決別
「それで、俺にこの話しをして君はどうしたいんだ?」
式が当然の疑問を翼に投げかけた。
「僕はただ、友達に自分の悩みを話しただけだよ」
「悩み?」
「僕はいいかげん、愛から解放されたいんだ」
翼の言っていることが、最初は理解できなかった。
「…どういうこと?君は愛さんが好きなんじゃないの?」
「もちろん好きだったよ。でも、このところ毎日夢を見るんだ。愛が僕を許さないって言っている夢を。その夢のせいで、僕は毎日ろくに眠ることもできない。もう嫌なんだ。こんな後悔に苛まれながら生きていくのは」
式は、今の翼に少し恐怖を覚えた。
「だけど、昨日はいい夢を見たよ。久しぶりにね。愛が僕ともう一度会いたいって言っている夢を見たんだ。そしてその日に君と出会った。これは運命かもしれないね」
「…君の考えてることがわからないよ」
「僕はもう疲れたんだ。あんな愛の姿なんて見たくなかった。だけど、それも今日で終わりだよ」
微妙に話がかみ合っていない。
「今日で終わりってどういうこと?」
「その前に、君にこれを渡すよ」
と、翼は式の手を握りあるものを渡した。
「これって、ツールナイフ?」
翼はなぜこのようなものを式に渡すのだろうか。
「それで僕を殺してほしいんだ」
「…は?」
言っていることの意味がわからない。
「何で、俺がそんなことをしなきゃいけないの?」
「友達である君に殺してほしいんだ」
「だから、何で君は死にたいの?」
式は自分でも考えられないほど冷静だった。
「それが、僕の夢だから」
「え?」
「友達に介錯してもらうのが僕の夢なんだ。僕はこの後ここから飛び降りるから、もしかろうじて生きていたら最後は君に殺してほしいんだ」
ここまで聞いて、ようやく式は理解した。
翼も、狂っていたのだ。
終わることのない彼女の夢を見続けるという行為を何日も行っていたら、
こうなってしまうのも無理はない。
「…俺に犯罪者になれっていうの?」
「友達ってそういうものでしょ?あれ、違うの?」
翼はきょとんとした顔で式に尋ねた。
「…今の君はおかしいよ。とりあえず、もう話は終わったんだし帰ろう。一晩たって頭を冷やせば、君の考えも変わると思うよ」
そういって式は翼に背を向け屋上から出ようとした。
そのとき、後ろからフェンスをよじ登る音がした。
「……?」
式が後ろを振り向くと、そこには不安定なフェンスに立っている翼の姿
があった。
「…何やってるの?」
「僕は本気だよ」
会話のキャッチボールができていない。
「僕は信じているよ。君が最後に介錯してくれるって。そして最後に言うけど」
翼は言葉を区切り、
「僕と友達になってくれてありがとう」
と言い、フェンスから飛び降りた。
「!!」
式が言葉を発する前に、下の方から鈍い音がした。
「…嘘だろ」
式は呆然とした。
下が騒がしくなって、ようやく体が動くようになった。
式は恐る恐るフェンス越しに下を覗いた。
そこには、血を流してうつ伏せで倒れている翼の姿があった。
その周りに、人が何人か集まっており、騒ぎとなっている。
「……」
正直、冗談だと思っていた。
翼が自分を困らせるために、あんなことを言ってたと思っていた。
だが、彼は実際に死んでしまった。
この死は式が招いたものだ。
あの言葉を本気で信じて入れば、このようなことにはならなかった。
狂っているとわかっていたなら、こうなってしまう可能性も考えるべきだった。
「……」
式は、後悔の念に苛まれながら、その場で座り込んでしまった。




