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六話

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 ――まずは、俺や葵の日常生活から説明した方が分かりやすいか。



「凛も知ってのとおり、普段の俺達を見てたら分かるが、葵はあらゆるトラブルを引き寄せるトラブル体質だ」



 凛もそれをよく理解していたのか、深く頷き――



「ええ。私も兄さんほどではありませんが、姉さんの厄介事に巻き込まれたことがあります。本当に物語の主人公のように色んな事に巻き込まれますよね、姉さんは」



 呆れたように、そんなことを言うがな、凛。



「凛だって、似たようなもんじゃない。少なくとも、今回の異世界の召喚は、凛に起きた事なんだから」



 葵が凛に言い返す。言い返された凛もその事を自覚していたのか、なにも言い返せなかった。



「そして、凛に起きていたような事が、葵に起きてないわけないだろ?」



 その言葉に、何かを思い出したのか、凛が呟く。



「……もしかして、あの王宮魔導師と呼ばれていた人が言っていた、前回召喚されたという勇者の話は――」



「多分、私のことね」



「それじゃあ、その時に巻き込まれた人って言うのが、兄さんなんですね?」



「ああ。葵には、色んな厄介事に巻き込まれたが、まさか異世界にまで巻き込まれるとは思わなかったわ」



 その結果、葵のトラブル体質は昇格ランクアップし、ファンタジー要素まで追加されることになるんだよな。色んな事があったなぁ、と朔が遠い目をしていたら凛に質問され、現実に引き戻される。



「兄さん達は、いつ召喚されたんですか?」



「丁度十年前かな。」



 凛は、朔達がそんな昔に召喚されたことに驚くと同時に、当時の姉達のことを思い出し、疑問を口にする。



「……そんなに昔から異世界に行っていたのに、兄さん達が連絡もなくいなくなった事は一度もありませんよ?」


 

「俺達にとっては都合のいい話なんだがな、向こうとこっちでは時間の流れが大分違うらしくてな、こっちで長く滞在していても、向こうに戻る時は召喚されてからたいして経ってないわけだ。おまけに俺達は向こうの人間だからか、こっちで何年過ごそうが、向こうの時間は大して進んでないから、肉体も老化しないらしい」



 あまりにも信じがたい話ではあるが、そのお陰で精神年齢はともかく、肉体年齢は現役のままだ。



「なんとも私達に都合のいい話ですね」



 確かに、凛の言うとおり都合のいい話なんだがな。



「仮にも、違う世界から本人の了解もなく、問答無用で拐っていくんだ、それくらいの特典がないと割りにあわない」



 苦労して帰ってこれたとしても、自分が過ごした時間に元の状態に戻れなければ、それはもう異世界と召喚された時と大した違いはないんじゃないかと、俺は思う。



「それもそうですね。……では私達は本当に帰れるんですね?」



 凛はためらいがちだがはっきりとした声で、朔に聞く。



「ああ。だが、そのためにはこの世界を救わないといけない」



「この世界を救うことが、私達が元の世界に戻ることと、なにか関係があるんですか?」



「俺達を召喚する際に使われた魔法陣はな、この世界が救われるまで起動することはないんだよ」



 本当にご都合主義な展開で困るよな、と苦笑交じりに答える。



 その話を聞いてがっくりと肩を落とす凛だが、言われてみれば確かに、と頷く。



「……そうでなきゃ、こんな話してないで、さっさと帰ってますもんね。――それで、具体的には何をすればいいんですか?」



 今は落ち込んでる場合ではなく、今後について話し合わなければ、と凛は気を取り直し、朔に話を続けるように促す。



「その辺は、王さまが教えてくれるとは思うが、偉い奴っていう人種は何処の世界でも共通して胡散臭いからなー。半分本当、半分嘘な気持ちで聞くのが丁度いいぞ」



 本当に前回の召喚の時に、それを心の底から朔は思い知った。権力や保身の為には、当時の葵のような女の子であろうと、利用できるものは利用しようとする、権力を得た強欲な大人達の醜さを知り、当時軽い人間不信になってもおかしくない程だった。



「兄さんが直ぐにでも、ここから抜け出したいと言っていたことと、関係があるんですか?」



 朔の態度から、よっぽど嫌なことがあったのだと察し、詳しく聞いてくる凛に疲れた声で話す。



「前回の時に色々と苦労したんだよ。……その時に勇者を召喚した理由を当時の王に聞いたら、急に魔族が襲ってきたって言われたんだが――」



「よくある話ですよね」



 朔の話に特に違和感を感じることもなく、素直に頷く凛。



「……確かに、凛の言う通り当初は俺達もそう思っていたんだが、何度か魔族と戦って感じた俺の感覚だと、魔族の連中が理由もなく襲ってきたって理由が胡散臭く感じてきてな、それで俺個人が陰で動いて、なんとか魔族の一人と接触して話を聞いてみたら、初めに手をだしたのは人間側だったらしいんだ」



