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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤を離れて
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知ろうとする決意―1

 また、大学のサークルで今度は芋煮会をすると言う。メンバーの顔もずいぶん覚えた。きっと、聡美のほうが仲がいいけど。

「あたし、今回パス!試合があるの!」

 聡美はあっさりと言う。私ひとりなら止めとこうかなと思ったら、トオルさんが「大丈夫だから」と腕を引っ張るように言う。大丈夫って、何が大丈夫?

「俺が手毬ちゃんと一緒にいるから。そうしたら、ひとりじゃないでしょ」

 だって、それじゃトオルさんがツマラナイじゃない。私とずっと一緒にいると、友達との騒ぎに乗り遅れるでしょう。

「他の面子も手毬ちゃん連れてこいって言うし。歳上に構われるタイプだね、みんな気に入ってる」

「私、お話もしてないし、見て楽しむってタイプでもないんじゃない?」

「充分可愛い。これは、俺の欲目入りかもね」

 不意打ちに、そんなことを言わないで欲しい。コーラが気管に入りそうになるから。


 並んでベンチに座っていたら、ベンチの後ろで大きく広げたトオルさんの手が、肩にまわった。途端に自分の身体が強張るのがわかる。多分、トオルさんにもわかる筈。

 夏休みに彼と旅行に行った友達とか、キスしてるプリクラを財布に張ってる友達とかは、確かにいる。それは私にはどこか違う世界の話で、トオルさんとは全然結びついてなかった。私にも、そんなことが起こるのか。その相手は、トオルさんなのかしら。手の位置がいつもと違うだけなのに、自分の腕がどこを向いているのかもわからなくなる。

 隣で盛大にトオルさんが吹き出した。


「小さい彼女が緊張してるうちに何かしようなんて思ってないから。そんな顔しないの」

 いつものように、頭の上に乗せられる手。この手は、私の緊張を和らげる魔法の手。

「芋煮会にはおいで。他の人も友達や彼女誘ってるから。大勢の方が楽しいでしょ。」

「私、たくさんの人と喋れない」

「だから、今度は俺が一緒にいる。いろいろな人と喋れるようになろうよ」

 そう言ったあと、トオルさんはちょっと笑った。

「なんちゃってね。俺の小さい彼女を連れて歩きたいだけ」


 小さい彼女っていうのは、表現としてはどうなんだろう。幼いって言葉を言い換えてるだけなんだろうけど。

 徹さんと和を見てると、確かに小さい恋人だなと思うことはある。でも私はその言葉を知っているし、トオルさんが私の気持ちが追い付くのを、待っていてくれていることも理解してる。焦ってないから、と言って待っていてくれるトオルさんを私も大切に思いたい。


 大丈夫、間違ってない。

 本で読むような強い感情の波じゃなくても、この感情の名前は覚えた。

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