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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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新生活―2

 入学式の後、教室で教科書など配布されてから、一度目のホームルームの時間があった。

「名前と出身小学校、それから軽く趣味などの紹介をしてください」

学校の先生って、無神経だ。私の出身小学校なんて、この学校で知っている人なんかいない。教室の中は既に、同じ小学校同士の固まりができている。

 私の番が回ってきた。

「前島手毬、**市の***小学校から来ました。趣味は読書です」

良かった、名字を間違いなく言えて。初めの日から、自分の名前を間違えたヤツなんて記憶されるのは、まっぴら。


 ホームルームが終わったら、隣の席のコが声をかけてきた。

「お引っ越ししたばっかり?どこに住んでるの?」

色黒の顔に、真っ黒な大きな目が柴犬に似てる。私が町名と番地を告げると、家が近いと嬉しそうに言った。

「今日、一緒に帰らない?あたしの他にも近い人、いるから」

人懐っこくて世話好き、学級委員タイプなのかな。明るい調子に安心して、一緒に帰る約束をした。

話をする相手が、一人できた。柴犬に似ている彼女の名は、長橋聡美という。


 家が近所の何人かで一緒に帰った。途中から彼女たちは私の知らない話で盛り上がり、私は曖昧に頷いているだけになった。私と思い出を共有している人たちも、同じように盛り上がっているのだろう。私ひとりが、どちらにも入れない。

「前島さんって、なんて呼べばいい?」

いきなり、話を振らないでほしい。しかも答えにくい。今まで前の名字からついたニックネームだったんだもの。

「手毬でいい」

「手毬寿司の手毬?」

そんな名前のお料理があったっけ。


 私の名前は、写真でしか知らない父がつけたらしい。春に咲く小さな白い花、小手毬の手毬だ。私に生を授けた父は、その名前を考えた後、2年も生きてはいなかった。小さな子供を連れて毎日病院に通うのは大変だった、と母はある時ポツリと言った。手毬のパパは、手毬の写真をベッドからいつも見える所に置いていた、と。



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