新しい人を迎える―5
翌日、部活をパスして駅で祖母と待ち合わせ、産院に向かった。なんか、とっても不思議な雰囲気。待合室も廊下も女の人だらけで、お部屋のほうからは笑い声なんか聞こえちゃう。入院してる人たちは、みんなブカブカのパジャマを着てる。母の部屋に行く前に、赤ちゃんが並んでいる部屋の前に行った。ガラス越しに赤ちゃんが寝ているのが見える。
あ、「前島ベビー」の札。残念だけど、顔は見えない。
「あれ、手毬。今来たの?」
母の声が聞こえた。
「もうじき授乳時間だから迎えに来たのよ。ちょっと待っててね」
部屋に入って、とても小さなキャスター付きベッドを押しながら母は出てきた。中には、小さな小さな「前島ベビー(女)」だ。
「はじめまして」
ぎゅっと握った手が、びっくりするくらい小さい。顔は、誰に似てるんだかよくわからない。くしゃくしゃ。強いて言えば、遮光器土偶。廊下を歩いていると、赤ちゃんが泣きだした。思ったよりもずっと小さい声。
母のいる部屋にベッドは4つで、私が入って行った時にはみんなパジャマの前をはだけて、胸のマッサージをしていた。どっちを向いていいのかわからない。仕方なく目をやった母の胸は、私が知っている形じゃなかった。
「手毬、消毒してる間に抱っこしてごらん」
教えて貰って、祖母にゆっくりと赤ちゃんを腕に移してもらう。自分の胸のあたりから、ミルクの匂いがふわっと立ち上った。やわらかくて、あったかい。産着の隙間から覗く足は、私の掌の半分もない。
私の、妹。今私が手をゆるめて床に落としても、彼女は文句ひとつ言えないのだ。
はじめまして、よろしくね。今度は声に出さずに呟いた。
小さな赤ちゃんは、ミルクを飲んでいる最中に眠ってしまい、オムツをきれいにした後に、新生児室に戻された。とっても名残惜しいような気分。
「名前はもう決めたの?」
祖母が母に話しかけた。
「今晩、徹君ともう一度話してから。手毬とも相談するって言ってたよ」
私も名前を決めることに参加していいの?びっくりした顔をしていたら、母が笑いながら頷いた。
「みんなで育てていくんだから、みんなで考えるの」