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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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居場所を広げる―3

 前島サンの顔が見られない。私はあの日以来、食事の時間しか自室を出ないようになった。母は何も言わないけど、時々私をとても困った顔で見る。困らせてるのは、私。

 でも、私も困っているんだ。

私が前島サンを父だと思っていないように、前島サンも私を娘だなんて思っていないだろうし「いとこのお兄さん」くらいの仲の良さでしかないのに、家の中ではパジャマで顔を合わせてる。友達に誰かと聞かれたとき、母の夫なんて返事したらおかしいじゃない。だけど、前島サンに失礼だったことはわかってる。謝らなくてはいけないだろうか、と思うと部屋から出られないのだ。


 入浴しようと洗面室に入ったら、前島サンが歯を磨いていた。ちょっとびっくりして後ずさったら、泡を吐き出してから小さな声で呟いた。

「てまちゃん、ごめんね」

場所を占領してることかなと思ったんだけど、意味が違うのかも知れない。頭のてっぺんまでお風呂に浸かりながら、前島サンの「ごめんね」を何度も反芻した。


 日曜日には、みゅうと公園で待ち合わせして散歩した。好きな本がよく似ていて、今度本棚の見せ合いっこしようかなんて話をする。引っ越したばかりの頃に見つけた土手の桜は終わってしまったけど、

カラスノエンドウやヒメオドリコソウだけではなく、ハルジョオンやムラサキケマンが咲き始めた。とても幅の狭い川だけれど、流れは緩い。みゅうは平たい石を選んで器用に水切りをして見せた。

「お父さんにコツを教えてもらった」

そう得意げに言うみゅうが、羨ましい。


 学校ではずいぶん話し相手ができた。聡美の隣の席だと、聡美とおしゃべりに来た子が一緒に仲間に入れてくれるし、美術部に行けばクロッキーを見せ合える子がいる。部活動のない日は、下校時刻まで図書室で本が読める。出窓の隣の席に座って、目が疲れると校庭を見る。校庭で運動部のコ達が、大きな声を出しながら走り回っているのを見るのは楽しい。

 委員会の当番の日は、司書の先生に指示されながら書架の整理をする。自分の部屋で帰ってくる誰かのことを考えているより、学校にいるほうがいい。

 逃げてるのかな、と自分でも思う。



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