友達を招く―3
「お母さん、何かお菓子ない?」
私が部屋から出たのと、前島サンの帰宅はほぼ同時だった。両手に大きいスーパーの袋。
「何、それ全部お菓子?」
母がびっくりした声をあげる。
「昨日の晩、テレビ見ながらそこにあったお菓子、全部食べちゃったから」
それで出かけたのか。それにしたって、すごい量。
「そんなにたくさん食べないよ」
「うん、気がついたら籠いっぱいで。女の子がどんなの好きかわからないし」
ちょっと困った顔がおかしい。
「ありがとう」
素直に言葉が出たからか、母と前島サンは顔を見合わせた。
本棚とCDラックを熱心にチェックしている、みゅうを誘って外に出ることにした。いつもの土手に着くと、クローバーの花がたくさん咲いている。小さい子じゃないから、それで冠を作ったりはしないけど。
四葉、ないかな。
「四葉ってさ、見つけた人がラッキーなのかな。持ってる人がラッキーなのかな」
みゅうが大真面目に不思議そうに言うので、笑ってしまう。そう言えば、そんなこと考えたこともなかった。きれいな川じゃないのに、水遊びしている人たちがいる。
まだ、オシメしているような小さな子供とお父さん。2年後の前島サンかな。それで、びしょぬれになって帰ってきて、母に怒られたりして。その時は私もリビングにいて、一緒に笑えるといい。父と似ているっていう前島サンは、私が父にしてもらう筈だったことを、きっと私の弟か妹にするだろう。
私はどんな気持ちでそれを見るのだろうか。
「遅くまでおじゃましました」
みゅうが帰ったあと部屋を片付けていると、ドアがノックされて前島サンがひょいっと顔を出した。前島サンが私の部屋を覗きこむこと自体がはじめてかも知れない。今日は、はじめてだらけの日だな。
「てまちゃん、今日はありがとうね」
「なんのこと?」
優しい顔になった前島サンは、丁寧に言葉を繋いだ。
「僕は今日、僕が家にいることがわかってても、てまちゃんが友達を呼んだことが嬉しかった。前に友達と歩いている時に声をかけたら、逃げたでしょう?今度はちゃんと家族だって言ってもらったみたいで、嬉しかったんだ」
こういう話し方を噛みしめるように、って表現するんだっけ。前島サン、やっぱりあの時のことを気にしてたんだ。
「私こそ、あの時はごめんなさい」
3ヶ月も経って、やっと謝れた。
「前島サン、真赤だよ」
あ、本人に向かって「前島サン」って呼んじゃった。
「てまちゃんも赤いじゃない」
笑いながらドアを閉めた前島サンが、気にしたかどうかは知らない。