 ……その時から、ある一方だけの話を聞いても真実はねじ曲げられる事があるって事を知ったんだ。



「……その魔族が嘘をついた可能性もあったんじゃないですか?」



 まぁ、まだこの世界の人間と大して話してない凛なら、そう思うのも無理ない。



「普通はそうなんだけどさ、よくよく話を聞いてたら……魔王だったんだよ、俺と話してたやつ」



 さすがにあの時は死を覚悟したね。思わず遠い目をして過去を振り返る朔。



「……魔族と接触しようとするのはまだわかりますが、なにをどうやったら、そこで魔王につながるんですか……」



 明らかに呆れた目でこっちを見てくる凛。だが、こればかりは俺のせいじゃない、と凛に反論する。



「単純に向こうも俺に興味があったんだと、葵とは別の意味で目立ってたらしいからな、俺」



「……魔王に注目されるほど目立ってたなんて……なにしてるんですか、兄さん……」



 反論したにもかかわらず、より一層、凛に呆れた目で見られてしまう朔。その視線に耐えきれず、凛から目を逸らしつつ、朔は頬を掻きながら自分が何をやらかしたかを話しだす。



「この国を含めて、獣人やドワーフと言った亜人達が奴隷として扱われてたから、そいつらを解放したり、働き口を探したり……まぁ色々?」



 まぁ、主に不当に扱われている亜人達を目撃した葵が、居ても立っても居られなくなってその場に突撃して、敵に回すと厄介になりそうな貴族がいたから、そうならないようにしてたら、いつの間にか亜人達の英雄みたいになってたんだよなぁ。



「どうやって解放したんですか?」



 純粋な好奇心で朔に聞いてくる凛。



「このまま奴隷として扱っていると遠からず不満が爆発した奴隷達が魔族と徒党を組んで、より一層不利な状況になる未来が待ち受けてますよ~って当時の王に言っただけ。ついでに奴隷として扱うより、しっかりと賃金を払って労働者として使った方が、彼らも喜んで働いて効率も良くなると思うな~と、今は損をしているように見えても将来的には得になって返ってきますよ~みたいなことを言って、王を納得させて、国の法律事態を変えさせた。多少、貴族にも恨まれもしたが、トップの決定は逆らえないしな」



 ……結果を言えば、葵こそ狙われずに済んだものの、結局貴族に恨まれることになった俺は暗殺じみたことは多々あったが。



「……その頃から、人を騙す才能の片鱗をみせていたんですね」



 どんな場所に居ても何時も通りの朔にがっかりする凛。



「別に騙したってわけじゃないぞ? 実際、魔族のやつらは亜人達に接触しようとしてたらしいからな。その時に亜人達の待遇を改善するために奔走していた俺を知り、俺が魔族と接触したがっていると分かった魔王が、直接俺に接触してきたわけだ」



「なぜ魔王自ら来たんですか? 普通は部下がするべきことでしょう?」



 流石に種族のトップがすることではないんじゃないかと、魔王の不可解な行動を不思議に思った凛が、その理由を朔に聞く。



「……俺も不思議に思って聞いたんだよ。そしたら魔王に『人間にまた話も聞かないうちに家族が襲われるかもしれないからだ』って言われたよ。その時に初めに手を出したのは人間だったって知ったよ」



「両者共に相手が先に襲ったと言っている中で、何故兄さんは魔王の言うことを信じたんですか? もしかしたら、兄さんを寝返らせる為に嘘を言ったのかもしれませんよ?」



 確かに普通に考えるなら、その可能性は十分にあった。



「凛なら、自分達と多少容姿が違うだけで、多種族を嫌う連中と、それを知ってても共存を願い出た魔王達の言い分のどっちの話を信じられる?」



 客観的な事実を凛に告げ、凛の答えを待つ朔。



 少しの間、沈黙が続くなかで、ようやく答えがでた凛が口を開く。



「……その話を聞けば、私でも魔王の話を信じると思います。でも魔王達は嫌われていることを知っていながら、何故共存を願い出たんですか?」



「単純に自分達が住む環境が辛いから、環境改善の協力をして欲しかったそうだ。……それで、使者を出した訳だが、それを人間側は問答無用に切り捨てたって訳だ。

 魔族はその辛い環境のせいか、全ての魔族との絆が強くてな、その使者に出た魔族が魔王の奥さんだったってのが、余計に拍車をかけ、そのあまりにも非道な対応に魔族達は怒り狂い、瞬く間に戦争だ。オマケに辛い環境に適応するために魔族は単体で複数の人間を相手に出来るほどに強い。

 で、劣勢に立たされた人間側は藁にでも縋る思いで異世界から勇者を召喚し、その勇者に葵が選ばれた訳だ。……因みに国民は召喚されたばかりの頃の俺達と同様に、突然魔族が襲ってきたと思わされていたよ」




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