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二十八話

「――うまくいったからよかったものの、俺の指示なしに勝手な事を――」



 先ほどから延々と説教を続けるウルス。

 結果だけ見れば文句はないのだが、護衛を兼ねているウルスとしては、魔物と戦う経験を積ませることよりも、三人を護ることが何よりも優先するべきことだと、ウルスは考える。

だと言うのに、ウルスの心配を余所に勝手に動き出してしまった護衛対象。ウルスが怒ってしまうのも無理はない。



あれがもし、朔のように後方から魔法での戦い方ならここまで怒られることはなかったのだろうが、この世界に来てからまともに外に出ることも出来ず、延々と訓練を熟すだけの毎日。そんな日々が続けば多少ストレスが溜まっても仕方がない気もする。

……ストレスの捌け口にされた魔物はたまったものじゃなかっただろうが。





 移動しながらも延々と続いていた説教もようやく終わり、葵がぐったりとうな垂れる。



「――やっと終わったぁ。ちゃんと退治したのになんでしかられるなんて、勘弁してよ。……ていうか、なんで私だけ? 朔も同罪じゃない」



 一人だけ説教を受けるのは絶対におかしい! と恨みがましく一緒に戦った朔を睨みつける葵。



「同罪なわけあるか。俺はいきなり一人で飛び出したお前の援護をしただけだ。考えなしに飛び出すお前と一緒にするな」



 自分まで巻き込むなと、あっさりと葵の言い分を切り捨てる朔。それに妹分でもある凛の前で説教をされるなんて恥ずかしいにもほどがある、と内心では考えてはいるものの、そんなものはおくびにも出さない。



「兄さんの言う通りです。兄さんは急に飛び出した姉さんの援護しただけなんですから。兄さんを巻き込むのは筋違いですよ――」



「わかった、わかりましたー。私が悪うございました。だからこれ以上の説教は勘弁してよ」



 凛にまで説教されたらたまったもんじゃない! と手を上げ降参のポーズをする葵。一方的に責められている葵が気の毒になったのか、このなかで一番怒っていたはずのウルスが葵をフォローする。



「褒められた行為ではなかったが、対処そのものは悪くなかった。早く倒すことに越したことはないからな。ただ、今回のお前達は守られる立場でもあるんだから、出来るだけ俺の指示に従って欲しい」



 フォローしつつも、さっきみたいな勝手な行動はするなとしっかりと釘をさすウルス。



「りょーかい!」



 元気をよく返事をする葵に胡散臭いものを感じるウルスだが取り敢えず信じることにする。



「――で、俺も葵も一応魔物と戦ったんだが、まだ続けるのか?」



 今度こそ説教も終わり、この森に来た目的は達成したが今後はどうするのかを聞く。



「流石にあれだけじゃあ納得しないだろうな。せめて後四、五回は魔物を倒さないと周りは納得しないだろうな」



「まあ、そうだよな」



 聞いてはみたものの、本人もそのことは分かっていたらしく、周囲を見回し周辺に魔物が隠れていないかの確認を再開する朔。

しかし、歩けども歩けども、先ほどの魔物以降、一向に姿を見せない。



 この森に入った頃には聞こえていた鳥などの声も全く聞こえない。森は不自然なほど静まり返り、時折聞こえる風で草木の葉がこすれ合うとが、やけに耳に残り不安を誘う。



「――ウルスさん。この森って普段からこんなに静かなんですか?」



「……いや、こんなに静かになるなんてことなかったはずだ。そもそもこれだけ歩いてさっきの魔物以降は何も出くわさないってことがありえない」



 凛がウルスに質問を投げ返すが、期待した答えは返ってこない。それどころか返ってきた言葉は不安を煽るものだった。



「なら、一端森の外に出て様子を見ないか?」



 朔がそう提案し、ウルスもそれに頷きかけた時、それを阻むかのようなタイミングで魔物が現れた。

 地球で見るサイズより一回り小さいがパッと見は猪。差異があるとすれば地球で見る猪の牙より長く太い。あれで勢いよく突かれたら一溜りもないだろう。

 朔たちが警戒するよりも速く、猪はこちらに襲いかかりもせず何か追われるように朔たちとは違う場所に向かって逃げ出す。……が、突如猪が現れた場所から、猪が逃げた原因であろう別の魔物が出現する。

 その魔物は、逃げる猪を自身の尻尾で絞めつけ拘束する。きつい絞めつけに遭いながらもなお、必死に逃げようと抵抗する猪に、魔物は猪に咬みつく。

 咬みつかれた猪はびくん、と体を一瞬震わせる。それきり猪が動くことはなかった。



 突然の出来事に理解が追い付かず、静まり返る。

 猪を葬った正体不明の魔物。その一部始終を見ていたウルスがこんな森に出没するはずがないと驚愕する。



「バ、バジリスクだと!?」


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