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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤を離れて
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桜の下で出会う

高校生編になります。

 気がついたら、四年も経っていた。和は三歳になり、私は高校の二年生になる。新婚三年めで気の毒なことに徹さんは単身赴任になった。私がいなければ、母と和はついて行ったのかもしれない。

「そんな訳、ないでしょう?私にだって仕事があるし」

 母はそう言うけれど、それだって私の大学への進学資金が重いことを知らないほど、子供じゃない。徹さんは月に二回、金曜の晩遅くに帰宅して月曜の朝早くに出発する。和が起きている時間だと後追いして泣くので、朝早いのは却って良かったと言いながら。


 昨年、徹さんと母の誕生日プレゼントを買いに貴金属店に入ったところを見ていた人がいて、援助交際だと噂になり、徹さんに生徒指導室まで足を運んでもらうような騒ぎになった。相変わらず、親子には見えない。年がすごく離れた兄っていうのが、一番近いかも。




 土手の上には桜が舞う。和を自転車に乗せて、花の写真を撮りにきた。近くにある大学の学生だろう一団が、春先の強い風の中でお花見中。あれじゃ、食べるものも飲むものも土埃にまみれてしまうだろうと思いながら写真を撮って振り向くと、和がいない。

 まさか川に落ちていないでしょうね、と慌ててあたりを見回すと、大学生たちの間に座っていた。嬉しそうにジュースなんかもらってる。

「すみません、ご迷惑かけまして」

 慌てて引き取ろうとすると、胡坐の中に和を入れていた男の人が空いた場所を指し示した。

「おかあさんも、どうぞ」


「妹です!」

 思わず、大声。大学生たちが、どよどよっと笑う。声をかけてくれた人もさすがに気まずそうな顔になった。

「ごめん、おかあさんにしてはずいぶん若いと思ったんだけど」

 横から声がかかる。

「そんな時は多少無理目でも、お姉さんって言っとくもんだぞ、トオル」

 トオル?私より先に、和が反応した。和が言うと、トオルサンじゃなくて、タオルサンに聞こえるけど。そして、ますます胡坐の中に深々と座ってしまった。


「ごめんなさい、父が徹というんです。なごちゃん、お兄さん重いよ。降りなさい」

 半分は大学生のトオルさんに、半分は和に向かって。

「いいよ、重くないし、子供好きだし。なごちゃんって言うの?何歳?」

 得意げに指を3本立てる和。

「で、お姉さんは高校生?名前だけ教えてくれる?」

 手毬、と名を教えると、変わった名前だねと返事が戻った。

「花の名前なんです」


 私は男の人と話すのがとても苦手で、いつも受け答えに構えてしまうんだけれど、なんだか楽に呼吸のできる人だ。人が良さそうで、ちょっと間が抜けてて、この雰囲気はどこかで会ったことのある人。

和が眠そうな顔になってきたので、自転車に乗せて家に戻る。家に帰って、誰だったんだろうと考えて気がついた。

 徹さんと雰囲気が似てるんだ。

 連絡先も聞いてくれなかった。もう、きっと会うこともないんだろうな。



 次に会ったのは、徹さんが戻っていた週に買い物に出たスーパーマーケットだった。大学生のトオルさんは、一瞬私に笑いかけてから、私と徹さんを見比べた。

 また、誤解されちゃう。「コンニチハ」と言っただけで通り過ぎようとするトオルさんに、無理に徹さんを紹介する。

「お花見の時はお邪魔しました。父の方の徹です」

 徹さんもトオルさんも面食らった顔をして、だけど誤解されるより、いい。

「あはは。ずいぶん若いお父さん。はじめまして」

 トオルさんが笑ってくれたので、良かったと溜息をついた。


「花見の時、連絡先を聞かなくて後悔しちゃった。お父さん、手毬ちゃんお借りしていいですか」

 徹さんが訳知り顔に頷いたのを幸い、スーパーのファーストフードコーナーにトオルさんと座った。少し話して、やっぱり楽な空気の人だなと思いながら、連絡先を交換した。

「今度、誘うから」

 トオルさんから見ると、高校生の私は子供なんだろうな。でも、きっと私は明日から連絡を待ってしまうんだろう。


 知り合ったばかりの人と上手く話せたことなんてないし、感じの良い人だなと思うだけ。だからこの先に、何があるのか私にはわからない。

 徹さんに似ているトオルさん。携帯のアドレスを表示させて見ながら、こっそりと声を思い出してみる。

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