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三話

 王子との話も終わり、こちらの希望通りの部屋に案内してもらい、朔は付近に誰もいないことを確認し、周囲に誰もいな事が確認が出来ていたところで、やっと一息吐く。



 ――さて、大方は予定通りにいった訳なんだが、一つだけ大きな誤算があった。

 朔は手近な椅子に腰かけ、凛の様子を確認している葵に声を掛ける。



「おい葵、凛はまだ駄目そうなのか?」



 そう、凛が先程の王子の発言にショックを受け過ぎたみたいで、朔達が話し掛けても、何の反応もしなくなってしまった。



「流石にショックが大きすぎたみたいね。軽く叩いてみても反応ないわ」



 この部屋に案内されてから葵は凛の頬を叩いたり、つついたり、引っ張ったりと色々と凛の反応を伺っているのだがどんなことをしても反応を示さない。そんな葵と凛の様子を見ていた朔は自分の失態に舌打ちする。



「……完全に計算外だったな。俺達は今回が初めてのことじゃないから、アイツが言ったことが出鱈目って分かるが、何も知らない凛ならアイツが言った事でショックを受けて当然なのに、俺がなんのフォローもしなかったせいで、凛がこんなことになっちまった」



 今回の原因は完璧に朔の落ち度だ。出来るだけ早くあの場から抜け出して、そのあと三人だけになった時に説明すればいいと思って凛の気持ちも考えずに結果を急ぎすぎたせいでこうなったのだから。

