってきている気がするのだが…?」

 俺は教組に近づき、小声で質問した。

「これ、世界平和と何か関係あるのか?」

「自分の意見を発言し、他人の意見を聞いてお互いの理解を深める…思想の共有とは即ち、平和への近道ですよ?」

「……………」

 もっともらしいことを言ってはいるが、何か方向を間違えているような、そんな気がした俺であった。


 それから、今のアニメの長所や短所等の批判、キャスティングや主題歌について、しまいには新しい深夜アニメの放送情報などの意見まで飛び交っていた。


 ……教祖だけじゃない。

 何だこの集団。

 世界平和全然関係ない。

 むしろただのオタクの集まりじゃないか!

 本当に何がしたいのだろう?

 だれか…

 誰か頭痛薬を下さい……………


 そう思いつつ頭の片隅ではこのサークルの御神体が美少女フィギュアなことに、どこか納得してしまった俺がいた。



「では、そろそろ時間ですのでお開きに致します。皆様、気をつけてお帰りください。」

 腕時計を見るとちょうど19時半を回っていた。

 ここのサークルは基本的に18時頃から19時半までと決まっているのだ。


「どうでしたか?我々のサークルは。」

 信者が皆帰り、2人きりになったところで教祖が俺にそう質問してきた。

 俺は、

「とりあえず、このサークルはかなり意味不明だってことはよーくわかったよ。」

 と答えてやった。

 続けて、

「でも、悪い人達ではさそうだ。」

 と言った。

 すると、

「誤解が解けて何よりです。」

 と教祖が言ったので、

「いや、まだ全面的に信用した訳じゃない。…特にお前だ。」

 と補足した。

「……それは残念です。では、明日も見学しますか?」

「……いいのか?」

「はい。一応誰でも自由に見学できることになっていますし、それに明日は……」

「?」


 こうして俺は明日もこのサークルを見学する事になった。

※次回掲載日未定です。

ごめんなさい。m(_ _)m



……あ、第二話はまだ終わりではありませんよ。^^

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