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五話

 ――凛が溜め息をついているが、それも、仕方ないよな。いきなりこんな場所に連れ去られると思ったら、帰る方法がないと告げられ、俺や葵は魔法使いだった、なんて展開が一日にあったら、誰だって頭がパンクしてもおかしくない。



 だと言うのに、まだ話すことがあると言われれば、流石の凛も溜め息くらい吐きたくもなるだろう。



「――悪いな、凛。疲れてるかもしれないが、出来るだけ今日中に話せるだけ話しておかないといけないことなんだ」



 だが、厳しいかもしれないが、今の俺はこういうしかない。それが分かってる葵も沈黙を貫いてくれている。



「……分かってます。いつもの兄さんなら私の体調を気遣って既に休ませている筈です。そんな兄さんが私の体調を気遣う余裕がないと言わんばかりに話を進めると言うことは、事態はそれだけ緊迫しているってことですね?」




 ……凛の態度に素直に驚く。俺の予想以上に現状を把握していたらしい。俺や葵の態度から推測したんだろうが、いつの間にか随分と成長したみたいだな。



 葵もそう同じことを思ってるらしく、嬉しそうだ。



 これなら思ったよりスムーズに話がすみそうで、内心安堵する。



「ああ、そうだ。出来ることなら、今すぐこの場から抜け出したいところだが、強引に抜け出すってのもまずいんだ」



「……私が原因ですね?」



「そうだ。勇者に選ばれてしまった凛がいなくなったとわかれば、連れ出した俺と葵が大陸中に指名手配されることになるだろう。最悪、俺と葵だけなら大丈夫だが」



「……まだ何の力もない私では、二人の足手まといになるんですね」



「凛もこの世界に来たことで力が覚醒しているから、直ぐに足手まといじゃなくなるとは思うが、逃亡生活をしながら、いつ即戦力になるかわかならいことに時間をかけてる余裕がない。そんなリスクがあるなら逃亡なんて選択は、はじめから捨てたほうがいい」



「……では、どうするんですか?」



 俺の話から逃亡するのは無理だと分かって暗い顔をしながら凜は質問してくる。



「そりゃ、堂々と出ていくしかないだろ」



 ま、俺からすれば、そんな暗い顔するほどのことじゃないから、凛に自信満々に代替案を提示する。



 しかし、それは凜からしてみれば予想もしていなかったことらしく――



「…………は?」



「どうした? なんかおかしいこと言ったか?」



 逃亡が無理なら堂々と出るしかないなんて、当たり前だよな? 両意を得るためにと視線で葵に送るが、何故か笑いを噛み殺していた。



「い、いえ、逃亡が無理なのに、堂々と出ていくのは簡単なんですか?」



「何言ってんだ、凛。そんなの逃亡する以上に難しいに決まってるだろ」



 あんな利用することしか考えてない奴らが、俺達を簡単に自由にさせるわけないだろうに。



「……わかりました。兄さんは私を馬鹿にしてるんですね?」



「は? まてまて! なんでそうなる!? 俺は凛を馬鹿にした覚えなんて微塵もないぞ!」



 凛の視線に殺気を感じて、そんなもん向けられる覚えなんてないと、必死に弁解する。



「嘘です! 逃亡は無理! 堂々と出るのはもっと無理!! こっちは真剣に聞いてるって言うのに、なんですかそれは!? 私を馬鹿にしてるとしか思えないでしょう!」



 捲し立てるように俺に訴えてくる凛、そのやり取りを見てもう耐えきれないと言わんばかりに、葵が爆笑しだした。



「何がおかしいんですか、姉さん!!」



 凛に吠えられた葵が、ようやく笑うのをやめた。



「いやー笑わせてもらったわ。凛も結構落ち着いてるようにみえて成長したなって関心してたんだけど、表面上はそう見えるように頑張ってたのね」



「……どういうことですか?表面上もなにも、私はもう十分落ち着いています」



 からかわれていると感じた凜は、ムキになって反論する。それに対して葵も先程のようにからかうようすもなく真面目な顔をする。



「話が聞けてるだけだから、あんなに怒ったのよ。普段の凛なら、本当の意味で朔の言ったことを理解していた筈よ」



「……どういうことですか?」



「……それを私に聞くって時点で、普段の凛じゃ、ありえないんだけど。やっぱりこれだけのことが一度に起きたら流石の凛でも頭が一杯になっちゃうか」



「……そんなに普段の私とは違いましたか?」



「ええ。普段の凛ならあそこまで怒らないと思うわ。……まぁ、私達も凛なら大丈夫だと思いすぎてたって話ね。だから、今回悪いのはちゃんと説明をせずに何時もの調子で話した朔が悪い」



