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リバーシブル・アース  作者: 沙φ亜竜
第5章 エクストリーム・オペレーション
29/33

-5-

 ……。

 …………。

 ………………。


 ヒバリさんの声が響いてから、一分弱だろうか。

 緊迫した空気が流れる中、勝ち誇ったようなヒバリさんの笑みが、徐々に歪んでいく。

 なにも……起こらなかった。


「ど……どうしたの!? 早く、出てきなさい!」


 焦りをありありと浮かべた顔で、指を何度もパチンパチンと鳴らすヒバリさんの声。

 でもそれに応えてなにかが出てくるような気配は、いくら経ってもまったくなかった。


「どうしました?」


 余裕の表情で落ち着いた声を向けたのは、所長さんのほうだった。


「そうそう、言い忘れていましたが、外で待機していた部隊なら制圧しましたよ」


 ニヤリ。

 微笑みを浮かべながら、所長さんはきっぱりとそう言い放った。


 ドアの外には、警察官によって取り押さえられた外国人たちの姿が見える。

 小屋の中に突撃してきた警察官が少なめだったのは、外に回る部隊と二手に分かれたからだったようだ。


「な……っ!?」


 ヒバリさんは言葉を失う。

 隣の雷鳥さんも、表情に出さないよう懸命になっているみたいだけど、明らかに動揺しているのが見て取れた。

 これで本当に、終わりだろう。


 それにしても手際がよすぎる。

 ホトトギスがさらわれたという結論に至ってから、ぼくがヒバリさんの電話を受けてここに向かうまで、それほど長い時間がかかっていたわけではない。

 長く見積もったとしても、おそらく二~三時間程度ではないだろうか。

 それなのに警察官まで手配していたなんて。


「用意周到ですね、所長さん……。もしかして、最初から全部わかってたんじゃ……?」


 ふっふっふ。

 ぼくの言葉に、所長さんはただ笑い声を返すだけだった。


「さあ、今度こそ、観念しなさい」

「くっ……」


 小さくうめき声を発して、焦りの表情を隠そうともしないヒバリさん。


「もう終わり、ということだね……。ならば……」

「そうね、仕方がないわ」


 雷鳥さんの諦めたような声に、ヒバリさんも頷きを返す。

 本当に、これで終わりなんだ。

 そう安心しきっていた、そのときだった。


「動かないで!」


 突然、ヒバリさんが大声を張り上げる。

 その手に握られていたのは――。


「手榴弾!?」


 ぼくは思わず叫んでいた。

 一瞬にして緊張が辺りの空気を覆い尽くす。


「それも、特別製の広範囲型よ! こっちの目的は、ホトトギスさんを殺すこと! このまま心中したって構わないわ! 最終手段として指示されていたのよ!」


 そう言いながらも、ヒバリさんの顔には大量の汗が浮かび、その声は微かに震えていた。

 ヒバリさんとて、死ぬのは怖いのだ。


 当然だろう。

 過激派組織の上役からはそういう指示をされていたようだけど、それはあくまでも最終手段。

 当然ながら、そんな手を使うことなく任務を遂行するつもりで、この場に臨んだはずだ。


 ともあれ、すべての計画は阻止され、退路を断たれてしまった。

 だからヒバリさんも、それを望んでいるわけではない。

 それでもぼくたちは、動くに動けなかった。


 おそらくヒバリさんはまだ迷っている。

 とはいえ、最終手段を使わざるを得ない状況に追い込んだのは、紛れもなくぼくたちだ。


 ヒバリさんは右手で手榴弾を握り、左手の人差し指を手榴弾のピンにかけていた。

 下手に動けば、すぐにでもピンを引き抜き、手榴弾を投げつけてくるだろう。

 使命に忠実なヒバリさんの性格を考えれば、内心では迷っていても、完全にあとがない状況では任務を遂行する道を選ぶに違いない。


 汗が頬を伝って地面に落ちる。

 誰も、身動きが取れなかった。

 と、いきなりまばゆい光が、小屋の中すべてを照らし出す。


 …………っ!?


 まぶたに手をかざしながら、ぼくは反射的にその光の発生源へと目を向けていた。

 そこにあったのは――、

 全身から神々しいばかりの輝きを放つ、ホトトギスの姿だった。


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