居場所を広げる―1
ホームルームでクラス役員を決めた。聡美は思ったとおり、学級委員に決定した。
「図書委員の立候補者はいませんか」
私、手を上げていいのかしら。複数候補で多数決とかだと、いやだな。あたりを見回して、誰も立候補者がいなかったから手を上げた。と思ったら、もうひとり。
「前島さんと相田さんね。他には?」
担任の先生が黒板に綺麗な字で板書する。じゃ、多数決でと先生が言いかけた時、相田さんが手を上げた。
「先生、引っ越したばっかりの前島さんを知らない人が多くて、多数決になりません」
「でも、全員同じ小学校から来た訳ではないでしょう?」
「このクラスで私と同じ小学校だった人はたくさんいるけど、前島さんにはいないんです」
びっくりした。多数決なら、自分でやりたい委員会に入れるのに。みんなのいる前で、先生に向かって堂々と自分が有利じゃイヤだと言った。相田さんって、かっこいい。本屋で会った時は、物静かに見えたのに。
「じゃ、ふたりで話し合って決めてください」
先生が話を譲ってくれたので、相田さんと私は教室の隅に寄って相談した。じゃんけんで、私の勝ち。
「ごめんね」
「前島さんが勝ったんだから、当然でしょ」
相田さんは静かに席に戻った。
昼休みに相田さんの席に行って、少し話した。
「相田さん、部活どこにするの?見学に行った?」
「あ、私は陸上部。走るのには自信があるし」
相田さんは何か気がついた顔になった。
「前島さん、もしかして一緒に見学に行く人がいないの?長橋さんと一緒じゃないの?」
「私、スポーツ苦手だから」
「じゃ、文化部?見学だけならつきあおうか?」
すっごく心強い。誰でもいいって言ったら失礼だけど、話し相手がいるのって嬉しい。少しずつだけど、私の居場所が広がっていく感じ。
みゅう、こと相田みゆきは、放課後の部活見学にちゃんとつきあってくれて、私は美術部に入部することに決めることができた。
「文化部が暗いなんて思ってないから」
みゅうが笑ってくれたから、ひとまず安心。
私って、単純かな。