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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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それぞれの形―1

 私にはドキドキものの言葉だったのに、母にあっさり返事をされて、拍子抜けした。

「麻子さん」

 そうやって、呼んだだけ。

「ヘンじゃない?」

「なんで?家にいる麻子は私でしょ。ママからお母さんに呼び変えた時だって、別に許可するなんて言ってないよ」

 あれ、そうだっけ。母が一人称に「私」を使うこと自体が珍しい。

「徹君が名前なのに、私にだけお母さんなのがおかしい気がしたんでしょ?いいわよ、なんだって。違う人と変わる訳じゃないし」

 ドキドキした分だけ、損した。


 母とはもう、友達みたいな親子とは言われないと思う。前島サンが生活に入ってきたことで、母がそれまで私のレベルまで降りてきて、おしゃべりや遊びにつきあってくれていたことが、よくわかった。

 対等な立場で仲が良いことと、行動そのものを同じにすることは違う。保護されていることに気がつかないほど、母は私に頼るフリをしてくれていたのだ。時々、育児休暇明けの仕事のことや保育園のことで前島サンと相談事をしている母の顔は、私に「どうしたらいいと思う?」なんて聞く時とは別の顔だ。

 大人同士の会話というものがあるのだと、改めて知った。私は、そこにはまだ入れない。


 二学期は和の泣き声と共にあっと言う間に終わり、クリスマスイブ。年末だから忙しいのにとかなんとか言いながら、前島サンは八時前に帰ってきた。前の日が祭日なんだから、無理に帰って来なくたっていいのにと思うんだけれど、「クリスマスは家族で!」と強烈に主張する前島サンのために、母は泡の出るワインを用意した。

「徹さん、高校生くらいになったら、私も友達とパーティーとかするかも」

 そう言ったら、ここでやりなさいと返事が返ってきた。保護者の前で友達とパーティーなんて、絶対にしません。


 前島サンからのプレゼントは、金の細いブレスレット。ちょっと大人っぽい。

「ありがとう、大切に使う」

 お礼を言ったら、前島サンは真っ赤になった。

「麻子さんのプレゼント買うより、迷った。使ってね」

 母が、私は付け足し?と突っ込んで見せたので、笑ってしまう。和はぱっちり目を開いてキョロキョロしたあと、話に参加してるみたいに笑った。



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