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リバーシブル・アース  作者: 沙φ亜竜
第3章 コードネーム・ホトトギス
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-1-

 レベル2の警報が出たまま、数日が経過した。


 太陽の出ている時間帯は、神素の影響で、空が絶えず七色に輝いている。

 カラフルな光が照らし出す景色は、朝の清々しさをも軽減させていた。

 ずっと緊張の解けない状況が続いているのだから、そんな空でなかったとしても、あまり清々しくは感じられなかったかもしれないけど。


 ぼくはいつもどおり、朝の山道を歩いて会社へと向かう。

 社内に入り、第三十八対策執行部のドアをくぐると、中にはセキレイとゆりかもめがいた。

 ゆりかもめは今日も今日とて、デスクに突っ伏して眠そうにしている。

 一方セキレイのほうはというと、まだ始業前ではあるけど、先行して仕事を始めているようだった。


 ヒバリさんと雷鳥さんは、姿が見えない。

 すでに出社してきてはいるらしく、ホワイトボードには「会議」の文字が書かれてあった。

 朝から忙しそうだ。また泊まり込みだったのかもしれない。


 とりあえずぼくは、同僚のふたりに「おはよう」と声をかけながら席に着く。

 と、ゆらりとゆったりした動作で身を起こし、ゆりかもめが声をかけてきた。


「アトリ~、おはよ~……」

「おはよう、ゆりかもめ。相変わらず、朝弱いねぇ~」

「う~、だって、夜眠れないんだもん……」

「え? どうかしたの?」


 ぼくの問いに、ゆりかもめは口をつぐんでしまう。

 ??? いったい、どうしたのだろう?


「う~、超絶眠いよ~ぅ……」


 うめき声を上げると、ゆりかもめは再びデスクに突っ伏してしまった。


「ゆりかもめ……?」

「アトリ、寝かせといてやれ。……もっとも、原因はお前にあるんだろうけどな」


 不意に背後から、セキレイが話に割り込んできた。

 寝かせておくのは、まぁいいとして……。


「セキレイ、ぼくが原因って、どういうこと?」


 思わず振り向き、ぼくは聞き返していた。


「あ~、つまりだな、ゆりかもめは……」

「ちょ……ちょっとセキレイ! 余計なこと言わないでよ!?」


 ガバッとすごい勢いで顔を上げたゆりかもめが、ぼくに言葉を返そうとしていたセキレイを止める。

 さっきまであんなに寝ぼけた感じだったというのに……。


「ゆりかもめ……?」


 再び疑問符を浮かべながら、ゆりかもめに目を向けるぼく。

 ゆりかもめはそんなぼくをじっと見つめ返し、数瞬のあいだ、時間が止まったように見つめ合う。


「な……ば……べつに、なんでもないわよ~ぅ!」


 だけど、急に顔を真っ赤に染めたと思ったら、再びデスクに突っ伏すと顔を隠してしまった。


「ん~? どうしたんだよ、ゆりかもめ……」


 そんなぼくの肩に、ボンと手を置くセキレイ。


「ま、放っておけ。……それにしても、つくづく報われない奴だ……」

「え? 報われないって、ぼくが?」

「いや、そうじゃなくてだな……。それはもういいさ。それより――」


 ぼくにはいまいち、よくわからなかったのだけど。

 ともかく、セキレイはここで、話の流れを変えてきた。


「どうやら、いろいろとおかしな状況になってるらしいな」

「え? どういうこと?」


 セキレイの言葉に、ぼくは質問で応える。

 さっきまでの話も気にはなったけど、それよりもずっと気になる話題にすり替わったのだ、当然と言えるだろう。

 ぼくからの質問に、セキレイはしっかりと答えを返してくれた。


「宇宙人の話さ。コードネーム・ホトトギス。そう呼ばれてるみたいだけどな」

「コードネーム……」


 そうつけ加えることで、一応ぼやかしているのかもしれないけど、そのままホトトギスの名前で呼ばれている話……。

 ぼくはなんだか、もやもやした気持ちでいっぱいになった。

 だって、ホトトギスは宇宙人なんかじゃない、普通の女の子なのだから。

 そう思い込もうとしているだけなのかもしれないけど、どちらが現実的かを考えたら、ぼくが思い至った結論のほうが正常だと言えるはずだ。


 この会社の人間は、リバーシブル・アースに関わり、宇宙人の存在を知ってしまっている。

 だから、普通の人とは違うかもしれないけど。

 それでも、あのホトトギスが宇宙人だなんてありえないことだ。

 ぼくがもやもやとした考えを頭の中で思い描いていると、セキレイはさらに解説の言葉を続けた。


「彼女が宇宙人のスパイだとするなら、今レベル2を引き起こしている宇宙人たちとの連絡手段を持っているはずだ。ただ、そういった通信の形跡はないらしい。それは通信手段がなんらかのトラブルによって使えなくなったと仮定できる」


 その内容は、ぼくにはあまりよくわからなかった。

 でも、セキレイにしても、聞いた話をそのままぼくに伝えているだけなのだろう。


「とはいえ、強い感情によって、非常通信が発動すると考えられるらしい。もしコードネーム・ホトトギスが泣いたりすれば、それによって宇宙人本体に通信が届き、最悪の場合、地球侵略が開始される。そういった可能性も懸念されている」


 いくらなんでも突拍子もなさすぎる話に、ぼくは困惑していた。

 だけどセキレイは、至って大真面目な顔で語っている。冗談、というわけではないのだろう。


 ゆりかもめにもぼくとセキレイの会話は聞こえているはずだけど、彼女は口を挟んだりはしてこなかった。

 そんな中、セキレイの解説はなおも続く。


「その件に関して、どうも三つの派閥ができているらしいんだ」

「派閥……?」

「ああ、そうだ」


 腕を組み目をつぶりながら、セキレイは頷き返した。

 なんだか偉そうだ。

 と、いきなりセキレイは声のトーンを上げる。


「泣かすなら、仲よくしよう、ホトトギス!」

「え?」


 いきなりの大声と意味のわからない内容に、ぼくは目を丸くしながらセキレイを見据える。


「泣かすなら、仲間を待とう、ホトトギス!」


 セキレイはぼくの視線なんて気にすることもなく、大声を発し続けていた。


「そして、泣かすなら、殺してしまえ、ホトトギス!」

「殺……!?」


 突然の物騒な発言に、ぼくは思わず言葉を失う。


「以上三つが、それぞれの派閥の主張だ」


 泣かすなら、仲よくしよう、ホトトギス。

 すなわち、ホトトギスと仲よくなり、宇宙人たちのもとへ地球人が自ら出向いて友好関係を結ぼうとする、「友好派」――。


 泣かすなら、仲間を待とう、ホトトギス。

 すなわち、とりあえずこのまま彼女を泣かせたりはしないようにしつつ現状を維持し、そのうち仲間の宇宙人たちが様子を見に来るのを待つ。やがて仲間たちが来たら、そのときに改めて対策を考えようという、「保守派」――。


 泣かすなら、殺してしまえ、ホトトギス。

 すなわち、先手必勝! ホトトギスを含めて、仲間の宇宙人たちもすべて殺してしまえばいいんだという、「過激派」――。


 ぼくたちの会社内、さらには会社と密に連絡を取っている政府や各国首脳陣のあいだでは今、その三つの派閥が発生しているのだと、セキレイは語った。


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