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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
33/55

新しい人を迎える―6

 その夜も、とってもご機嫌に帰宅した前島サンは、祖母の用意した夕食を機嫌良くとり機嫌良く洗い物を済ませてから、機嫌良くバスルームに向かった。

「てまちゃん、相談事があるから待っててね」

 名前のことかな。嬉しさの滲み出てる背中だなあ。そんなに嬉しいものなのか。


 カラスの行水よりも早い時間でバスルームから出てきた前島サンは、やっぱり中途半端に着たシャツをひっぱり下ろしながら、麦茶をグラスに注いだ。食卓にレポート用紙を出し、あんまり上手とは言えない文字をいくつか書く。

「和」「絆」

 なんだか、両方とも今風じゃない。祖母は今日は帰ってしまったので、私の意見だけになる。母の意見はどうだったんだろう。

「ふたつに絞ったよ。和って書いてなごみ。絆っていうのはわかるよね。」

 前島サンがひとつずつ指差しながら説明する。

「お母さんと徹さんの意見は?」

「僕は、絆って名前をつけたい。だけど、あんまりダイレクトだって麻子さんに言われた」

 絆って言葉に、きっと前島サンの決意があるんだってことはわかる。


「私は和がいいと思う。お母さんは何て?」

 そう言うと、前島サンの顔が少し綻んだ。

「麻子さんと同じ意見だね。それね、麻子さんが考えたんだ」

 母らしいと思った。私が馴染めなくて困っていたことも、ちゃんとわかっていたんだろう。全員で和やかに生活する。

「多数決で決定、かな」

 前島サンは、とても素敵な微笑み方をした。

 なごみ。なごちゃん。

 前島サンは口の中で何回か転がし、私もそれに倣ってみた。なんとなくふたりともバカみたいで、でも誰も見てないんだからいいや。


 たった5日間で母は帰ってきた。これ以上はありえないくらい張り切った顔の前島サンが、迎えに行った。祖母がせっせとお祝いの支度をするのを手伝って、私もリビングを片付ける。祖父と前島サンのご両親もやってくる。

 普段3人しかいないマンションが、いきなりとても賑やかになる。賑やかな部屋の中、眠っている小さな和を囲んでお祝い。

「手毬ちゃん、お姉さんになった感想はどう?」

 前島サンのお母さんに話しかけられて、ちょっとドキドキしてしまった。

「徹は気がきかないから、よろしくね。麻子さんも女の子がいて助かったわね」

 軽く責任を持たされた気がしないでもないんだけど、「はい」と返事をした。和の顔は、産院で見た時よりずっと赤ちゃんらしくなっている。

 何日かで変わっちゃうものなんだ。



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