表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
41/55

遠慮がいらない―2

 前島サンと喧嘩したのは、とってもくだらない理由だった。私の雑誌が食卓に置きっぱなしになっていたので、土鍋の鍋敷きにされてしまったのだ。もちろん、普段はちゃんと鍋敷きを使うんだけれど

 ちょうどいい大きさの雑誌がそこにあるって理由で、前島サンは躊躇なく土鍋をそこに下ろした。表紙は私の好きなアイドルグループで、それに思いっきり円形の跡がついた。

「なんで私の本にお鍋置くの!」

 前島サンはまず、ごめんと謝ったけれど、その後言葉を続けた。


「でも、大事なものをそんなところに出しっぱなしにしてる、てまちゃんも悪いと思う」

「雑誌と鍋敷きは違うじゃない、徹さんが不精したんでしょ」

「ちゃんと自分の部屋に持っていかなかったてまちゃんは、不精じゃないの?」

 冷静に言い返されると、却って腹が立つ。

「じゃ、除けといてくれたらいいじゃない!」

「それに関してはごめんって言った!でも、食卓は本を置くところじゃない!」

 水掛け論ってこれのことなんだろう。


「手毬、あなたも悪い。徹君、大人気ない」

 母が途中で声を掛けてくれなかったら、テンション上がって余計なことまで言うところだった。

「兄弟喧嘩みたいなこと、しないの。ご飯にするよ」

 兄弟喧嘩?親子喧嘩じゃなくて?そういえば、母には一方的に食って掛かるほうが多いかも。で、喧嘩した後に顔をつき合わせて食事するの?

 ぶすったれた顔でいたら、前島サンが食器棚から出したお箸と茶碗を私に差し出した。仕方がないから、受け取ってセットする。その横で、炊飯器のふたを開ける母。


 喧嘩した後に普通の顔で一緒にご飯食べて、しかもその後リビングで同じテレビを見る。前島サン、お笑い番組見て笑ってるし。友達同士だって軽い口喧嘩の後ですら、すぐには一緒に座ったりできない。

 前島サンが和を抱いてお風呂に行ったとき、母に話してみた。

「徹さん、ナマイキだって怒ってないのかなあ」

「一緒に生活してる人に、いつまでも腹を立てても仕方ないでしょ。嫌ってないんなら、言いたいこと言って忘れちゃえばいいの。それで解決」

 そんなものなんだろうか。

「お母さんとだって、そうじゃなかった?」

 確かに、母にお説教されても翌日は普通に喋ってる。


「遠慮がなくなったってことだよ。お腹の中に溜めるより、ずっといいでしょ」

 それはそうだけど。

「徹君が同じ土俵で言い返すとは思わなかったけどね」

 母がくすっと笑った時、バスルームから母を呼ぶ声が聞こえた。和がお風呂を終えたので、母が受け取りに行ったのだ。そのすぐ後にやっぱりすごいスピードでお風呂を終えた前島サンが、髪を拭きながらリビングに戻る。

「てまちゃん、あの雑誌いくらだった?」

 前島サンの言葉に吹き出したのは、母だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