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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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立場が違う―2

 結局、前島サンが不器用な手つきでオムツを替えるのを、全部見ていた。そして、ホンの何分か前の出来事なのに、もう後悔している。

 私は、なんで意地になったりしたんだろう。そして、母はなんで折れてくれなかったんだろう。なんだか悲しいみたいなワケのわからない感情の中で、私は黙って立っていた。


 手を洗って戻ってきた前島サンは、膝の上に和を乗せながら私の顔を見た。

「勉強、しないの?」

 それは本当に普通の声で、だから却って私が妙な意地を張ったことを自覚させられた。謝らなくてはいけないだろうか。私は謝るようなことをしたんだろうか。

 手毬、と母の声がした。そちらを向くと、やはり怒った表情ではない母が私を見ていた。


「何で強く言われたんだか、わからないんでしょう?」

 母の問いに、首を縦に振るだけで答える。

「お母さんとふたりだけの時は、全部手毬の都合優先だったものね。でも、もう違うんだよ。自分では何をして欲しいもまだ言えない和がいるし、徹君もいるでしょ。それが手毬の希望でいるんじゃないとしても、もう、ふたりだけの生活と同じようにはできないの」

 言ってる意味はわかるかな、と母は私の顔を覗いた。

「だからね、優先順位っていうのがあることをちゃんと考えておいてね」

 母の話はそこで終わった。そんなこと、言われなくたってわかってる。だからいつも、和を抱っこしてたり洗濯物取り込んだりしてるじゃない。口には出さなかったけれど、とっても不愉快。


「麻子さん、それはてまちゃんは理解してると思うよ」

 口を挟んだのは、膝の上に和をのせて足を揺らしながらの前島サン。

「てまちゃん、イライラしてて口答えしたくなったんでしょう?」

 ずばり言われて、それも返事に困る。

「でもね、その甘え方はまわりが不愉快になるから、やめたほうがいいよ」

 あれって、甘えたことになるの?ちょっとびっくり。

 前島サンの声は、いたって真面目だ。

「甘えるのはもちろんかまわないし、不機嫌な時があるのは仕方ないけど、向ける方向が違うでしょ」

 前島サンにこんなこと言われたのは、はじめて。

「てまちゃんがしたのは、他の人にイライラを感染させること。わかった?」


 うん、わかった。小さい声で返事したから、聞こえなかったかもしれない。自分の部屋のドアを開けて中に入ったあと、ベッドの上に座り込んでしまった。

 叱りつけられるより、ずっと響いた。間違っていると諭されたことで自覚したことがある。前島サンは、私にそんなことを言うことができる立場の人なんだ。

 叱られたり諭されたりする立場の私はと言うと。


 少なくとも、不愉快じゃない。前島サンが私を嫌ってそんなことをするんじゃないって知っているから。



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