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リバーシブル・アース  作者: 沙φ亜竜
第3章 コードネーム・ホトトギス
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-3-

「なにを悠長なことをやっているのだね、キミたちは! さっさと奴らを追い払うか、始末するかしたまえ!」


 大型モニターには、いかつい顔のおじさんがどアップで映し出されていた。

 そのおじさんは、額に青筋を立てて怒鳴りつけてくる。

 ぼくたちには、ただ呆然とその映像を眺めることしかできなかった。


 でも、はて?

 このおじさん、会社の人ではないと思うのだけど、ただ、どこかで見たことはあるような……。


 首をかしげているぼく。

 そんなぼくの様子を、右隣の席に座るゆりかもめがじっと見つめていることに気づいた。


「……アトリ、わからないの? ニュースとか見てないの? このおっちゃん、防衛大臣さんだよ~ぅ」

「え? 防衛大臣……?」


 言われてみれば、確かにテレビで見たことがあった気はする。

 だけど、その防衛大臣さんが、どうしてこの大型モニターに映っているのだろう?


「アトリくん、この会社は日本政府と密に連絡を取っているんだよ。宇宙人からの侵攻もありえるということから、防衛省が主導して対策を練っている。政府に緊急性の高い情報が届くと、さらに各国首脳へと連絡が行く、という感じのネットワークになっているんだけどね。ともかく、日本国内では防衛大臣に主導権があるんだよ」

「もっとも、防衛大臣の権限は警備行動までだから、実際に防衛のため自衛隊を出動させるといった直接行動を決定する権限は、総理大臣にしかないんだけどね」


 雷鳥さんとヒバリさんが続けざまに解説してくれた。


「……入社時にも説明されたはずだけどな」


 セキレイが呆れ顔でそんなツッコミを入れてきたけど。


 とにかく、会社と防衛大臣さんとのつながりというのはわかった。

 それでも、その防衛大臣さんがどうしてこの部署のモニターに映し出されたのか、その理由まではわからない。

 政府側との連絡というのは、会社の上層部とのあいだでやり取りされるはずなのに。


 ぼくが疑問を浮かべているあいだも、防衛大臣さんは怒鳴り声をまき散らし続けていた。


「各国の首脳陣からも、再三再四、どうなっているのかと通信が入ってきているんだぞ! なにかしらの対策を打ち出さなければ、リバーシブル・アースを主導している国として、示しがつかん! 早急な返答を求むぞ、神仙寺くん!」

「……所長さんに対しての文句のようですね」

「ええ、それに、わたしたちの声や映像は届いていないみたい」


 ぼくのつぶやきに、ヒバリさんも言葉を重ねる。


「つまり、緊急時用の全モニターへの映像送信モードになってるってことだね。政府側からは、そういう通信もできるようになっているはずだから。きっとあの防衛大臣さんが、焦ってボタンを押し間違えてしまったんだろうね」


 雷鳥さんが冷静に分析する。

 この人の場合、普段から微かに笑っているような表情だから、優しい声質で丁寧な言い方をしていても、ちょっと嘲笑気味に思えたりするのだけど。


 それはいいとして。

 現状、雛森支社にあるすべての大型モニターに、あの防衛大臣さんのどアップが映っているということのようだ。

 この通信方法の場合、返答できるのは所長室だけらしい。


「ああ、これはこれは防衛大臣殿、お待たせしました。ちょっとトイレに行ってましてね。それで、どういった用向きですかな?」


 映像には映らないけど、突然所長さんの声が響いた。

 おそらく所長室から通信を返しているのだろう。

 それにしても、あの怒り心頭な状態の大臣さんに、そんないつもどおりの、のほほんとした口調で応答するなんて。


「ちょ……っ、神仙寺くん! この非常時に、いったいなにをそんなのん気にしておるのだね!? キミがそんなふうだから――」


 ぼくの予想どおり、火に油を注いだように、防衛大臣さんは顔全体を真っ赤に染める。

 その怒声に対する所長さんの答えは……なかった。


「神仙寺くん! 聞いているのかね!?」

「ん? ああ~、ちょっと爪を切っておりましてね」

『そんなこと、あとでやれ~~~~!』


 防衛大臣さんの声と、ぼくたち第三十八対策執行部の面々の声は、不覚にもピッタリと重なった。


 終始防衛大臣さんの怒鳴り声だけが響いていた感じではあったものの、通信は終わった。

 通信の結果としては、もう少し待ってくださいな、と言う所長さんに対し、可能な限り早く事態を収拾しろ、と防衛大臣さんが命令調の言葉を放って締めくくられた。


 相変わらず、のほほんとしている所長さん。

 防衛大臣さんがあんなにも怒り心頭で通信をしてきたのだから、さすがにどうにかすべきではないのだろうか?

 もちろん所長さんにだって、考えはあるのだろうけど。


 ともあれ、新入社員のぼくには、地球の危機とも言うべき現状に関して意見するような権利なんてない。

 ここは所長さんや、頻繁に会議をしているヒバリさんや雷鳥さんといった、立場が上の人たちに任せておけばいいのだ。

 ぼくはそう結論づけ、今やるべき仕事へと頭を切り替える。


 事態は、まったく変わる気配がない。

 レベル2の宇宙人警報が発令されたまま、神素の放出は続けられ、昼間の空は常時七色に光り輝いている。

 いったいいつまでこんな状況が続くのだろう?

 ぼくはそろそろ、清々しい青空が恋しくなっていた。


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