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「お母さん、とっても喜んでただわさ! もう両親公認だわよ!」
「あはは……。嬉しいけど、でもちょっと、恥ずかしいな……」
ぼくとホトトギスは、テレパシーを使って会話をするのが日課となっていた。
テレパシーを届かせるためには、宇宙船が近づかなければならない、なんて言っていたはずだけど。
ぼくたちはなんの問題もなく、テレパシーで会話を交わすことができた。
それはどうやら、ぼくとホトトギスの心が深く通じ合っているかららしい。
つまり相性抜群ということだと、所長さんは冷やかしまじりに言っていた。
ちょっと恥ずかしいけど、離れていてもこうしてホトトギスと話せるのは嬉しいことだった。
それにテレパシーでの会話だと、食事をたかられることも、食べているものが豪快に吹き出されて飛んできたりなんてこともないし。
そんなことを考えていたら。
「ちょっとアトリ、なんか失礼なこと考えてないかや!?」
怒りを含んだホトトギスの声が頭の中に響いてきた。
考えたことがそのまま伝わるというのは、時にはとっても不便だったりもするもので。
なにか失礼なこと、なんて言ってはいるけど、ホトトギスには完全に伝わっているはずだ。
「う……えっと、あははは、地球に戻ってきたらまた、いつもの食堂で一緒に食べようね」
「テレパシーじゃ、ごまかしてるのバレバレだわさ。ま、いいけどねん」
ホトトギスはそう言ってひと呼吸置くと、よりいっそう強い想いを伝えてきた。
「あちきはアトリのこと、なにもかも全部含めて、大好きだわさ!」
頭の中に直接伝わってくる愛を込めた声に、ぼくは顔を真っ赤に染める。
「もう、またホトトギスさんと話してるのね」
隣の席では、ゆりかもめがため息をついていた。
う~んやっぱり、仕事中はテレパシー会話を控えるべきかもしれないな。
「かもしれない、じゃなくて、控えろって」
セキレイからもツッコミが入った。
……って、どうしてセキレイにまで、ぼくが思ったことが伝わってるんだ!?
ま、まさか、セキレイとも激しく心が通じ合ってる!?
「アホなことを考えてるんじゃない! お前さっきから、全部口に出して喋ってるんだよ!」
容赦ない平手打ちをぼくの頭に繰り出しながら、セキレイは叫ぶ。
むう、テレパシー慣れすると、そういう弊害もあるみたいだ……。
「だからアトリ、それも言葉にしてるってば……」
再びため息をつく、ゆりかもめだった。
「あはは、そっちはそっちで、楽しくやってるみたいだわね。あちきが帰るまで、寂しいだろうけど我慢して待っててねん!」
「ホトトギスはよくそんなこと、恥ずかしげもなく言えるね」
「そんなに褒めちゃイヤン、だわさ!」
「……べつに褒めてないけど……」
結局、テレパシー会話を続けるぼくとホトトギス。
いくら上司がいない状況だからって、こんなことを続けていたら会社から解雇されてしまうかもしれない。
そう思いながらも、ついつい会話してしまうのだけど。
と、そんなぼくとホトトギスの会話に、突然別の声が割り込んできた。
「アトリくん、ちょっと話したいことがあります。いいですかな?」
「しょ……所長さん! どうしてテレパシーが伝わるんですか!? ぼくたち、恋人でも親子でもないのに!」
「いやいや、じきに親子になるでしょう? 先行投資という感じですよ」
「なんですか、それは!? 意味がわからないです!」
「あっはっは、さっきのはさすがに冗談ですけどね。ホトトギスの肩に手を乗せて、テレパシーに乗っかっている状態なんですよ」
「そんなことまでできるんですか……。結構便利かも……」
「誰でもできるわけではないですけどね。それはともかく、とりあえず近況報告を」
所長さんは急に真面目な声になって、こう語りかけてきた。
「いつになるかはわかりませんが、なるべく早いうちに、こちら側は説得するつもりです。それが無事終わったら、わたし自身はこのまま宇宙船に残りますが、ホトトギスは地球に帰そうと思います。……アトリくん、娘ををよろしく頼みますよ」
「……はい」
所長さんの言葉に、ぼくは見えないとわかっていながらも大きく頷き、固い決意を返す。
「それまでにもし浮気などしようものなら、地球は滅亡すると思っておいてくださいね。信じていますよ」
微かな笑い声をまじえながら、所長さんはそう言い放つ。
でもこの人の場合、実際にそれができる立場にいるのだ。
冗談だと笑い飛ばせることではなかった。
「あははは、気をつけます……」
答えながら、ぼくの頬を伝って冷や汗がひと筋、流れ落ちていく。
どうやら地球の運命は、ぼくひとりの肩にかかっているようだった――。
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