家族になれる―4
頭がぐるぐるする。理解できたのは「お父さん」と呼ばなくてもいいってこと。でも母と結婚したんだから、当然父なんだと思うんだけど。
「あのね、てまちゃん」
前島サンは私の顔を覗きこむように言った。
「親と子供が揃ってれば家族ってわけじゃないでしょう?違う形の家族もあるって僕は思ってるんだけど」
「よく、わかんない」
母に助けを求めようとしたんだけど、母はまた別のことを考えてるみたいな顔をしてる。指を組み合わせてその上に顎を乗せる、何かを言いたい時の母の癖。私が相談したかったのは、前島サンを何て呼べば良いかだけだったのに。ここで「家族のありかた」なんて話したくない。だって、私にはわからないもん。
「徹君、手毬が混乱してるから、その話はまた今度」
母が助け舟を出してくれたので、少しほっとする。
「手毬が徹君になんて呼びかければいいか迷ってるなんて気がつかなかった。ごめん」
母は話を本題に戻した。
「確かに、前島手毬が前島徹を苗字で呼んだらヘンだよね。名前じゃダメ?」
大人の男の人を名前でって、呼びにくい気がするんだけど。徹さん?徹君?徹ちゃん。口の中でブツブツ言ってたら、前島サンがくすぐったそうな顔をした。
「てまちゃんと麻子さんの声が似てるから、なんか不思議な感じ」
「てまちゃんが呼びたいように呼んでくれたらいい。できれば、呼び捨てじゃないほうがいいなあ」
いくらなんでも、呼び捨てにはしない。
赤ちゃんが生まれて、家族の呼び方がバラバラだと困らないかなあ。そう言ったら、言葉を理解するまでに一年近くあるよと笑われた。
「その時までに何らかの形になるんじゃない?麻子さんをお母さんと呼ぶのだって、強制じゃないでしょ?」
焦る必要はないんだからね、そう言いながら前島サンは私の髪を掻き混ぜた。子供にするみたいなことで、本当はあんまり嬉しくないんだけれど、黙って髪の毛をくしゃくしゃにされていた。
そして、ぼんやり「親と子供が揃ってれば家族ってわけでもない」ことについて考えようと思っていた。