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七話

 ――葵達が召喚された頃の話を聞き、凛は朔がどうして直ぐにでもこの国から出ていきたいのかをようやく理解する。



 そしてそれ以上に、戦争迄に発展してしまったこの争いを、この二人はどのように解決したのかが知りたくなった。



「兄さん達はどうやって戦争を終わらせ、世界を救ったんですか?」



「一先ず、事情を知った俺達は、これ以上の被害を出せないと国王に進言した後、俺と葵と俺達が信用できると判断した者たちで、魔王の討伐に向かうことにした。

 もちろん、それは表向きの理由で、本来の目的は俺達と魔王はお互いに死力を尽くした結果、相討ちに終わったと着いてきた者たちに嘘の情報を流してもらい、魔族もそれが原因で撤退したかのようみせた。

 これで表面上、お互いの最高戦力を失ったことにより、戦争は瞬く間の内に終結したよ。元々、人間側は魔族の国を手に入れてもなんの旨味もない事を知っていたし、俺達なしじゃ魔族に攻め入ることなんて不可能だしな」



 今思えば、なんとも子供じみた策ではあったが、人間追いつめられると視野が狭くなるもので、思いの外すんなりと作戦通りに話は進んだ。



「……それで、世界を救ったことになるんですか? 確かに、召喚した人間側はそうかもしれませんが、魔族の国の問題は何一つ解決してませんよね?」



「……その問題は、意外と簡単に解決してしまったんだ」



「――は? く、国の一大事が簡単? それが原因で戦争迄起こってしまったのに?」



 今までの話はなんだったのかと、訳が分からず頭を抱え込んでしまっている凛には悪いと想いはするが、一先ずはこのまま話を続けることにする。



「――魔族の一番の間違いは、数が多いという理由で、人間に協力を頼んだことだ。だから俺達は亜人達に今回の戦争の原因を話した上で、協力を頼んだ訳なんだが――」



「――予想以上にあっさり協力してくれた訳よ」



 朔が言いづらそうにそうにしているのを察し、後半を葵が告げる。



「おまけに、貴族にも少数なんだけど協力的な人達も居てね、その人たちが筆頭に国に不満がある人や働き口がない貧民街スラムの人達を集めて環境改善に協力してくれたのよ。――その結果、そのまま永住する人たちも増えちゃって、魔族の国は、魔族に亜人、そのうえ敵対していた人間達さえも住む国に生まれ変わっちゃったって訳」




 発案者は朔だが、先導していたのが葵だったのが良かったのだろう。さすがは勇者様と言いたいほど見事な統率力だったのだが、あまりにも話が上手くいきすぎて、何か裏があるのではないかと、勘ぐっていたが、結果はこちらの心配を余所に、何事もなく平穏無事に話は進んでしまった。



「……一応、いい方向に解決したからいいんですが、戦争に発展してしまった問題が、協力を頼んだ種族が原因だっただけというのは……おまけに、戦争の原因でもある人間達も協力してくれたのがまたなんとも言えませんね……少し魔族の人たちに同情します」



「……凛が同情したくなる気持ちも分からなくもないんだが、魔族は魔族で素直に同情しきれない理由があってなぁ」



「魔族にも問題があったということですか?」



 今までの話を聞いた感じだと、魔族には全くの落ち度はないと思うだけに朔の発言を不思議に思い首を傾げる凛。



「いや、問題と言えば、問題なんだが、そう一口に片づけていいもんでもないというかな」



 先ほどまでとは違い、なんとも歯切れが悪くなる朔。それを見て楽しそうに葵が、朔に代わって答える。



「さっき、凛にも話したと思うんだけど、魔族の人たちの特徴について憶えてる?」



「確か……全ての魔族は繋がりが強くて、辛い環境に適応したため魔族は単体で複数の人間達を相手に出来るほどに強い、でしたっけ?」



 先ほど聞いたばかりなので、間違えてはいないはずだとは思うが、少し自信がないため葵に確認する。



「その通り。で、注目してほしいのは、『環境に適応するため』ってところなんだけど、簡単に言えば、環境に負けないために体を鍛えたって意味でしょ? でも単純に鍛えただけじゃ環境には勝てない、だから余計な事を魔族は切り捨てた――」



 なんとなく、葵の言いたいことが分かってきて、凛はその続きを聞きたくなくなってきたが、そんなことお構いなしに葵は話を続ける。






「――凛も、分かったみたいね。そう、魔族は体を鍛えるために知識を学ぶ機会を捨てた。――つまり、魔族は共通して全員が脳筋だったのよ!!」



 “言ってやったわ!”と言わんばかりのすっきりした顔の葵。凛は今、葵が言った馬鹿らしい話は本当かと目で朔に訴える。



「……言いたいことは分かるが、そんな目で見ないでくれ凛。それに悲しいが葵が言ったことは真実だ」



「……魔族は国総出で脳筋?」



「……多少は、いないこともないが、大多数がそうだ」



 凛の呟くような質問に、しっかり答える朔。



「……馬鹿らしい」



 今まで長々と話していたことはなんだったのかと、既にこの件は終わった事であり、自分は当事者ではないのだから、何も言える権利はないが、それでもこのやり場のない怒りをどう処理していいのか分からず、思わず出た言葉がソレだった。



