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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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家族になれる―3

 ついでにコンビニでアイスまで買ってもらって、ぶらぶらと歩いて帰った。前島サンは私に「お父さん」と呼ばれたいのかな。私の頭の中はそれで一杯になってしまって、なんだか話が上の空。家に着いた頃には、パンクしそうだった。

「おかえり。どんな本買ったの?」

 母がソファでお茶を飲みながら話しかけてきたので、私も麦茶のポットを持ってリビングに座る。前島サンはシャワーを浴びるためにバスルームに入っていった。

 

 聞いてみなくちゃ、前島サンがバスルームから出てくる前に。

「私、前島サンのことをお父さんて呼んだほうがいいの?」

 私はとても困った顔をしたのだろう。そうねえ、と母は少し考える顔になった。

「少なくとも、前島サンはおかしいわね。手毬も前島サンだしね」

 母が考えている間に、バスルームが開く音がした。カラスの行水だね。髪を拭きながら、前島サンはリビングに入ってきた。

 

「手毬が徹君をお父さんって呼ばなきゃいけないかって言ってるんだけど」

 母があっさりと前島サンに話を振った。本人に直球で聞けないから、母に聞いてみたのに。前島サンは面食らったみたいな顔をした。

「てまちゃんが僕をそう呼ぶの?」

 そんな言葉を聞いて、私が勘違いしてたことがわかって恥ずかしくなった。

 前島サンはずいぶんと真剣な顔で私を見た。

「さっき、お父さんぽいことなんて言ったの気にした?ごめんね。無理にそう思わなくていいんだよ」

 それから、母のほうを向いて「麻子さんも聞いてね」と話を続けた。

 

「僕は、てまちゃんの保護者にはなっても、お父さんと違うような気がする。てまちゃんはもう中学生になっちゃってるんだし、僕の影響下には多分いないと思う。だから、呼び方なんて本当はどうでもかまわないんだけど」

 前島サンはそこで一息ついた。

「もうじき子供が生まれるし、僕はそれをとても嬉しく思っているから考えてたことがあってね。僕をお父さんなんて呼ぶように言ったら、僕はてまちゃんのお父さんに失礼な気がするんだ。てまちゃんのお父さんは、ずっとお父さんでいたかっただろうし、僕が横取りした形になっちゃう」

 とても真剣な口調。

「徹君は手毬の父親にはなりたくないってこと?」

 母が強い口調で口を挟んだ。

「なりたいと思って、努力もしてるつもりだけど。麻子さんもてまちゃんも、わかってくれてるでしょ?」

 うん、わかってるよ。私もそれはわかってる。

「手毬は徹君が言ったことを理解できる?」

 お鉢が私に回ってきた。相談したのは、私なのに。

 


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