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作者: 藤堂梅

 藤堂平助の耳にある報せが入ったのは、文久三年の松の内も明けた頃のことだった。

 将軍上洛に先立ち京での治安維持を行うため浪士の募集をする、というものである。

 京では尊王攘夷の名の元、浪士による「天誅」と称した殺戮が横行していたためだ。

 だがしかし周囲の反応は冷ややかだった。

「立案者の清河八郎はあまり評判の良い人物ではない。倒幕を試みた人物というし、浪士を使って何をしようとしているのか」

 この時期、江戸での尊王攘夷はまだ倒幕には至っていない。

 江戸ではあくまで公武合体の上での尊王攘夷であり、幕府に刃を向けるなどもっての他であったのだ。

 だが多くの浪士はこの話に飛びついた。

 報酬に飛びついたものもあったが、

「攘夷攘夷と言いながらこのままでは何もせずに終わってしまうかもしれない。どんな裏があるにせよ、攘夷に関わる好機であることには違いはない」

 真剣に攘夷を考えたものもあった。

 そしてそんな言葉が平助の心を揺らす。

 この時代、攘夷という美酒が多くの若者を酔わせていた。

 平助の出入りする試衛館の道場主近藤勇が浪士募集に応じる決意をした時、平助も頭を気付けば縦に振っていた。

 平助が藤堂八座にその決意を告げると、八座はしばらく沈黙した後、

「そうか」

 とつぶやいた。

「この子はただの花屋として生きることはできん。おたかさんがな、平助が初めて竹刀を持ったときおもたそうや。お前に流れる武将の血を感じなさったんやろう。和泉守さまの側室とならんかったことを、その時だけは後悔しなさったそうや」

 和泉守とは津藩主藤堂高猷のことであり、それが平助の伏せられた父の名である。

「これをもってきなさい」

 八座は一度染井に戻りすぐに帰って来ると、持って来た長いものの風呂敷を開いた。

 それを見て平助は言葉を詰まらせる。

 それは一振りの見事な刀であったからだ。

「上総介兼重、上出来作や」

 八座は簡単に言ったが、上総介兼重は高価でそう簡単に手に入るものではない。

「上総介兼重は藤堂のお抱えやでな。私も年やし、もうこれを使うこともないやろ。平助が持っとるほうがええ」

「こんな大切なもの、いただけません」

「私はお前の親代わりをさせてもろた。ここにおる時どんなに安らいだかお前にはわからんやろな。ついお前をほんとの息子やとおもてしまうこともようあった」

「・・・・俺は、俺の父は八座さまだと思ってます」

「嬉しいことゆうてくれるな。そんなら父からの贈り物やおもてもろてくれるな」

 平助は黙って頷く。

 胸が詰まって言葉が出ない。

 同じ藤堂とはいえ血の繋がりは薄い。

 ただ平助の母であるおたかが、そして平助が気の毒だからと気にかけて、そして見守ってくれた。

 八座にはどんなに感謝しても足りない。

「家を出る時より、本日死番であると心得よ。かようの覚悟あれば物事に動ずる事はない。これを武士の真の姿とせよ」

 八座は高虎遺訓第一条を力強く言う。

 藤堂家では二百四ある高虎遺訓を家訓としており、平助も八座から何度となく聞かされていた。

 ちなみに死番とは、一番最初に突入する役目のことである。

「これに恥じんようにな」

「はい」

 平助は力強く答えた。




 そしてのちに新撰組となった藤堂平助は、御用改めの際、上総介兼重を振り回し自ら死番を務め、魁先生と呼ばれることとなる。

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