なぞなぞ
放課後になり、帰ろうとした式のもとに翼が現れた。
「一緒に帰ろうよ、式くん」
翼が誘ってきた。
特に断る理由もないので、「いいよ」と了承した。
二人で帰ろうとしたとき、
「式くん、一緒に帰りましょうか」
と、榊からも誘われた。
「あ、榊さん…」
「ごめんね、榊さん。今日は僕と一緒に帰る約束をしちゃったんだ。じゃあね」
翼は式の手をひき、かけだした。
「あっ…」
榊が声をかける前に二人は教室を出てしまった。
「ねえ式くん。少し話したいことがあるからどこかへ寄ろうか」
帰宅途中、翼がそのようなことを言ってきたので、近くのファミレスに寄ることになった。
式はついでに夕飯を済ませようと思い、適当に頼んでドリンクをもってきた。
「それで、話って何かな?」
式はさっそく本題に入った。
「…ねえ式くん、君は信頼できる人になら自分のことをどこまで話せる?」
「え?」
「絶対に他人に知られたくないことでも、この人になら話してもいいかなって人はいるかな?」
言葉は違うが、似た内容の質問を翼は繰り返した。
「…いない、かな。今のところは」
「…そっか。じゃあ僕も今はやめておこうかな」
どうやら翼は話すことをやめたようだ。
「本題は話さないってこと?」
「うん。ごめんね」
「じゃあ何のために俺を誘ったのさ」
「今はまだ、話さないことにしたんだ。でもこのまま帰るのも君に悪いし、お詫びとして僕がひとつなぞなぞを出すよ」
「なぞなぞ?」
式は聞き返した。
「うん。殺人事件を解決した君ならきっと解けると思うよ。これが解けたら、今話そうとしたことをきちんと話すよ」
「わかった。受けて立つよ。それで、どんな問題?」
「先に言っておくよ。この話は本当のできごとだ」
翼は一呼吸つき、
「僕は、過去に行くことができるんだ」
と言った。
「…は?」
式は思わず言葉をもらした。
突拍子もないことを言いだしたのだから無理はない。
「証拠を見せるよ」
と、翼は携帯を開き、何枚かの画像を式に見せた。
「この画像は…?」
「僕が中学生のときに彼女と旅行に行ったときに撮った写真なんだ。それでこの画像を見てほしい」
と、翼は一枚の画像を指差した。
「この画像の僕の左腕を見て。特に何もないよね。そしてこの画像を撮った日付も見てほしいんだ」
と、翼は画像のプロパティを開き、式に見せた。
「7月27日って出ているでしょ?この日付をよく覚えててね」
続けて翼は2枚の画像を式に見せた。
「で、こっちが7月26日に撮った写真で、こっちが7月28日に撮った写真。この写真を見て、何かに気づかない?」
そう言われたので、式は2枚の写真をじっくりと見た。
どちらの写真も後ろには綺麗な景色が広がっていて、翼と彼女の二人で写真に写っている。翼は楽しそうな表情だが、彼女の表情は心なしか暗く見える。
2枚の写真の翼を見ていた式が、何かに気づいた。
「谷口くんの左腕に傷がある…?しかも、同じ場所に」
「そう。でもこれって変だと思わない?」
確かに変だ、と式は思った。
7月26日にある傷が7月27日にないのに、7月28日にはまた同じ
場所にある。これはどういうことだろうか。
「僕の治癒力が異常なほど高いっていうわけじゃないよ。この傷は今でも痕が残っているんだ。ほら」
と、翼は式に左腕の傷を見せた。
確かに画像の傷と一致している。
「ちなみにこれらの画像には一切手を加えていないよ。つまり27日の画像を加工して傷を消したってことはないし、撮影した日付をいじったわけでもない」
「それは全部本当なの?」
「もちろん」
そうでなければなぞなぞの意味がないよ、と翼は言った。
「僕は27日に過去、つまり26日に行ったんだ。でもそのとき少し失敗してしまってね。左腕に傷を負ってしまったんだよ。これがその傷の正体」
その話は到底信じられるものではない。
しかし、今の時点では否定する材料がない。
「ここで問題。僕はどうやって過去に行ったのでしょう?」
翼は不適な笑みを浮かべて式に尋ねた。
絶対に解かれない自信があるのだろうか。
「もし僕が過去に行ったということを否定したいなら、この写真の矛盾をどう説明するのか、それを教えてほしいな」
式は翼が過去に行ったとは思っていない。何かしらのトリックを使ったはずだ。
「いくつか質問をしていいかな?」
「答えられる範囲でいいなら。ただし、三つまでね」
あまりヒントを与えたくないのだろう。
「わかったよ。まず一つ、君は未来にも行けるの?」
「うん。行けるよ」
即答だ。
だが、これだけでは何のヒントにもならない。
式は続けた。
「じゃあ二つ目。遠い過去や未来にも行くことができるの?」
「うーんとね…」
翼は少し考え、
「遠くは無理だね。一日前か一日後しか行けないよ」
と言った。
(遠い過去や未来には行けないか…)
これは問題を解くヒントになるのだろうか。
「じゃあ最後。今すぐ過去や未来に行くことはできる?」
「無理だね。タイムマシンに乗らなきゃ」
「タイムマシン?」
「これ以上はもう答えられないよ?」
どうやらこれ以上質問しても無駄のようだ。
「というわけで、僕から与えられるヒントは以上。後は君が何を調べようと自由だけど、もう僕は一切謎に関しての質問は受け付けないよ」
「わかったよ。それで、期限はいつなんだ?」
「特に考えてなかったな。じゃあ一週間以内で」
一週間。
それだけあれば、解けるかもしれない。
「じゃあ一応最後に聞いておこうかな。現時点での君が考えるタイムスリップする方法とは何?」
「え?そんなことを急に言われても。光の速さで移動したら過去や未来に行けるってのは聞いたことあるけど、そんなことしたら死んじまうよな」
「あはは。面白いこと言うね。というかその話ってまだ推測の域を出ていないよね。僕の場合は本当に過去に行けるんだよ。記録がそれを物語っている」
翼は携帯の画像を式に見せつける。
「だったら、俺はそれを否定してみせるよ。必ずね」
「楽しみにしているよ」
「ところでさ、その画像もらってもいいかな?」
この謎を解くには、あの画像が必要不可欠だ。画像に何かヒントが隠されているかもしれない。
「いいよ。だけど、僕の彼女に惚れないでね」
「わかってるよ!」
何を言っているんだよ君は、と式は言った。
画像がきちんと送られたことを確認し、二人は席をたった。
「それじゃ、今日は付き合ってくれてありがとう。じゃあまた明日学校で」
「うん。じゃあね」
と言って、式はファミレスを後にした。
「…そっか。そういう方法もあるんだな」
翼は最後に、誰にも聞こえないほど小さい声で声でつぶやいた。