家族になれる―2
8月も半ば、夕食が済んでリビングでテレビを見ていたら、前島サンに「本屋に行こう」と誘われた。そんな風に誘われたのは初めてで、当然母も一緒だと思ったら、母に立ち上がる気配は無い。
「一緒に買物に出たこと、ないじゃない。行こうよ」
そう言われてみれば、そうだな。
「ハードカバーで買ってくれれば、行く」
中学生がハードカバーの本なんか買ったら、一ヶ月のお小遣いは半分になっちゃう。マカセナサイ、とそのままビーサンをひっかけようとした前島サンを慌てて止める。
「着替えてきて!その格好で外に出ないで!」
「なんか、麻子さんがふたりいるみたい」
ジーンズにウォレットチェーンなんかガチャガチャさせてる前島サンとショートパンツの私。並んで歩いていると、どう見えるんだろう。親戚の叔父さん?サークルの世話役と会員?援助交際とかのアヤシイ関係に見えたら、気持ち悪い。
なんでいきなり、一緒に本屋に行こうなんて思ったんだろう。誰かに会ったりしたら、紹介しなくちゃいけないだろうか。あ、でも、母と一緒のときに友達に会っても「うちのお母さん」なんて言ったりしないな。そう思うと、結構気楽。そうか。隠すのと、自分から言わないのって違う。
「てまちゃん、赤ちゃんね、女の子みたい」
「生まれてないのにわかるの?」
お腹の中を見ることができるらしい。なんだか、不思議。なんだか、まだピンと来ない。
「パパだね。嬉しい?」
暗いからよくわからないけど、きっと今、照れくさそうな顔してる。
「てまちゃんも姉の立場になるんだけどね」
なんだか前島サンと母の妊娠がセットだったので、私は違うような気がしてた。でも、同じ母のお腹から産まれるのだ。妹、か。姉妹ができるって、なんかくすぐったい。
大型の書店だったので、あれこれ迷ってしまった。翻訳のファンタジーを2冊見較べて、どちらにしようか考えていたら両方買ってくれるという。
「ありがとう!太っ腹!」
「今、お腹が太いのは麻子さん。僕はまだメタボじゃありません」
「お母さんにそう言ってやろ」
会話がとても楽なのは、家の中じゃないからかも知れない。
「次から、2冊いっぺんなんてお金は出ないからね。今日は特別」
「なんで特別?」
「てまちゃんが僕につきあってくれたから」
前島サンはちょっと笑った。
「目の前で選んだものを買ってやるなんて、お父さんぽくない?やってみたかったの」
返す言葉に詰まって、抱えた紙袋が急に重くなった。