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十八話

「お、ようやく決まったか」



 今の今まで待たされていたウルスの前に、少し緊張した面持ちの凛が木剣を持って歩いてくる。



「よろしくお願いします」



「じゃ、始めるか」



「はい」



 ウルスの言葉を合図に、互いに剣を構える。



「初めのうちは、俺からは攻撃はしないから、好きなようにやってみな」



「――では、行きます!」



 一先ず、凛がどの程度やれるかを確認するために、好きなように動くように指示したウルスの考えを察した凛は、一つ息を吐いた後に、木剣を下段に構え、ウルスに向かって駆け出し、その勢いを活かしたまま下から斜め上に斬り上げるが、それをウルスは難なく受け止め、互いの木剣と木剣が交じりあう。



 そこから幾合もの剣戟をウルスにぶつけるが、ウルスはその場から全く微動だにせずに、冷静に凜の剣戟を受け止める。このままでは、ウルスに一撃を与えることも出来ないうちに、体力が尽きてしまうと、一端ウルスの間合いから離れ、息を整える。



 そこで、今まで黙って凜の木剣を受けていたウルスが口を開いた。



「悪くない動きだったぜ、勇者の嬢ちゃん。――じゃ、そろそろこっちからも行くぜ!」



 そう言うと同時に、ウルスが駆け出す。その巨体に見合わないほどの速度で駆け出すウルスは、凛との距離を一瞬で埋め、上段から凜目掛けて木剣を振り下ろす。



 ウルスの剛腕から振り下ろされたその一撃は、自身の力量では、受けることもいなすことも不可能だと判断した凜は、即座にその場から離れる。



「まだまだ安心するのは速いぜ!」



 ――そこからは、先ほど迄とは逆で、ウルスが一方的に凜を攻撃する形になった。だが、ウルスとは違って凜にはウルスの攻撃を受け止めることは殆どできず、八割以上はよけに徹していたが、避けきれずに受け止めた衝撃で腕が痺れ、最終的には握力が弱ってきたところで木剣を弾かれてしまい、最後までウルスに一撃を入れられることもなく、一方的に打ち負かされるという形で決着した。



「――素の身体能力で、これだけ出来れば十分だ。これで魔法も使えるようになれば、直ぐにでも即戦力になれる器だな」



 明るい調子でウルスは言うが、褒められている凜の顔色は暗い。



「……ウルスさんに全く太刀打ちできなかったのにですか?」



「身体能力が人間より優れている獣人と、初めての訓練であれだけ動ければ十分だ」



「……分かりました」



 そうは言うが、浮かべる表情は全く納得していないのが丸わかりで、その物静かな外見とは裏腹に、思いの外負けず嫌いな性格な凜を見て苦笑いを浮かべるウルス。これ以上は、何を言っても嫌味になりそうだと判断したウルスは、朔達に視線を向ける。



「――で、次はどっちだ?」



 ウルスの質問に対して、葵が片手をあげ、元気よく答える。



「はーい!今度は私が相手よ」



 凛とウルスの戦いに触発されたのか、葵の瞳には好戦的な光を宿しおり、意気揚々と木剣を振り回している。そんな、葵の様子に一抹の不安を覚え、朔が葵に声をかける。



「お、おい葵――」



 あんまり目立つようなことはするなと忠告しようとしたら、



「わかってる、わかってる!」



 と、朔の忠告を遮り、ウルスが待つ場所に向かってしまったのだった。






 葵とすれ違う形で、凛が朔の居る場所に戻ってくるのだが、すれ違いざまに見た葵の様子が気になり首を傾げる。



「姉さんのテンションが異様に高かった様な気がするんですが、どうしたんですか?」



 陽気な正確な姉ではあるが、何故このような訓練の時にあのような楽しそうな顔をしているのかが分からず、朔に聞いてみる。



 凜に質問された朔は、呆れた視線を葵に向けたまま、質問に答える。



「……多分、ウルスが思いの外強かったから、これから戦ってみるのが、楽しみなんだろうな」



「……姉さんって、そんな戦闘狂みたいな性格でしたっけ?」



「単純にストレス発散にはいい相手だと思ったんじゃないか? 丈夫そうだし」



 あまりにもあんまりな予測を告げるが、それを聞いた凜は、ああなるほど、うんうん頷く。



「確かに。それなら姉さんらしいです」



「個人的には、凛よりやや強い程度で抑えて欲しいんだが、どうなることやら」



 まあ、葵が器用に立ち回るなんて、初めから無理だったと早々に諦め、魔法の補助も無しでは、完全に身体能力で劣っている葵が、ウルス相手にどこまで通用するのかと、純粋に楽しむことにする朔だった。




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