新生活―5
朝、長橋さんと待ち合わせて学校に行った。今日は学校内のオリエンテーションだけの予定だから、帰りは早い。
「聡美って呼んでくれる?手毬って呼ぶから」
長橋さんは聡美に変わる。私も前島さんと呼ばれるより手毬と呼ばれたほうが嬉しい。
「手毬、部活決まってる?」
この中学校は、全員部活動に参加の規則がある。聡美は少年野球をやっていたので、ソフトボール部に決めているそうだ。私はスポーツは得意じゃない。
「美術部とか文芸部とかあるのかな」
「え?暗っ!文化部はよくわかんないや」
文化部って暗いのかと、ちょっとがっかりする。
道々少しずつ合流していって、学校につく頃には10人くらいで一緒に歩いた。聡美は人気者らしく、常に誰かが聡美に話しかけてる。誰と誰が同じクラスだとか、好きな男の子がどのクラスだとか、そんなこと。
私がどこから引っ越してきたのかも聞かれたので、答えた。ただ、母が結婚したからだとは言わなかった。隠したわけじゃないんだけど、何か聞かれそうでイヤ。
学校内のオリエンテーションには図書室の紹介もあった。古い学校なので蔵書も古そうだけれど、司書の先生がちゃんといるし、校庭に向いた出窓がステキだ。部活動の説明会もあった。文化部で私が入れそうなのは、美術部か華道部しかない。運動の盛んな学校らしい。とりあえず、仮入部って期間に決めればいいらしいから、保留。暗いと言われたことがひっかかって、憂鬱になった。相談する相手がいないって、結構しんどい。
帰宅してから、母が用意して行ってくれた昼食をとった後、本屋に行くことにする。待ち合わせて遊ぶような友達はまだいないし、テレビ見るのも飽きた。学校の図書室、早くカード作ってくれるといいんだけど。ジュニアコーナーの本をチェックしていたら、後ろから声をかけられた。
「同じクラスだよね?前島さんだっけ?」
顔は見覚えがあるんだけど、名前を覚えていなくて答えられない。
「私、相田って言うの。相田みゆき」
名乗ってくれると、とても嬉しい。
「前島さんは何を買いに来たの?私はこれ」
彼女が手にとった本は、私がもう読み終えたものだった。
「私、それ持ってるから貸そうか?」
「ううん、シリーズで全部買いたいから」
本の趣味が合いそうだね、と言い合って公園で一緒にジュースを飲んだ。話し相手がふたり目。