 朔としてはショックを受けること自体は想定内の事で、それを理由にあの部屋から離脱し、三人になれる場所で今後の対策について話し合おうという考えだった。

 その事を理解している葵も朔の事を特に責めるようなこともせず、打開策を考えている。



「――しょうがない。こうなったら最終手段しかないわね!」



「ん? 何か秘策でもあるのか?」



「一応ね。効果的だとは思うんだけど、その後、どうなるかがちょっとわかんないわ」



「それなら、やらないよりはマシだろ。現状が続くほうが不味い」



 不安も残るが時間も限られているので、葵の提案を飲むしかない。



「ん、それもそうね。じゃ、朔はしばらく耳塞いでて」



「は? なんで?」



「なんでって言われたら……念のため? あ、あとついでに私が呼ぶまで反対側向いてて」



 俺が耳を塞ぐのと、凛の意識を回復させるのと、どう関係するのかわからないが――



「わかった。それで凛の意識が回復するなら」



 取り合えず、葵の言う事を信じて言われたとおりにして、朔は凛の回復を待つことにする。





 ――じゃあ、最終手段を使うとしますかね。



 葵は未だ意識が回復してない凛の耳許に近より、凛にはっきり聞こえるように――



「――いつまでそのままでいるつもり? ずっとそのまんまだと、凛の大好きな朔お兄ちゃんが凛のファーストキスを奪っちゃうわよ?」




 そう言った瞬間、凛の瞳が生気を取り戻し――



「ふぇ!? き、ききききす!? 駄目です兄さん! まだ心の準備が!?」



 凛は顔を真っ赤にして、否定のしているが、完璧には否定しきれていなかった。



 ――私の予想通り、見事に復活したけど、やっぱりまだ朔のこと好きだったのね、凛ったら。朔に対して未だに好意がある凛の態度を見て内心で溜め息を吐いてしまう葵。



「ナニが心の準備よ。全く」



 一先ず、葵は意識が回復した凛の頭にチョップを叩き込む。



「あぅ! ――っ、姉さん、いきなり何するんですか!」



 凛は痛む頭を押さえながら葵に文句を言い出す。



「何って、他人の彼氏を未だに寝取ろうと企む我が妹に鉄拳制裁?」



 葵の言葉で、先程の事を思い出したのか、途端に顔を真っ赤にし、狼狽えだす凛。



「――っ、兄さんは!?」



 ――さっきまでの発言を朔が聞いていたか確認する辺り、やっぱり朔には聞かせなくて正解だったみたいね。



「安心なさい。朔にはちゃんと耳を塞がせてこっちも見ちゃ駄目って伝えてあるから」



 それを聞いて、やっと一息つく凛。そして顔を真っ赤にしたまま、若干涙目で葵を見つめる。



「うぅ、そんなに私が兄さんの事が好きって分かりやすかったですか?」



 凛は葵に朔の事が好きな事がバレて開き直ったのか、自身のこれまでの朔に対しての態度について不自然だったのかを葵に確認してくる。




「わかりやすいもなにも、そもそもアンタ物心がつくまえから兄さん大好きっ子だったんだから、今更何言ってんのよ」



 どちらかと言うと、私と朔が付き合って数年以上経つっていうのに、未だに諦めてなかった凛の執念の方に吃驚びっくりよ。



「……もしかして兄さんも気づいてるんですか?」



 まぁ、確かにそこは気になるわよね。



「朔は単純に兄として懐いてるって思ってるんじゃない? 朔は一人っ子だから、凛が産まれて、妹が出来たみたいで大喜びだったしね」



「……それはそれで複雑ですね」



 葵の話を聞き、凛は複雑そうな表情を浮かべる。

 バレてなくて安心半分、自分を妹としてしかみてなくて残念半分ってところかしらね。



「てか、アンタ。私から朔を奪う気満々な態度ね」



 さっきの開き直りといい、絶対にそうに違いない。



「え? そんなの当たり前じゃないですか」



 何を当然のことを、とこちらをアホの子を見るかのように見てくる。



「我が妹ながら、なんて厚かましいのかしら」



「そりゃ、姉さんの妹ですから」



 そんなところまで似なくていいのにと思ってしまう。



 ま、そういうとこも含めて我が妹はかわいいのだが。



「はぁ、せめて奪い取るんじゃなくて共有したいにしときなさいよ」



 ――だから、こんなしょうもない提案をしてしまうのだ。



「え? そんなのアリなんですか?」



 葵の提案に凛が目を見開いて驚いてる。



 ――まぁ、普通は驚くか。



 でも、こっちは、伊達に何年も異世界を往き来してないのよ。一夫多妻に多夫一妻どころか、多夫多妻なんてふざけた世界もあったのだ。



 お陰様で、朔に他の女がデキて揺らぐ精神構造を残念ながらしてない。



 まぁ今のところ、朔は私一筋だが、もし他に彼女がデキたとしても、それが凛なら私としても、大いに納得するところだ。



「朔がアリなら、私はアリよ? そもそもこの世界は一夫多妻だし。まぁ、地球に戻ったら色々と不都合が出てくると思うけどね」



 地球だと、どちらが入籍するか、もしくはどちらも入籍しないか、とかね。



 世間に知られたらまずそうだけど、私達の両親も朔の両親も、流石に私達の両親であってか、真面目に話したらこんな馬鹿げた話も笑って受け入れそうなのよねぇ。



 ――あれ? さっきまで笑顔で話を聞いてたのに、今は顔を伏せて暗い顔してる。なにか不味いこと言ったかしら私?



「――あ! もしかして、もう地球に帰れないんだーとか考えてる?」



 そういえば、そのせいで凛が反応しなくなったんだっけ。朔のせいで話の方向が凄いズレちゃった。



 ホントに、朔あっての私達姉妹って再確認しちゃったわね。



「――だって、先ほどの偉そうな態度の男性が元の世界へと帰るのは無理って言ってたじゃないですか」



 偉そうな男性って……ああ、アイツが王の息子だどうこう言ってた時には、もう自分の殻に閉じこもってたのね。



「アイツが言ってた事なんて出鱈目なんだから、気にしちゃ駄目よ」



「……なんで姉さんがそんなことわかるんですか?」



 ま、直ぐには信じてくれないわよね。やっぱりこういうのは朔に任せるしかないわね。



「疑うのはもっともだけど、その辺の説明は朔がしてくれるわ。ついでに朔に告白してみれば?」



「姉さん!」



 ちょっとからかいすぎたかな? でも、これで少しは元気になったでしょ。



 ――じゃ、そろそろ放置気味の朔を呼びますか。そして、葵は鬱々と反省中の朔を呼ぶために立ち上がった。


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