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another story

今回は試しに、朔達とは違った視点で書いてみました。

 ――朔達がようやく話も終わり、寝静まろうとしていた頃、それとは別に、夜間の警備で起きている兵士以外はほとんどの者が寝静まっているであろう時間に、城の最奥で警備も付けず、二人だけで朔達の事について話をしていた者達がいた。



 一人はローブを被り、年恰好がまるで分らず、声の感じからおそらく男性であることが分かる程度。



 もう一人は、恰幅もよく、身形も整っているのでかなり高い身分の者だと分かるが、瞳が泥のように淀んでいるのが、その全てを台無しにしている男性がテーブルに向かい合うように座り、傍らに置かれているワインに手も付けずに、なにやら怪しげな会話を展開していた。




「――それで、召喚された今代の勇者はどうだった? 過去に召喚した勇者の時と同じくして、またしても余計な者がいたらしいが」



 恰幅のいい方の男性が、忌々し気にローブの男に聞く。



「――は。話を聞くに、過去の記録のように召喚の際に近くにいた者達だったらしく、さらに勇者とは兄妹関係にあるらしいです。これでは、こちらが不要と判断し、秘密裏にあの者らを暗殺しても、勇者に余計な不信感を植え付けるだけに終わるでしょう……それにまだ初見で確信を得られませんが、その兄はなかなか強かな男だと思われます。

 王子が勇者に元の世界には帰れぬと告げ、そのことにショックを受けた勇者を盾にして王との謁見を引き延ばしただけでなく、こちらを完全に信頼していないのか、三人同室の部屋を要求する用心深さや冷静な判断力だけ見れば、それだけで男が曲者だと判断するには十分な材料かと。

 それに、それだけのことが一度に起きたのにそれらの事に一切動揺せず、その男の邪魔をせず、その場に控えていただけの男の妻だという女もなかなか侮れない存在だと言えます。この二人の妹だと思えば将来性はありますが、現状ではやや勇者の方が見劣りしてしまいますな」



 詳しい話を聞いた男は、大きく舌打ちをする。



「勇者より目立つ存在か。――もしくは、勇者を守るために、あえて、自分たちに矛先が向くよう目立つよう行動していたのかもな……ふん! つくづく面倒な連中が召喚されたものよ。もし、それほどの切れ者なら、こちらはそれを確証が得られない間は、下手な手を打って、相手にそこを突かれしまう恐れがあるから、表立って動けず、あちらはその間に堂々と動き、陰で暗躍する可能性まである。召喚直後の僅かの時間でそこまで考えて行動していたなら、厄介な存在よ」



 あくまでも憶測にしか過ぎないが、現状を考えればありえないとは言い切れないのだ。逆に意識せずにここまで劣勢に立たされているのであれば、余計に怒りが沸いてくるが。

 そもそも召喚された直後の様子からして、過去の記録とは差異がある。



「本来、召喚された直後の者は混乱して、現状を本当の意味で理解できる前にこちらの言いなりになっていたらしいのですが……前回の勇者の一件から魔法陣に異常がきたしているのやもしれませぬな」



「ふん……魔法陣に異常か……もし、そうなら原因は歴史書にも書かれている勇者と共に召喚された賢者によるものかもな」



 言い切ると同時に、拳に力が入る。



「全く忌々しい奴よ! 獣人やドワーフなど我らの奴隷として扱うだけで十分だというのに、奴らに人権を与え、それを違えた時は我らを見限り、獣人達はあの憎き魔族に味方するだろうと、魔族との戦いで劣勢に立たされていた過去の王を脅して奪い取ったのも同然の人権。今ではそんな過去などなかったかのように、誰もが獣人やドワーフが、人間と同様の扱いを受けて不思議に思わない者が多くいる国に落ちぶれてしまった。それだけのことをしていながら、奴は魔法陣にまで介入していた可能性があるのか!」



 ダン! と、やり場のない怒りと拳をテーブルにぶつける。



「――いざ戦場に出れば、この世界のモノとは違う魔法を使い、勇者や魔王以外は比肩する者がいないほどの実力の持ち主。だが、真に彼の恐ろしい所は、戦闘面ではなく、その話術で王家とも対等以上に渡り合い、内側から国を変えてしまった政治面にあった、とは王家しか読めない文献に書かれている事でしたな。

 基本的に王家のためには動かず民と勇者の為にしか動かないということで、魔族以上に警戒していたのが文献の内容から読み取れます。その文献から賢者の行動を推測するに、まず間違いなく王家の利益にしかならないと判断して、魔法陣にも何らかの細工を施していたのでしょうな」



「魔王と共に、討ち死にしたと報せを聞いたときは、民は嘆き、王家は大喜びだったらしいな。当時、我も生きていたら、その者らと大喜びだっただろうよ」



 当の昔に死んだ人間の筈が、未だに口出しされているような、賢者によって造りかえられたこの国を思うと、腸が煮え返ってくる。その怒りを察し、ローブを着た男が怒りを鎮めるために本題を話しだす。



「心配なさりますな。貴方様が真の王になられた時には、賢者の呪縛など、過去のものとなり貴方が思うがままの国に生まれ変わりましょう。その為にわたくしも、より一層尽力させていただきます。――差し当たって、余計な者もいますが計画通り、勇者の召喚そのものには成功したので、次の段階に移行したいと思います」



 それを聞き、先程までの怒りはどこへやら、薄気味悪い笑みに変わり、男は笑いだす。



「くくっ。そうであったな。直にこの国は我のモノだ。面倒な連中など、どうとでもなる。

我がこの国を手に入れるほんの少しの間くらい、好きにさせてやる」



 そして傍らに置かれたままであったワインを持ち、



「すべては過去の栄光を取り戻すために」



 ローブの男も同じくワインを持ち、



「すべては過去の栄光を取り戻すために」








 ――カン、と互いのワイングラスのぶつかり響き合う音は、どこまでも届いていきそうな程、部屋中に響き渡り、それはどこか、これから騒がしい勝負の幕開けを祝うゴングが鳴り響く音とどこか重なって聞こえてきた気がした。





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