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「ホトトギスさん……?」
まぶしさに目を細めながらも、ゆりかもめがつぶやきを漏らす。
ホトトギスはその全身をまばゆく発光させながら、一歩一歩、ヒバリさんに詰め寄っていく。
「な……なんなのよ、あなた!?」
焦って上ずった声を向けてくるヒバリさんに対しても、ホトトギスは黙ったまま。
明らかに、普通じゃない。
ホトトギスは本当に宇宙人なのだろうか?
それとも物の怪や妖怪の類なのだろうか?
はたまた、妖精とか精霊とか……。
どうであれ、ホトトギスがヒトならざるものであるのは、間違いなかった。
ぼくは、混乱もあったけど、落胆する思いのほうが強かったかもしれない。
ホトトギスが普通の人間じゃないことは、ある程度覚悟していた。
だけど、やっぱりそんなはずはない、ホトトギスは普通の女の子だ、そう望んでいた部分のほうが大きかったのだ。
その望みは今、完全に絶たれた。
「ちょっと……来ないでよ!」
ぼくの苦悩に気づくはずもなく、ホトトギスはなおもヒバリさんに歩み寄っていく。
ヒバリさんは焦りを通り越し、恐怖に青ざめた顔で震える声をしぼり出していた。
次の瞬間、
「来るな~~~~~~っ!」
ヒバリさんはピンを引き抜き、右手につかんでいた手榴弾を――、
ホトトギスに向かって投げつけた!
もう、すぐ目の前にまで迫っていたホトトギスは、すかさず左手を上げる。
ホトトギスは難なく手榴弾をキャッチした。
そして、
ピカッ!
小さく光ったかと思うと、ホトトギスの左手に握られた手榴弾は、
サラサラサラ……。
乾いた音だけを残して、爆発することもなく砂と化し、床に散らばっていった。
「もうやめなさい」
ホトトギスはヒバリさんに語りかける。
その声は、普段のちょっと変わっているけど可愛らしい喋り方とは全然違った、神々しい響きすら持った澄んだ声だった。
「あなたにあちきを殺すことなんて、できないのだから」
喋り方こそ違うものの、いつもながらの「あちき」という一人称に、ぼくの心にはなんとなく安堵の色が広がる。
怯えるヒバリさん。
隣に控えていた雷鳥さんがヒバリさんを庇い、自分の体をホトトギスとのあいだに割り込ませる。
いつも落ち着いている雷鳥さんとはいえ、この状況はさすがに想定外だったからだろう、その身は小刻みに震えていた。
雷鳥さんはいつでもヒバリさんを支えてきた。
目の前で起こった現象に怯えながらも――自分たちにも手榴弾と同じような未来が待ち受けていると想像しながらも、雷鳥さんはヒバリさんを守ろうとしているのだ。
ホトトギスは手榴弾を砂に変えた左手を伸ばす。
ゆっくりと伸びていく左手を睨み返し、それでも雷鳥さんはまったく目を逸らす気配がない。
そんな雷鳥さんの背後に守られているヒバリさんは、今にも泣き出しそうなほどの恐怖に包まれているようだった。
おそらく伸ばされたホトトギスの手が触れた瞬間、雷鳥さんもヒバリさんもさっきの手榴弾と同じように――。
「ホトトギス、やめて!」
ぼくはとっさに叫んでいた。
ゆっくりと首をこちらに向けるホトトギス。
微かに首をかしげるホトトギスは、ぼくがなにを言っているのか、まったくわからないといった様子だった。
「確かに今回のことは、ひどかったと思う。ホトトギスを殺そうとしたわけだし、それはぼくも許せない。でも……」
ぼくは言いながら、グッとこぶしに力を込める。
「でも、そんな人たちでも、ぼくの大切な上司なんだ。未遂で終わったんだから、もうこのくらいで許してあげてくれないかな?」
力強く懇願する声に、ホトトギスは動きを止める。
ヒバリさんや雷鳥さんも目を丸くし、こちらに呆然とした目を向けていた。
いやそれは、その他の外国人や警察官たち、セキレイや純さんを含めた会社の人たちも同じだった。
ぼく本人と、そして所長さんの、ただふたりを除いて……。
懇願を受けた張本人であるホトトギスはじっとぼくを見つめ返し、しばらくなにか考えているようだったけど、やがて口を開いてこう言った。
「……うん、わかっただわさ」