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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤を離れて
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違うんだ―2

 お盆休みに戻っている徹さんに、和はくっつきっぱなし。お散歩に、水遊びに、お昼寝につきあわされて、徹さんはちっとも休暇にならなそう。母が徹さんと話していても、和は膝の上から降りない。

「徹さん、暑くない?」

 そう聞くと、徹さんは嬉しそうに笑った。

「暑いよ。小さい子は体温高いし、ずいぶん重くなったしね」

 言葉は否定的なのに、甘い表情。



「ちょっと出かけてくる」

 サンダルのストラップを止めていると、徹さんから帰宅時間を聞かれた。

「夕飯には帰ってきます。お茶だけだから」

「あ、デートだな。てまちゃんも年頃だもんなぁ」

 それには答えないで、行ってきますと家を出た。トオルさんに会う前は、いつも少しだけ緊張して、少しだけ気持ちが上擦る。


 ふたりで向かい合って座っても、本当は共通の話題なんてなくて、私が読んでいる本の話やトオルさんのサークルの話は、その時の思いつきだ。トオルさんが勉強しているはずの建築のことは、私には理解が難しいし、私の部活動の話は理系のトオルさんにはまるで合わない。だからのんびりしたペースは、多分トオルさんが私に合わせてくれているのだ。

 バーベキューの時もプールの時も、お友達とふざけるトオルさんはノリのいい大学生だった。私と話している時の、ゆっくり相槌を打ってくれるテンポとは、少し違う。あれが本来のトオルさんなら、無理をして私に合わせているのかなと、たまに不安になる。

 

「何か別のこと考えてるでしょ」

 そう言われて、見直した視線が絡んだ。思い浮かべていたのが、はしゃいだ顔のトオルさんだったので、表情のギャップに戸惑う。

「手毬ちゃんは上の空になると、相槌打つときに俺の顔見ないんだよね」

「ごめんなさいっ!お話は聞いてたと思うんだけど」

「悩み事か何か?」

 責めているのではなく、ただ問いかける顔。

「トオルさんは私と話してて、楽しいのかなと思って」

「手毬ちゃんはツマラナイと思ってるわけ?」

 あ、ちょっとムカっときてる。これは、はじめての顔。

「ううん、そういう意味じゃなくて、私は楽しいんだけど。私、お喋り上手じゃないし、テンポ遅いし」

 トオルさんは笑うのと呆れるのの中間ぐらいの顔で、息を吐いた。

「手毬ちゃんは一生懸命言葉を選んで喋るから、テンポ遅いように見えるんだよね。俺はそこが気に入ってるんだけど」

 テーブルの上に置きっぱなした手の上に、私より少し大きいトオルさんの手が一瞬重なって離れて、私は呆然とそれを見ていた。

「恋人同士、みたい」

「そうだよ、知らなかった?」


 そう言った後、トオルさんはいきなりテーブルの上に突っ伏した。

「なしっ!今の取り消しっ!じゃなくって、えええっと」

 首まで赤い。

「カンベンして。俺だってそんなに女の子とつきあったことがあるわけじゃないんだから」

 これは「鈍い」私でもわかる。

「トオルさん、照れてる?」

「そうだよっ!たいして大人なわけじゃないんだ、俺だって」

 急に子供っぽくなったトオルさんが可笑しくて、つい笑ってしまった。まだ耳まで赤いトオルさんも一緒に笑う。

 そうか、こんな顔もするのか。緊張したり照れたりするのは、私のほうだけかと思ってた。私が不慣れなだけで、トオルさんは慣れているものだとばっかり思って、自分のことにだけ精一杯だった。

 照れ笑いのおさまらないトオルさんと、なんだか急に近くなった気がする。

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