学校に訪れる―1
文化祭の準備がますます忙しくなる。水彩画なので重ね塗りができず、パレットに作った色を紙の上にのせて調整するだけでも、どんどん時間が過ぎていってしまう。
図書委員は文化祭にあわせて委員推薦の本のレビューをいくつかあげなくてはならず、みゅうに一緒に文章を考えてもらったりしてる。
「最近、あんまり本読む時間がないの」
「それは一緒だよー。部活が終わったらヘトヘトだもん」
運動部の練習って、確かに大変そう。体育の授業よりずっと声を出してるし。
和は一ヶ月でずいぶん重くなった。そして、声が大きくなった。夜中に時々、寝室から私の部屋まで和の泣き声が聞こえる。母がキッチンでミルクをつくる気配もする。 私にまで聞こえるのに、同じ部屋の前島サンは気がつかずに寝ているとのこと。
徹君はノンキでいいわねぇ、なんてたまに母がちくっと言っていたりする。
ある日の夕食後、目を覚ましてキョロキョロする和の顔を覗き込んだら、嬉しいことがあった。もしかすると、一番乗り。
「お母さん、徹さん、なごちゃん笑ってる!」
どれどれと覗き込んだふたりの顔を見ても、和はもう知らんぷり。
「ちくしょーっ!てまちゃんに先越されたぁ!」
前島サンの悔しがり方がおかしくて、今度は私が笑ってしまった。
「まだ意味のない笑いなんだから、そんなに悔しがらないの」
母に宥められながら、和に声を掛け続ける前島サン。子供みたいだな、と思ってから気がついた。
私、和の両親が母と前島サンだって、何の苦もなく受け入れているじゃない。そして、それが私の妹だって普通に思ってる。これってもしかしたら、すごいことじゃない?
翌週に文化祭が控えている。今年は母は来ないだろうなと思っていたんだけれど。
「徹君が手毬の絵を見に行くって言ってたよ」
もちろん案内も紹介もするつもりないけど、私の絵を見に来るの?
「手毬がどんなものを描くのか、見たいんだって」
前島サンが私の絵に興味を持つってことが、自分でもびっくりする感情を引き起こした。
嬉しい。
仕上げ、頑張らなくちゃ。