抗えない変化―2
連絡をしてあるとはいえ、学校に遅刻するのは恥ずかしい。2時間目が終わった中休みの時間を狙って登校した。どうしたの、なんて寄ってこられても嘘ついちゃうし。授業が終わってから、部活にも出ないでひとりで家に帰った。誰にも話しかけられないように気をつけながら。
ベッドに寝転がっていると、母が帰宅した。
「ただいま。お腹痛くない?」
私の部屋のドアをあけて、ケーキの箱を見せた。
「お茶飲もう。ちょっとだけ、お祝いしない?」
「おめでたくないもん。でも、ケーキは食べる」
そう言うと、母は軽やかに笑った。
「お母さんも、昔そう思ってた。だから、お赤飯は炊かないよ」
「お赤飯なんか炊いたら、家出する」
母と差し向かいでケーキを食べながら、私は仏頂面をしていた。
「手毬が大人になって、子供を産むことができるようになったってお祝いだからね」
そんなこと、今できなくてもいいのに。
「お母さん、女で良かったって思ってる?」
そう聞くと、母は真面目な顔をした。
「手毬を産んだ時に、そう思った。良かったって思ったよ」
答えたあと、母はとても照れた顔をして、それを見た私も照れくさくなった。
食卓をはさんで照れあう親子って、ヘン。
「さて、夕食の支度。手伝ってくれる?」
母は照れ隠しのように立ち上がった。
夕食の支度が済んだ頃、前島サンが帰ってきた。朝の件、謝らなくてはいけないだろうかと思っていたら、いきなり書店の袋を差し出された。
「会社の女の子が面白いって言ってたから。僕の好みじゃないけど、てまちゃんが読むかと思って」
渡されたものを受け取っている間に、前島サンは着替えるために寝室に消えた。
母が後ろで吹き出した。
「考えたわね」
母の顔を見返すと、笑いながら解説してくれた。
「ヤツアタリしたって手毬が気にしてたら、気まずいと思ったんでしょ」
そうか。これならアリガトウだけで済むのか。
大人って、すごい。でも、ヤツアタリだってわかってるってことは。
「お母さん、喋ったでしょ」
「喋ってない、喋ってない」
絶対、喋った。その晩、私は前島サンの顔が見られなかった。