第1話 ・はじまり・
クリスマスも近づいた都内某所の朝。
心地よい風、眩しい光、澄んだ空気、そして小鳥たちのさえずり、12月とは思えないほどの爽やかな朝。
「うわ、また遅刻かよ。」
爽やかな朝に似合わない台詞を吐き捨て自転車で爆走する少年がいる。
その少年は、他の通行人の視線も気にせず、競輪選手のごとく車道を走り抜ける。もちろん法定速度はギリギリ守られている。
この少年こそが、この物語の主人公である。
名前は徳田 俊作。
年齢は16才、身長170cm弱、都内の私立高校生の一年で、顔は小池撤兵と小泉孝太郎を足して2で割ったような顔であるのだが、イマイチあか抜けない顔である。
「あか抜けないって、なんだよ!!」
「いまさら気付いたの?おはよう、シュン。」
「ひかりさん、ご冗談を…。それにしても今日はベスト走行だったよ。」
独りで頷き、携帯電話の時間を眺める俊作。
「ちょっと、チャイムは登校開始の合図じゃないのよ。」
なぜ俺の考えていることがと言わんばかりの顔の俊作が鞄を机に放り投げ、椅子を横向きにして座る。ひかりは隣の席で横向きの方が話しやすいからである。
「こんな爽やかな朝に注意なんて、だから鉄人って呼ばれるんだよ。先生がいないからいいんだって。」
「高城先生を基準にしないで。あの人は先生だけど生徒以下なんだから。あと爽やかから程遠いあか抜けない俊作くんに、どうこう言われてないわ。強いて言うなら生徒会長として学校の風紀を乱しまくる人を見過ごすわけにはいかないんです。」
喋るスキすら与えないマシンガントークの少女こそが、この話のヒロインである。
名前は石川 光。
年齢は16才。身長160cm程、茶のセミロングのストレートの髪に、くるりと大きな瞳が特徴的な顔立ちである。痩せ型で凹凸の少ない体型である。誰が見ても明るい性格が伝わってくる雰囲気がありクラスの人気者である。
なぜ、一年生で生徒会長なのかは、次の機会で…。
「おい、説明に差別を感じるんですけど。」
「さっきから何言ってるのよ!?前から変だとは思ってたけど、やっぱりfoolね。」
「coolって……照れるじゃないか。」
「バカもここまで来ると関心の領域だわ。」
「俺はバカじゃない、ユーモアだよ。」
毎朝のように、このような光景が繰り返され、周りは喧嘩するほどなんとかとかと思っており放置である。当の本人たちは腐れ縁だと思っているからたちが悪い。
「はい、座る。」
廊下から声と同時にドアが鈍い音を吐きながらゆっくりと動く。名門私立と自負するわりにはガサツな整備である。
この廊下から入ってきた人は、先ほどの会話に登場した高城先生である。
名前は高城 祐一。
年齢は24才、身長は170cm、カールがかかった黒の髪に、小さい輪郭に対して大きなパーツの顔立ちである。生徒に間違われるくらいの童顔に、見た目通りの性格のため生徒からあまり先生と言う認識を持たれていない。
高城先生は足でドアを乱暴に閉め教壇に立つ。こんなことするから先生としての威厳が皆無になるのである。
高城先生は出席を取りHRを始める。冬休みの連絡をしているのだが生徒たちは聞いていない。そのことに、高城先生も気づいているが気にする素振りも見せずに連絡を続ける。
「最後になるけど、金髪にしようがレインボー髪やサザ○さんヘアーにしてもいいけど、警察沙汰だけは勘弁してね。先生も呼び出されるからさ。以上、解散。トリック・オア・トリート!!」
足早に立ち去る高城先生。トリック・オア・トリートはハロウィンの挨拶と知っての発言だろうか。こんないい加減な先生ではあるが意外にも生徒からの信頼は厚い。
HRが終わり俊作たちは終業式のために体育館に向かう。
明央学院は名門私立のため敷地面積が広く教室から体育館まで5分程度かかる。
全校生徒が集まった体育館は冬休みへの期待感でざわついていた。そのざわめきも終業式定番の校長先生や生活指導の先生の長い話しが始まると、幾分か静かになった。
そんな退屈な時の中で一人の少年(俊作)は意識が遠くなっていった。
終業式が終わり体育館から戻る途中。