 ……そこまで言えば十分だ。確かに今の説明じゃ怒られても仕方ない。その事に気付いた俺は凛に謝る。



「凛、悪かったな。凛なら言葉の裏もちゃんと理解してくれるから、説明を省いちまった」



 それに、他のことには、しっかり理解しているようだから大丈夫だと思ったのがまずかったな。いつもなら有り得ないポカがでてもおかしくない状態なんだから。



 なんだかんだで俺も本当に焦ってんな。普段ならやらないポカが多すぎる。ふう、と一つ溜め息を吐き、一度葵にバトンタッチすることを決める。



「悪いが葵がその辺を説明してくれるか? 俺だとまたやらかしそうだ」



「今回は仕方ないわね。出来るだけ分かりやすいように話すから、しっかりしなさいよ? 聞いてみたら大したことじゃないんだから」



「……お願いします」



 俺や葵に散々、普段の凛と違うって言われたからか大分落ち込んでるみたいだな。



「じゃあ、話すわよ。朔は確かに逃亡はリスクが高すぎるから無理って言ったわ」



「……はい。そして堂々と出るのも無理だと――」



 先程も言ったことを凛が再度言おうとしたら、途中で葵に止められた。



「はいそこ、そこが違う。朔はそうは言ってないわ。無理じゃなくて、難しいと言ったのよ?」



「……そんなの、大した違いなんて――あ」



「そう、大して違いなんてないようでいて、大きな違いがあるわ、普段の朔を知ってるなら」



「……姉さん達の言うとおりでした。確かに普段の私ではなかったようです」



 ようやく、先ほどから葵達に言われたことが分かり、深く頷く。



「それが分かったんなら、もう大丈夫でしょ。理由もちゃんとわかったんでしょ?」



「ええ。難しいは出来ないことに入りませんもんね、兄さんは」



「そうよ。そして堂々と出たいなら、この城のトップと話をつければいいと思ったわけよ、我らが詐欺師様は」



「なるほど。それなら詐欺師の兄さんなら独壇場でしょうね。でしたら、あのように難しいと言いつつも自信満々に言ってたわけも納得ですね」



 ――二人して、納得してるところに、水を差すようで悪いんだがな――



「おいてめぇら、人をなんだと思ってやがる」



 毎度毎度、人を詐欺師呼ばわりしやがって、いくらなんでも傷つくぞ。



「なんだと思ってるって言われたら、そりゃ――」



「私の愛する彼氏様よ」



「私の敬愛する兄さんです」



 葵も凛も、照れる様子もなく満面な笑顔でそんなことを朔に言い切る。その態度に一瞬たじろぐが、何とか言い返す。



「なら、なんで毎度毎度、人を悪人みたいに詐欺師呼ばわりしてんだよ」



「そこを含めて言ってるのよ、私達は」



 二人して、胸張ってそんなこと言ってやがる。



「まぁ、もういいや、話をつづけよう」



 これ以上言っても、改善されることはないと知り、朔は話を戻すことにする。



「お願いします」



「国王をどう言いくるめかは、明日の謁見の時の国王の対応を見てから、どうにかするからいいとして、次は何から話すか」



 本当に色々と有りすぎて何から話せばいいか迷っていると、凜が助け舟を出してくれた。



「でしたら、何故後から召喚された姉さん達が、私よりこの世界に詳しいのかを聞いていいですか?今までの話を聞いてある程度、推測は付いていますが、そこからなら何故魔法が使えるのかも繋がって、より理解できそうですから」



 確かに、凛の言うとおりだな。元々魔法どころか異世界の存在すら知らなかった俺達が初めて召喚されたのがこの世界だったんだから。

 そこを説明出切れば大体の事情がわかるはすだ。



 ――そうして俺は凛に説明するために、初めて召喚された十年前の事を思い浮かべながら、当時の事を話す事にした。




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