 それを察して朔も凛になんて言えばいいのかと考え込んでしまった。



 二人が黙り込んでしまい、その沈黙を破るかのように葵が喋りだす。



「――確かに馬鹿らしいわね。せめてもう少し魔族が賢ければ戦争が起きなかったかもしれないし、それどころか私と朔が召喚されるなんて事もなかったかもね」



 葵が語る、もしかしたらの話を聞き、葵達を召喚する切欠を作りだした魔族達を少しだけ憎く感じてしまう。きっと、口には出さないが、辛い事も沢山あっただろう。

 そう思うと、沸々と怒りが沸いてくる。



 その想いを口に出そうとしたところを葵にまだ話は終わってないと、手で止められる。



「――でもね、私は召喚されて良かったって思ってるわよ? なんたって、そのお陰で魔法なんていう日常生活では絶対に得る事のない力を手にすることになったし、可愛い不思議な生き物とか沢山いるしさ! そのためなら面倒事の一つや二つ解決して見せるわよ。主に朔が」



 その、なんとも葵らしい発想に呆れてしまうが、それと同時に感心もしてしまう。



 世界を救った対価は魔法と可愛い生き物で十分だと言うのだから。いくら世界が広くとも葵のような考え方の持ち主など極僅かな存在だろう。



 ――しかし、その様な欲のない考え方だったからこそ、勇者に選ばれたのだろうとも納得する。



「……何だか姉さんの話を聞いていたら魔族のことなんてどうでもよくなりました」



 本人がどうとも思ってないのだ。それを部外者が口をだしたところで、それは全て余計なお世話というものだろう。



「――あ、召喚されて良かった理由、もう一つあったわ」



 本当に今、思いついたとばかりに葵が言葉を漏らす。



「どんな理由なんですか?」



 葵は優しげな笑みを浮かべながら告げる。



「――――私たちが先に召喚されていた経験があったお陰で、凛を助けに来ることが出来たわ」



 でしょ? と、朔に視線を送る。



「――そうだな。それだけで今までの俺達がしてきた事は、この時の為に必要な事だったのかもな」



 凛を間に挟んで、朔と葵の二人は噛み締めるかのように、この場に来れたことを喜びあう。






 ――確かにそれは二人の心の底からの本音であろう。普段の二人を知っている凛からしてみれば、それが嘘いつわりのない本音であることは、十分に理解している。これは自分をからかうために言っているのではないと。



 しかし、そのことがわかっている凛にしてみれば――



「――ね、姉さんも兄さんも、いきなりそんな恥ずかしいことを真面目な顔して言わないでくださいよ。気持ちは嬉しいですが、どう反応していいか困ります」



 と、二人のあまりにもストレートな告白に顔を真っ赤にして答える。



「もう、顔真っ赤にしちゃって~。ホントに可愛いな~凛は~」



 抱えていたネージュをいつの間にかおろしていた葵が、凛を抱きしめながら頭を撫でる。



「きゃっ!? ね、姉さん止めてください! 髪が乱れます!」



 そう言っても、なかなか止めない葵を見かねて、朔が止めに入る。



「――葵。そろそろ止めてやれ。それ以上続けたら、凛がキレるぞ」



 その一言で葵の手がピタリと止まる。



「う~。もう少ししたかったけど、仕方がないか」



 手櫛で凛の髪を整えながら、抱きつくのを止める。



「姉さんを止めてくれたのは嬉しいんですが、その止め方はなんですか? まるで私が怒ると怖いみたいじゃないですか」



 思わず、ジト目で朔を睨みつけてしまう。



「いや、だって。なあ――」



「ええ。そうよね――」



 具体的なことは何も言わず、目線で会話し合う両者。



「……はっきり言いなさい」



 二人の反応が気に食わなくて、敬語も抜けて命令口調で話してしまう凛。



「「いえ、何でもないです! すいませんでした!!」」



 凛の口調が変わって、本格的にに不味いと思った二人が反射的にピシっと背筋を伸ばし、そこから最敬礼で声をそろえて凛に謝りだす姉と兄貴分。



「……次はないですよ」



 凛からのお許しを得たことで、先ほどまでの緊張感が弛緩し、空気が緩やかになる。



「――それで、まだ話さないといけないことはあるんですが?」






なかなか、話が進まなくてすみません。

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