翼との出会い
部屋に目覚ましの音が鳴り響く。
目覚めたばかりの式十四郎は目覚ましを止めようとするが、まだ目が開ききっていないためか、スイッチに手があたらない。いい加減やかましくなったので、顔をたたいて目を覚まし、目覚ましを止めた。
「あれ…?まだ8時だ」
今日は早起きをしてしまった。
昨日目覚ましの時間を間違えてセットしてしまったようだ。
「せっかく早くおきたし、今日は学校に行こうかな」
式が通う学校は、完全学力主義制を採用している。定期テストで高得点をとれば、毎日学校を休んでも内申点が保障されるという制度だ。式は記憶力がいいので、定期テスト前に開かれる対策講座に参加してテスト範囲を全て覚えて本番に挑むという勉強法を採用している。そういう勉強法なので、普段は学校に通うことはほとんどない。それで高得点がとれればいいのだが、実際は平均点ギリギリなのでかなり危うい。
顔を洗った後、適当に朝食を済まして歯を磨き、学校へ行く準備が完了した式はふと時間を確認した。
「今から行けば、2時間目に間に合いそうだな」
遅刻確定なのに、そのような呑気なことを言っている。将来大物になるかもしれない。
「はあ…眠いなあ」
式は愚痴をこぼしながら、学校へむかった。
学校へたどり着いた式は、教室には向かわずに図書室へ向かった。
まだ1時間目が終わっていない。授業中に教室に入るのは気まずいので終わるまで図書室で待とうと考えたのだ。
図書室のドアを開け中に入ると、すでに先客が本を読んでいた。
式はその人物を見た瞬間に不思議な魅力を感じた。
第一印象は儚げな少年、といったところか。
少年もこちらに気づき、式を見て一瞬驚いた表情を見せた。
「あ…君ってもしかして式くん?」
「え、お、俺のことを知っている…んですか?」
先輩かもしれないので、式は一応敬語を使った。
「あはは。そんなかしこまらなくてもいいのに。僕は君と同じクラスだよ。君はよく休んでいるから僕のことは知らないだろうけど」
「そ、そうなんだ」
「僕は谷口翼。よろしくね式くん」
「よろしく」
互いに自己紹介をした。
「それで式くんは今日は授業には出ないの?」
「今日は遅刻しちゃったから次の授業から出ようと思ってるんだ。それまで図書室で時間を潰そうかと思ってさ。谷口くんはどうしたの?」
「僕も同じだよ。僕たちって思考が似てるんだね」
翼はくすくすと笑った。
「いや、違うか。僕は君と違って頭は良くないからね」
「俺もよくないと思うけど」
「そんなことないよ。頭がよくなきゃ殺人事件なんて解決できないでしょ」
「……!」
その言葉を聞いた式は驚きの表情を浮かべた。
「な、何で…」
「ミス研のメンバーが突然転校した時期にそんな噂が流れたよね。そのときに榊さんに聞いたんだけど、その殺人事件は君が解決したって言ってたよ」
榊さんとは、式たちのクラスメイトでクラス委員長をやっている女子生徒だ。
「でも、そのことは誰も信じなかったじゃないか」
「少なくとも僕は信じるよ。だって君からは不思議な魅力を感じるからね」
翼も式に同じ感想を抱いていたようだ。
翼は読んでいた本をとじ、式に近づいた。
「僕はさ、君に一度会ってみたかったんだ。君は学校にもほとんど来ないしね。どんな人なんだろうと思ってたんだけど、案外普通の人なんだね」
翼はまっすぐ式の目を見つめてくる。その視線に耐えられなくなった式は目をそらした。
その理由は、式が他人の視線に慣れていないことと、翼の容姿が中性的でまるで女子生徒に見つめられている気がしたからだ。
「君とは仲良くなれる気がするよ。よかったら僕と友達になってくれないかな?」
「え…?」
式は目をきょとんとさせた。
「ダメかな」
「い、いや大丈夫だよ。いきなり言われたからびっくりしちゃってさ」
「ありがとう。じゃあこれからよろしくね」
翼はにこりと笑い、手を差し出した。
式はその手を握り、「こちらこそよろしく」と言った。
「そろそろ授業も終わるし、教室に行こうか」
翼に手を引かれ、式たちは教室に向かった。