Ⅰ:源冷司の張り込みレポート
俺、源冷司は今宗教サークルのあるビルの、丁度向かい側のアパートの一室を借りて張り込みをしている。
命令を無視しているので家賃は自分で払うしかない。
だが、このアパートの大家に事情を話すと空き部屋を、それも格安で貸してくれた。
大家曰く、
「近所でもあのサークル、胡散臭いって噂になっているんだよ。だから、誰でもいいから何とかしてほしいんだ。」
だそうだ。
というわけで俺はここで張り込むことにする。
*
8:12
ようやく動きがあった。
教祖が表に出た。
服装は普段着のようだ。
そしてゴミ袋を提げている。
……どうやら、ただのゴミ出しだったようだ。
ちなみにこのビルは教組の自宅でもあり、ここに住んでいるらしい。
8:59→9:00
再び教祖が表に出た。
そしてビルの店舗部分の扉の前へ行き、「準備中」の札を裏面の「営業中」へとひっくり返し、再び中へ戻った。
……彼は、何故か昼間は喫茶店を営んでいる。
しかもそのコーヒーが安くて美味しいと評判らしい。
一体何をやっているんだ……?
12:36
喫茶店に来る人が多くなってきた。
何故かメニューにカレーライスやラーメンがあるからだ。
これらも美味しいらしい……本当に何がしたいのだろうか?
16:41
今度は学校帰りの女子高校生達がちらほらと店に入りはじめた。
なぜかメニューにスイーツが(以下略)。
18:00
ここで閉店時間。
店が完全に閉まる。
そして、店舗部分の扉の横の、もう一つの入り口から地下へ向かう人が増える。
……宗教サークルが、始まるのだ。
*
ピンポーン♪
ふいに、インターホンが鳴った。
誰だろう、大家さんかな?
「はい。」
とドアを開けるとそこには――
「こんばんは。張り込みご苦労様です。」
教祖が立っていた。
服装こそ完全に喫茶店のマスターだが、間違いなく教組がそこに、居た。
なぜだ?
なぜバレた?
そしていつの間にここに…
状況が全く理解できず、俺は混乱していた。
すると教祖が俺の心を読んだのか、
「そうですね…なぜバレたのかは置いておくとして、私は裏の車庫から出てあなたに見つからないよう注意しながらここに来ました。」
と言った。
「……なるほど。それで何か用ですか?」
どうせ迷惑だからやめて下さいとか言われるんだろうなあと思いつつ俺が聞くと、教祖はこう答えた。
「一緒に来て下さい。」
一瞬、耳を疑った。
「は?」
「是非サークルを見学していただきたいのです。」
「待て、どうしてそうなる。」
「いや、ここからじゃ中の様子が分からないじゃないですか。」
「だからなぜ?なぜ、俺を……」
俺が言いよどんでいると、
「あなたにもっと我々のことを知ってもらいたいからです。」
続けて、
「我々のことが誤解されたままなのは、後々のことを考えると問題だと思ったので。」
「だからと言って見学だなんて、そんな勝手なこと出来るわけが」
ない、と俺が言おうとしたところで、
「今更何を言っているんですか。謹慎中なうえ、命令無視してるんでしょう?」
そう教組が言った。
「……………」
今やっとわかった。
大家がしゃべったな。
俺が謹慎中だということを話したのは大家だけだからである。
というか、彼女もサークルの一員だったのか?
だが、もうそんなことはどうでもよかった。
「……いいだろう。」
「来てくれますか。」
「後悔するなよ。」
「そちらこそ。」
俺達は互いに目を合わせ、不敵な笑みを浮かべていた。
正直、刑事としてのプライドも、それどころか自分が警察官だということすら完全に忘れていたのだった……………
第二話、スタートです!
よろしくお願い致します!!