まわりから見れば―1
普段女ばかりの静かな生活は、徹さんが帰ってくる週末に賑やかになる。うっかり帰ってくるなどと口に出すと、和が頑張って起きていようとするので気をつけないといけないのだけれど。夕食の支度が少し華やかになり、母はいつもより饒舌になる。
私は、どうなのだろう。やはり嬉しいのだろうか。
徹さんと和が一緒にいるところを見るのは好きだ。全身で甘えて寄りかかる和と、それが嬉しくてよじ登られたり髪をぐしゃぐしゃにされたりしっぱなしの徹さん。恋人なんて比じゃないわねと母が笑うくらい、優しくて甘い顔になってる。何をしても嫌われたりしないって理解している和の、絶対的な信頼感。私は徹さんにそれを求めてるわけじゃないから、嫉妬したりはしない。ただ和と徹さんのいる場所にだけ、暖色の薄日が射している様に見えるのだ。
私にもかつてあったのかも知れない光景。私の父も、私をあんなに優しく見つめていたのだろうか。私にはもう望むべくもない、無条件な愛情。
トオルさんとは一週間に一度くらい、お茶を飲んだり公園を散歩したりする。デートとかつきあってるとかって感じじゃなくて、少しだけ仲の良い人かな。でも、友達っていうのも違う気がする。
トオルさんが私を誘ってくれる理由もわからないし、私がトオルさんからの電話を待つ理由もわからない。友達は「彼氏と会いたくて一秒も離れていたくない」って言うから、恋じゃないのかも知れない。違うのなら、トオルさんの顔を見たくなったり声を聞きたくなったりする、この感情の名前はなんだろう。
「何人かでプールに行くんだけど、一緒に行こうよ。バーベキューの時の友達も誘って」
トオルさんから電話があったけど、返事は保留。プールってことは、水着だ。トオルさんに水着姿を見せるのには、すっごい抵抗感。聡美に声をかけると、一も二もなく行くって返事が戻る。
「あたしにも連絡があったよ。手毬と一緒に行くって言っといた」
そうか。バーベキューの時、聡美も誰かと連絡先の交換したのか。
「でも、プールって水着だよ」
「あたしなんか、部活で土方焼けしてんのよ。手毬なんて色は白いし胸もちゃんとあるし、トオルさん大喜び」
……大喜びって、何?
「私とトオルさんって、つきあってるように見える?」
「つきあってるでしょ?お茶と散歩だけなんてテンポは手毬でしかアリエナイけど。中学生みたい」
そうか、他の人から見れば「つきあってる」なのか。中学生みたいとか言われても、他の人がどうしているのかわからないもの。
「一緒にどこかに遊びに行くとか、お揃いのアクセ買うとか」
「なんか、そういうのピンと来ない。みんな、そんなことしてるの?」
聡美にまでお子様扱いされて、ちょっと膨れっ面。大体みんな、つきあってるとか別れたとか言うけど、それってどうやって始まってるの?コクハクされたなんて言うけど、「つきあってください」って言われてすぐ、相手のことを好きになっちゃうの?
話に聞いたり本で読んだりする「恋」の気持ちと、自分の感情がどうしても噛みあわない。トオルさんがどう思ってくれているのか、聞いてみるわけにもいかない。このまま、ずっと今のようでいてはいけないんだろうか。それとも、これから激しい感情の波が、私にも訪れるんだろうか。
プールの下準備をしながら、そんなことばかり考えていた。