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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤を離れて
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違うんだ―3

 新学期が始まり、学校内は文化祭の準備で忙しくなった。文芸部に所属する私は何かの作品を仕上げなくてはならず、自分の才能の凡庸さに早くもうんざりする。そしてその間にも授業は進み、友達と映画を見に行ったり、和と遊んでやったりするのだ。

 トオルさんも他の用事で忙しいらしく、メールの行き来はしていても実際顔を見るのには、三週間ほどの期間があいた。寂しくないわけじゃないけど、友達の言う「無理矢理会いに行っちゃえば?」には同意できない。


 待ち合わせ場所に、トオルさんは何人かの友達と立っていた。知らない人が一緒だと声がかけにくくて、トオルさんの向きからは見やすい場所に立った筈なのに、トオルさんは友達と話すのに気が行っているらしく、私には気がつかない。

 約束の時間が過ぎているのだから、少しまわりを見回してくれれば、私はすぐに見つかるのに。十分も気がつかれないで、なんだか意地悪されてる気分。それとも私が楽しみにしてるほど、トオルさんは待っていたりしていないのかな。


 トオルさんが私を見たのは、お友達の一人が私に気がついて声をかけてくれたからだ。

「なんで声、かけないの。黙って立ってちゃわからないでしょ」

 頭のてっぺんをくしゃっと握られた時、私はすでに拗ねていたんだけど。

「だって、約束の時間過ぎてたのに。私、ずっとそこにいたのに」

「俺にだって、他に気になることはあるの。手毬ちゃんにもあるでしょ」

 それは、そうなんだけど。お友達と一緒に居るなんて言わなかったし、私との約束は私を気にしているものだと思っていたのに。私だけのことを気にしてるんじゃないんだ。



 違うんだ。「徹さんと和」と「トオルさんと手毬」は別のものなんだ。

 あれっと思った瞬間、急に気がついたことがある。よく似ている徹さんとトオルさんに、和と私を重ねちゃいけない。徹さんは和に何があっても、和を一番に守ろうとするだろう。トオルさんは?

 私は和みたいに全部預けて頼りっきりの信頼なんかしていない。少しずつ見えてきたトオルさんは、私を丸ごと受け取れるほど大きくはない。

「人見知りもちょっと直さなくちゃね」

 そう言いながら、いつも通りにポンと頭に手を置いたトオルさんに、ごめんなさいを言う。気にかけてもらうばかりで、それが当然のように感じ始めていた自分が、とても傲慢に見える。これじゃ、和と同じ。受け止めるばかりで、返すものは好きだって気持ちだけ。

 私もトオルさんが何を考えているのか、ちゃんと理解しないと対等にはなれない。


 自分に檄をとばそう。

 手毬、変わるための勇気を持ちなさい。

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