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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
23/55

友達を招く―3

「お母さん、何かお菓子ない?」

 私が部屋から出たのと、前島サンの帰宅はほぼ同時だった。両手に大きいスーパーの袋。

「何、それ全部お菓子?」

 母がびっくりした声をあげる。

「昨日の晩、テレビ見ながらそこにあったお菓子、全部食べちゃったから」

 それで出かけたのか。それにしたって、すごい量。

「そんなにたくさん食べないよ」

「うん、気がついたら籠いっぱいで。女の子がどんなの好きかわからないし」

 ちょっと困った顔がおかしい。

「ありがとう」

 素直に言葉が出たからか、母と前島サンは顔を見合わせた。


 本棚とCDラックを熱心にチェックしている、みゅうを誘って外に出ることにした。いつもの土手に着くと、クローバーの花がたくさん咲いている。小さい子じゃないから、それで冠を作ったりはしないけど。

 四葉、ないかな。

「四葉ってさ、見つけた人がラッキーなのかな。持ってる人がラッキーなのかな」

 みゅうが大真面目に不思議そうに言うので、笑ってしまう。そう言えば、そんなこと考えたこともなかった。きれいな川じゃないのに、水遊びしている人たちがいる。

 まだ、オシメしているような小さな子供とお父さん。2年後の前島サンかな。それで、びしょぬれになって帰ってきて、母に怒られたりして。その時は私もリビングにいて、一緒に笑えるといい。父と似ているっていう前島サンは、私が父にしてもらう筈だったことを、きっと私の弟か妹にするだろう。

 私はどんな気持ちでそれを見るのだろうか。


「遅くまでおじゃましました」

 みゅうが帰ったあと部屋を片付けていると、ドアがノックされて前島サンがひょいっと顔を出した。前島サンが私の部屋を覗きこむこと自体がはじめてかも知れない。今日は、はじめてだらけの日だな。

「てまちゃん、今日はありがとうね」

「なんのこと?」

 優しい顔になった前島サンは、丁寧に言葉を繋いだ。

「僕は今日、僕が家にいることがわかってても、てまちゃんが友達を呼んだことが嬉しかった。前に友達と歩いている時に声をかけたら、逃げたでしょう?今度はちゃんと家族だって言ってもらったみたいで、嬉しかったんだ」

 こういう話し方を噛みしめるように、って表現するんだっけ。前島サン、やっぱりあの時のことを気にしてたんだ。

「私こそ、あの時はごめんなさい」

 3ヶ月も経って、やっと謝れた。

「前島サン、真赤だよ」

 あ、本人に向かって「前島サン」って呼んじゃった。

「てまちゃんも赤いじゃない」

 笑いながらドアを閉めた前島サンが、気にしたかどうかは知らない。



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