友達を招く―2
私と前島サンがじたばたしているうちに、みゅうが母に案内されて入ってきた。すぐに私の部屋に行こうとすると、母にひきとめられた。
「まず、紹介ぐらいするものよ。お名前は聞いたことあるけど」
リビングでそんなにゆっくりしてたら、前島サンが着替え終わって出てきちゃう。できることなら、見ないで欲しい。だけど、みゅうはそんなことは知らない。
「相沢みゆきです。手毬ちゃんと同じクラスで、仲良くしてます。陸上部です」
いつも通りのハキハキした口調でみゅうは自己紹介をする。
寝室のドアが開いた。あれ、ジーンズにウォレットチェーンさげてる。どこかに行くつもりかな。
「あ、てまちゃんのお友達?ごゆっくり」
そう言ったあと、今度は母に向かって「ちょっとそこまで」と言いながら出て行った。みゅうを先に部屋に案内してから、麦茶を運んで私も部屋に入った。
「手毬のお父さん、若い!」
みゅうの第一声は予測どおりだった。部屋の中の感想とか、みゅうが持ってきたCDの話題じゃなくて。ここで聞こえないフリなんか絶対できない。言っちゃっていいかな。黙ってると余計ヘンかな。
「本当のお父さんじゃないもん。小さい時に死んじゃったから。お母さんが今年、結婚したの」
みゅうは一瞬、なんて答えたらいいのかわからない顔をした。でもその後に出た言葉は、みゅうらしいはっきりしたものだった。
「結婚したんでしょ?嘘のお父さんじゃないじゃん」
あ、そうか。本当の反対は嘘か。
「いいな、若くて優しそうなお父さん。うちなんかスイカ入ったみたいなお腹してるよ」
スイカが入ったお腹を想像したら、笑えた。
でもね、そのお父さんはみゅうが生まれてから、ずっと知ってるお父さんでしょ。私は違うんだよ。今、父だなんて思えないし、「知らない男の人」が「一緒に住んでる男の人」になっただけ。
もちろん、そんなこと口に出しては言えないけど。