まわりから見れば―3
花火大会に誘われて、浴衣にするかワンピースにするか散々迷った挙句、やっぱりワンピースに決めた。
「なごちゃんが音を怖がるから、まだ行けないなあ」
徹さんが眠っている和の髪を撫でながら言う。母に「帰りは送ってもらうように」と念を押されて出かける。
夜にふたりっきりで待ち合わせって、なんだかデートっぽい。鈍いと聡美に言われてから、トオルさんは私のどこを気に入ってくれているのだろうと、考え始めた。そして、私はどうしてトオルさんと一緒にいたいのだろうかと。答えなんて、わからないんだけれど。
駅から会場の川に出る道はとても混雑していて、はぐれないように必死で歩いた。トオルさんのシャツの色を見失わないように。
「手を繋ごうか?」
何度か振り向きながら私の横をキープしようとしていたトオルさんが、言葉と同時に私の手を軽く握る。空気が急に薄くなって、息が苦しい。汗ばんだ手が恥ずかしい。手を引き抜くのもおかしいみたいで、混雑の中、黙って手を牽かれた。男の子と手を繋いだことなんてないけど、こんな状態なら他の人でも、やっぱり緊張するんじゃないかとも思う。
川原に小さなビニールシートを引いて、並んで座った。
「花火、そろそろかなあ」
そう言いながら空を見上げる振りをして、自分が全力で隣に座っている人に神経を注いでいるのがわかる。自分の感情の行方が自分に見えなくて、怖い。どきどきするけど、苦痛じゃない。苦痛じゃないけど、逃げ出したいような気もする。
ポン。また、頭の上に手が下りてきた。そちらを見なくても、トオルさんが今どんな表情をしているのかは想像がつく。
大きな音と共に、夜空に大輪の花が次々と咲く。緊張が時間と共にほぐれて、花火を見て歓声が出るようになると、隣もリラックスした気配になった。
トオルさんも緊張してたのかしら、まさかね。
拍手したり、飲み物を受け渡したりするたびに、剥き出しの腕が触れる。過剰になっちゃった自意識がそこにばかり集中して、花火に対してはどこか上の空。わざと近くに寄ってるんじゃありません、みたいなアピールをしてみたりする。
いやだな。こんな私はいや。馴染みのない感情に翻弄される不安定さに、この先どれくらい耐えれば良いのだろう。トオルさんは大人なんだから、私だけが不慣れな状況に、勝手に舞い上がってるだけなのに。
最後の華やかなスターマインが終わって、ビニールシートを畳み、駅までの道を引き返す時、トオルさんは当然のように私の手を握ったまま歩いた。いやなわけじゃない、むしろ嬉しいのに私は無口になって、手を牽かれたまま歩く。電車の中は中くらいに混んでいて、トオルさんはドアの横で私を庇うように立った。お茶を飲むときのテーブル越しじゃない近さに緊張して、顔が見られない。
自宅の最寄り駅で降りれば、道は混雑しているわけじゃないのに、トオルさんはまた手を繋いだ。これにどんな意味があるのかくらいは、私も理解できる。やっぱり、そうなのか。
「手毬ちゃん、俺と付き合ってる自覚ある?」
突然そんなことを言われて驚いて目をあげると、視線が出会ってしまった。怖いから、顔覗きこまないで。
「手毬ちゃんはすっごく奥手みたいだからさ、焦ってはいないんだけど。ただ、トンビにアブラゲはイヤだからね、自覚しといて」
こくんと頷くのが精一杯で、これで良いんだろうかと考えることもできなかった。