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十四話

「――ねえ。今って何時?」



 初回の魔法講義を終え、部屋から出た葵が、外に控えていたメイドに時間の確認をする。



「丁度、お昼を回ったところです。この後のご予定は訓練場で騎士団長による戦闘訓練でしたが、先延ばしにしてもらって、昼食になさいますか?」



「昼食抜きで、激しい運動するのを避けられるのはこちらとしては嬉しいですが……決まっている予定を此方の都合で変えてしまったら、相手に悪くありませんか? 騎士団長をなさっているような方でしたら予定も多いでしょうし」



 メイドの提案に賛同したいものの、些細な事で相手の機嫌を悪くするのも避けたいため、そのような急な予定を変更しても、本当に大丈夫なのかが心配な凛が、メイドに伺う。



「そのような心配をせずとも大丈夫ですよ。確かに、急な予定の変更で気を悪くするような方も少なからずともおりますが、あの方ならそのような心配は無用です。むしろ『飯抜きで戦闘訓練にならずにすんで、此方としても助かった!』と喜びこそしても、不機嫌になることなどありえません」



 話をしているうちに、騎士団長に困らせられたことでも思い出したのか、苦笑交じりに凛が考えるようなことにならないとはっきりと答える。



「なら、お言葉に甘えさせてもらいましょうか?」



「だな」



「兄さん達もそう言ってますので、よろしくお願いします」



 三人の意見が一致し、メイドに引き連れられ移動を開始する。移動中は会話がないのも寂しいのか、葵が話題を振り、それに一つ一つ朔と凛がツッコミを入れるなどして、此処がお城の廊下などということを気にもせず、通りすがり人々の視線を集めながら廊下を歩いていく。





「――では、お料理を用意してまいりますので、暫くお待ちになさってくださいませ。途中、予定変更のご報告もありますので、多少時間がかかるかもしれませんが――」



 と、料理が遅れることについて一言詫びると、メイドは部屋から出て行った。料理が来るまでの空いた時間をどうするか考え、沈黙が続く中、今朝の葵とメイドのやり取りを思い出す。



「……そう言えば、謁見の間に向かうまでの間に、あのメイドと結構話してたよな。所々しか聞いてなかったんだが、具体的にはどんな話してたんだ?」



 備え付けられていたソファーの肘掛けの部分を枕にして寝転んでいた葵が、体勢はそのままで顔だけ朔の方を向く。



「メイド? ……ああ、ルナールのことね。話って言っても大したこと話してないわよ。私たちの召喚に立ち会った第一王子のアレックスとは別に、第二王妃が産んだ第二王子のウィリアムがいるとか、前回の召喚から二百年ぐらい経ってるとか、朔が貧民街スラムに住んでる人たちや亜人達の職場を斡旋する為に作った組織が、職業別組合ギルドって名前に変わって、この世界全域に浸透するぐらいの大組織に発展しちゃってるとか?」



「……あの短時間の間で随分と仲良くなっていたんですね」



「まあ、葵らしいっちゃ、葵らしいがな」



 後々になれば、分かるような内容ではあるが、召喚二日目にして聞き出す内容にしては、割と重大な事を聞きだしているのに、それら全てを大したことないと言い切るところが、なんとも葵らしい。



 取り敢えずいつもの事だと納得し、葵がルナールというメイドと話した話題について詳しく二人は聞くことにした。



「――それで、その二人の王子様の人物像までは聞けたのか?」



「少しだけね。――第一王子のアレックスは、召喚の時に多少話したから分かると思うけど、身分差別が激しい性格みたいね。気に食わないって理由だけで、お城を追い出されてる人も多いみたいで、彼に摺り寄る貴族以外の人からは恐れられてる存在らしいわ。それとは逆で、第二王子のウィリアムは温厚な性格で、人当たりもよくて平民にも分け隔てなく接する理想的な王子様っていう、対照的な二人みたいよ」



 葵から二人の人物像を聞き、良い評価を受けているウィリアムの話はともかく、悪い評価を受けているアレックスの事まで話しているルナールというメイドの人物像の方が気になる。



 ――気に食わないだけで追い出すとまで言われている人物の悪口を会ったばかりの人間に普通話すものだろうか?



「……あのルナールっていうメイド、お前にそんな話して大丈夫なのか? アレックス派の貴族に聞かれたらまずいと思うんだが」



「私もそう思ったんだけど、『数ヶ月前に雇われたばかりなので、そこまでこの国に思い入れもありませんので、追い出されたら追い出されたで余所の国に行くまでです』だって」



「…………見かけによらず、逞しい考え方の人なんですね」



「元々、この国の住人じゃないっていうのも、あると思うわよ? なんでも、久しぶりに会う友人と再会するまでの繋ぎのつもりで、お城で働いてるとも言ってたから」



 葵から聞く、ルナールというメイドの人物像と、先程まで話していた人物像との違いに朔は呆れてしまう。



「繋ぎで、お城の仕事って……どんだけ凄いコネがあるんだか。――それで、友人とは再会できたのか?」



「一応聞いたんだけど、『何時何処で会うか約束したのではなく、また会うことが出来たなら、今度こそ共に生きることを約束しただけで、私がこの国に来たのもその人が現れるかもしれないという噂を聞いただけなんです。

 ……それに約束から随分と経つので、もう約束したことを忘れてるかもしれないし、昔と比べて随分と変わってしまった私に逢っても気付かないかもしれないですね』なんて、寂しげな笑みを浮かべながら言うもんだから、それ以上聞けなくなっちゃった」



「約束、ね」



 誰に聞かせるわけでもなく、ルナールが交わした約束の内容に、何か思うところがあったのか、無意識にうちに朔の口からこぼれ落ちていた。



 当然、そのような小さな囁きには葵も凛も気付かず、ほんの少ししか会話を交わしていないメイドのルナールが、逢えるかもわからずこの国に来てまで、再会を願っている人物とはどのような人なのかと、思いを馳せていた。





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