「ひかりー、今日も完璧だったね。」
「あっ、みどり。」
声に気づき、振り向くひかり。
この少女の名前は、結城 緑。
年齢は15才、身長は160cm弱、金髪のポニーテールに、二重が特徴的な顔立ちである。ひかりの一番の理解者。
話しを戻すが、何が完璧なのかというと、ひかりは明央学院の生徒会長として全校生徒を前に冬休みの心構えについて話したのである。
「まだまだよ。緊張だってするし、生徒会長でも心は普通の女の子なのよ。」
後ろ向きで歩きながら話すひかり。階段も気にせず後ろ向きで上るのはなかなか器用である。
「えっ、生徒会長の心は鉄じゃないの!?」
前方を歩く外野こと俊作が話に割り込む。幼馴染という生き物は幼馴染をピンポイントで怒らす方法を知っている。
「次回のスピーチは、遅刻魔の不良生徒について話そうかしら。そして遅刻魔にはトイレ掃除をプレゼントする校則でも作ろうかしら。」
幼馴染という生き物は怒らす方法以外にも困らす方法も知っている。
「助けてーー。天下の生徒会長様が権力を肩に善良な生徒を脅迫しています。」
もちろん助ける者などいない。
「どこに善良な生徒がいるのかな?」
額に手を当てて探すフリをする。
勝手にヒートアップする二人。元話し相手こと、みどりは面倒なので傍観していたが口を開く。
「みんなが見ているのに恥ずかしくないの?」
我に返った二人が周りを見ると、クラスメイトたちは、くすくすと笑っている者や呆れている者が大半であった。中にはラブコメな展開に軽く殺意を持っている者までもいた。
「シュンのせいで私までバカな子って思われるじゃない!!シュンのバカ!!!」
「バカバカって!!俺はバカじゃないぞーーー。」
そう言って黙り込む二人であった。いつもより赤みがかった顔で…。
「おーい、ひかりん、シュンちゃん、どしたの?」
教室に戻っても機嫌の悪い俊作とひかりに話しかける者たちがいた。
「あれれ、返事がないよ、梨佳。こっちもないよ、美佳。うーん…あっ!!これはケンカをした後の夫婦みたいだよ。そうだよー。」
耳がピクッと動くが反論をしない俊作とひかり。
同じタイミングで同じ声が飛んでいるように聞こえるが一人ではなく二人である。その理由は名前から推測できると思うがその二人が双子だからである。
名前は姉が相川 美佳、妹が相川 梨佳。
一卵性の双子で外見はほとんど同じである。年齢は15才、身長は姉が151cm妹は150cm、茶のショートの髪に、吊り目が特徴的な顔立ちである。ひかりと同程度の凹凸の体型である。天真爛漫を地で行くため、そのことが裏目になり無邪気に問題を起こすトラブルメーカーである。
「ほんとに返事がないよ。これはケンカをするほど仲買が儲かるだね。だねー。」
「普通は「ケンカするほど仲が良い」だろ。ケンカで儲かるとか、別れさせ屋かなんかなのか。そんなことより双子はややこしくなるから二人に絡むな。自分のクラスに帰るぞ。」
「えー、ぶー、つまんない。ゆきちゃんがイジメるよー。誰か助けて。」
もちろん助ける者などいないPart2。
誰も反応しないので双子は新たな標的を求めて旅立った。
「シュンとひかりも双子と変わらないよな。適当にあしらえばいいのに、だんまりとかするとまるで真実を言われて動揺してるみたいだぞ。」
「そ ん な こ と な い わ よ ね、シ ュ ン。」
「そ う だ よ、優 希 は 面 白 い こ と を 言 う な、あ は は。」
小学校の卒業式の代表児童の言葉並みに棒読みである。
「この学校は分かりやすい奴ばっかだな。そんなことより、廊下で高城先生がな…。」
この少年の名前は今井 優希。
年齢16才、身長178cm、俊作の同じ程度の長さの茶の髪に、東山紀之似の顔立ちである。大人びた性格から俊作や双子たちの目付役のポジションになることが多い。
いよいよ明日から冬休みである。
明央学院は学業だけではなく部活や行事を重んじる校風とエスカレーター進学であることにより、冬休みでも多くの生徒が学校に登校する。
そんな賑やかな冬休みが始まる。




