Ⅰ
「突入準備、完了しました。」
「こちらも、配置完了しました。」
「了解。まもなく突入する。指示を待て。」
都内某所。
その近辺は異様な空気に包まれていた。
緊張、そして静寂。
やがて「突入開始!」の一言で、その静寂は破られた。
*
「動くな、警察だ!」
地下の集会場だか礼拝堂だかよくわからない空間には、20~30人くらいの人々が集まっていた。
そこへ黒いスーツ姿の集団が乱入したので、地下に集まっていた人々が一斉に、何事かと振り返る。
乱入した黒スーツ集団から一人、20代くらいの男が一歩前へ出た。
「警視庁の源です。責任者……いや、教祖はどちらに?」
「私が教祖…というかこのサークルの主宰、森羅太極ですが、これはいったい何の騒ぎでしょうか?」
そう言って出てきたのは、いかにもというような服装に身を包んだ男だった。
源と名乗った若い刑事と同じくらいの年齢に見える。
「簡単に言うとガサ入れです。これ、捜索令状。名前に間違いはないですね、教祖さん…本名、田中――」
「ちょ、ちょっと待って下さい。」
と、自称サークル主宰の教祖が警官達を止めようとする。
「なんですか、邪魔をするなら公務執行妨害で現行犯逮捕しますが?」
「いやいや、そもそも我々が何をしたというんですか?」
「しらばっくれるな! 怪しい宗教にのめり込む人々が続出し、近所迷惑だという通報がいくつも寄せられた。」
「怪しい宗教って、いったい何のことでしょうか?」
教祖は完全にとぼけた様子だった。
「例えば、昼間に信者たちを引き連れ、お清めと称して近所を歩き回っているそうですが?」
「事実です。」
「そのとき通行人にサークルの宣伝や悪霊退治の依頼受け付け等をしているそうですね。」
「ええ、まあ、その通りです。」
「これらの行為も問題だが、このとき客から依頼料を…いや客からだけではない。信者からもお布施と称して大金を巻き上げているのでは?」
源がそう言うと、信者達が騒ぎ出した。
「ふざけるな!」
「教祖様はそんなことしない!」
「お金を巻き上げたことなんて一度もありませんよ!」
「自分たちは人の役に立つことをしているだけの、まっとうな団体です!」
「「「そーだそーだ!!」」」
「あなた方には聞いていません。少し黙っていて下さい!」
源が怒鳴ると、信者達は静まり返った。
「失礼。それで田中さん、人々からお金を巻き上げていたという事実は?」
「ありません。本サークル『Peace&Benefaction』では、お客様や信者の皆様からお金をいただいたことなど、一度もないですよ。大体証拠が――」
「あなたの、とある銀行の預金残高、100億円近くありますよね。」
源が教祖の言葉を遮りながら言うと、教祖は茶化すような態度をやめた。
「……それで?」
「そのお金の出所、いくら調べても分からなかったんですよ。」
「調べ方が悪かったのでは?」
「いいえ、そんなはずはありません。そろそろ白状したらどうですか?」
「何をです?」
「100億円の出所に決まっているでしょう。」
教祖は俯き、黙った。
そして一呼吸置いて、教祖は堂々と言い放った。
「あれは、ほとんど株で儲けました。」